第4話 悪役令嬢から受け継がれる力

炎に包まれた屋敷をかけ走る。


俺を救ってくれたエリスお嬢様は無事なのか?!


俺の料理を美味しく食べてくれる笑顔のお嬢様が脳裏に浮かぶ。


塩対応だけど面倒見のいいココさんの顔が浮かぶ。



いやだ。



二人とも!! 死なないでくれ!!!



こんなにも人を想ったのは初めてなんだ!!


こんなにも人に救われたのは初めてなんだ!!



だから



だから!!!



この世に神様がいるなら



どうか2人を



エリスお嬢様を



助けてくれ



俺の命の恩人なんだ!!!!!!



そして、エリスお嬢様の部屋の前にたどり着き

ドアをこじ開けた。



「エリスお嬢様!!!!」



エリスお嬢様の部屋は既に炎に包まれていた。


必死に目を動かし辺りを見てエリスお嬢様を探したら横たわるエリスお嬢様を見つけた。



「エリスお嬢様!!!!!!」



俺はすぐにかけよりエリスお嬢様の身体を起こした。


しかし



「そんな…そんな…」



胸部から刃物で刺されたように血を流し

口からも血を流し

生きているとは言えないエリスお嬢様の成れの果てを見てしまうのであった。



「うわああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」



燃え盛る炎。


屋敷に火が周り、誰も助けに来ない。


焼け死ぬには十分な熱さだ。


その燃える屋敷の中で俺はエリスお嬢様を抱えながら泣き叫ぶ。



「なんで…なんで…なんでこんなことになったんだあああああああああああ!!!!!!!!!」




救えなかった。



何もできなかった。



俺の命の恩人は



もういなくなった。



するとエリスお嬢様の身体が光出した。



「な、なんだ!?」



光が消えるとエリスお嬢様は目を開いて



「…いちいち騒ぐな。覗きスケベ男…」



「エリスお嬢様!!!」



よかった。


死んだかと思った。


もう会えないのかと思った。



「妾はもう長くはない…だから最後に…お主に託す」



え?


長くない?



「それは…いったい…」



俺は絶望と奇跡を行ったり来たりして頭が混乱していた。



「光魔法『リレイズ』。

死ぬ前にこの魔法をかけることにより

死んだ者を数分だけ生き返らせる魔法じゃ」



「す、数分!? じゃあエリスお嬢様は…」



一度死んでいるのか。


やはり俺は守れなかったのか。



「そんな…い、いやだ!!」



「わめくでないわ! 男じゃろ!」



エリスお嬢様に頭をチョップされた。



そして、火の手はみるみる広がっていき

俺も逃げ場を失った。



俺も死ぬのか。


だがこれで死ぬのも悪くない。


異世界転生して初めて幸せな気持ちになれた。


大好きなエリスお嬢様と一緒に死のう。



「さて、なぜ妾がお主を雇ったか…。

その辺りから説明しないといけないな」



初めてあったときからの思い出話か。

最後は楽しく笑って語ろう。



「お主が異世界転生してきた日本人だとわかったからじゃ」



そうか、俺が異世界転生してきたとわかったから…




ん?





ええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?





まだ死ねないと思えるぐらい驚いた。

これは続きを聞くまで死ねない!!!



「鎖ノ国から来たのかと聞いたとき鎖ノ国を知らないと答えた。

更に鎖ノ国は日本人に近い名前であるが川端誠一みたいな日本によくいる名前ではない」



そういえば鎖ノ国かどうか聞かれたな。



「しかも鎖ノ国は竜族のみの国じゃ。

身体能力が最強クラスの種族で人族とは雲泥の差。

まぁ、お主のはずじゃないと思ったのう」



まぁ、そうですね。



「そして妾の本名は雛森雫。

9年前、異世界転生してきた日本人じゃ」



……。



…え?




ええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?




衝撃過ぎて心の中で海老反りになった。




9年前



エリスの両親が亡くなってから1年が過ぎたころ。


馬車で移動中に車輪が外れて崖から落ちてしまった。


奇跡的にも生きていたという話だったが

エリス・グランベルは死んだそうだ。


変わりに雛森雫という魂が入ってきたという。


そして、雛森雫はどうやら日本でもお嬢様だったみたいで暗殺されたとか。


そして、エリス・グランベルとなった雛森雫は

転生してから使えた固有魔法『ラーニング』を扱えたそうだ。




神様。





いや、どこの誰だかわからないが。





俺が異世界転生したときなんで何も授けてくれなかったんだ。





不公平だ…。




うぅ…。




そして9年間。


その『ラーニング』と元々持っていた頭脳とセンスおかげで全属性魔法を巧みに扱えて剣技も習得していたという。


チートスキルじゃん。


そして、今の口調はこの世界のお嬢様らしく振る舞おうとして身につけたものらしい。


余計、悪役令嬢っぽくなった気がするが…。



「まぁ、お主を拾ったのは同じ日本人のよしみということじゃ。そこまで深い理由はないのう。

じゃが、お主と一緒にいる時間は楽しかったぞ。

妾は日本でも、この世界でも愛を知らずに育った身じゃ。

ココもいてくれたがココには甘えたことはない」



そうか、異世界転生する前も今もお嬢様育ちなのに幼い頃から命を狙われたり親の愛情を受けなかったのか。



俺と一緒だ。



結局、異世界転生しても人生は変わらなかった。



神様は残酷だ。



なんで俺もこの子も同じ不幸な目に遭わせるのか。

なんで俺もこの子も求めるものを与えなかったのか。



この世界に神様がいるなら恨みたい。




「お主の気さくで優しくてちょっとスケベなところ。嫌いではなかったぞ」



「……はは…スケベは余計ですよ…エリスお嬢様…」



ほほに雫が伝う。

俺は半笑いしながらエリスお嬢様の話を聞く。



「そろそろ時間じゃ…」



そろそろ時間か…。


逃げ場のない炎。

熱さで意識がモウロウとしてきた。

これで終わってしまうのか。


でも、良い人生だった。

そう言える最後だ。



「妾の固有魔法『ラーニング』をお主に譲渡する」



そうか、時間がないからエリスお嬢様の固有魔法を俺に譲渡する…




え?




え?




「エリスお嬢様の固有魔法を俺に譲渡する?」



「そうじゃ…妾の『ラーニング』で習得した魔法を使ってお主に譲渡する。

妾はもうダメじゃが…お主は助けられる。

妾の魔法を使ってここを打開しココを助けるのじゃ」



そんなことが可能なのか…。

しかし、俺にできるのか?

エリスお嬢様は助からないのか?


俺はココさんを助けなきゃと思いながら

目の前の残酷な現実を受け入れられずいる。



「でも…でも…エリスお嬢様は…」



「妾を想う気持ちは嬉しいぞ…。

じゃが、亡き者より生きている者を救え。

命令じゃ」



合理的だ。


しかし、



「いつまでもメソメソするでない!

男であろう!」



怒られた。


しかし、サラリーマン時代に上司に怒られたものとは違う。


厳しく。

優しく。

温かい。


…そうだな。

こんな小さい子に怒られて…。

俺は情けない…。


覚悟を決めよう。



戦う覚悟を!

生きる覚悟を!



「エリスお嬢様…。お願い致します。

そして…さようなら…」



「頼んだぞ誠一…『メタフォラ』」



エリスお嬢様は最後の力を振り絞るかのように

俺に魔法を託した。



『メタフォラ』。

自身の魔法を一つだけ譲渡する固有魔法。

エリスお嬢様は固有魔法『ラーニング』を俺に受け継がせた。



『メタフォラ』を使用したエリスお嬢様の身体は光に包まれて、俺の身体に宿った。


そして、エリスお嬢様の身体は消失した。


そのとき俺の身体に焼けるような痛みと苦痛が駆け巡る。



「うおおおおぉ!?!?」



更に『ラーニング』を譲渡すると追加効果がある。


それは、俺が今まで受けてきた魔物や野党の攻撃スキル。

エリスお嬢様とのトレーニングで受けた魔法。


全てが扱えるようになった。



その副作用のせいか

全く魔法が扱えなかった俺の中に

とんでもない魔力量が流れ込んできたため

身体が暴走している。



そして、頭も割れるように痛い。


今までの戦闘の経験や記憶も一緒に流れ込んできた。



「う…おええええええええええええ!!!」



あまりの気持ち悪さに吐いてしまった。


のたうち回った後

やっと落ち着いてきた。



「はぁ、はぁ」



魔法なんて使ったことはない。

だがわかる。


エリスお嬢様の戦闘経験が。

俺に攻撃したことがあるスキルが。


全て教えてくれる。



「ココさん…今行きます」




一方その頃、



黒装束に包まれた暗殺者たちと戦うココさん。



「はぁ…はぁ…」



もう限界で立っているのもやっとだ。



「…ふ、私も…ここまでか…」



更に剣も折られて絶体絶命。

容赦なく襲いかかる暗殺者たち。


戦いを諦めたその時、







「氷魔法『コールドランス』!!』






氷魔法『コールドランス』。

4本の大きな氷の槍を作り出し攻撃する魔法。

俺はその氷の槍でココさんに襲いかかる暗殺者たちを貫いた。



「は、初めて魔法使えた…」



ちょっと腰が抜けそう。


異世界転生して2年半。

初めて魔法が使えたのだ。



「セーイチか!」



ココさんは俺が魔法を使ったこともそうだが

エリスお嬢様はどうした?

と聞きたい顔をしていた。



「はい、ココさん!

聞きたいことは山ほどあると思いますが

こいつらを片付けたら話します」



ちょっとよそ見をしたすきに

暗殺者の一人が毒矢を飛ばしてきた。



グサッ



「くっ!」



「セーイチ!」



俺は反射的に毒矢を左手でガードした。

身体には刺さらなかったが左手に刺さった。


俺はヒザをついてしまう。


そして一斉に暗殺者たちが襲いかかる。



「……雷魔法『ビガ』」



雷魔法『ビガ』。

右手から雷を放出して複数の敵を攻撃する魔法。


俺は瞬く間に暗殺者たちを倒していく。


そう、さっき毒矢で倒れたのはフェイクだ。



「エリスお嬢様は強い。

だがこの毒矢は魔封じと麻痺を合わせた毒だ。

これに油断して身動きの取れなくなったエリスお嬢様を暗殺したのだろう。今の俺には効かん!!」



固有魔法【ラーニング】


受けるだけで全てのスキルを習得する魔法。

受けるだけというのは瀕死になるほどのダメージはもちろんのこと、ノーダメージ、または剣で間接的に受けるのも条件に入り、習得には1分のタイム楽がある。


スキルとは、剣術、拳法、魔法、気、霊法、呪術などである。


更に毒などのステータス異常系を受ければ1分で耐性がつく。



「お嬢様が…」



あ、思わず口が滑ってしまった。

ココさんには後でゆっくり話そうと思ったのに。



「…セーイチ…お嬢様の仇を取ってくれ!」



「……分かりました!」



最初会ったときはなんの取り柄もないおっさんだと思っていただろう。


ココさんは自分の非力さでエリスお嬢様を守れなかった悔しさを俺に全てを託したと感じた。



「来い!! このクソ野郎ども!!」



そして、戦闘が始まった。



「固有魔法『サーチ』」



固有魔法『サーチ』。

半径100mまで生物を感知する魔法。

そして、範囲を絞れば敵がどこにいてどこから攻撃を仕掛けるか精密に知ることができる。



「見える! 見えてるぞ!」



毒のついたダガーで首をはねようとしたり

ダガーを投げて急所を刺そうとする暗殺者たち。


固有魔法『サーチ』のおかげで全て避けることができた。



「風魔法『ウィンドウジャベリン』!!」




更に的確に敵を攻撃できる。



風魔法『ウィンドウジャベリン』。

風で作った4本の大きな槍で攻撃する魔法。



「自分の毒をくらいやがれ!

毒魔法『ヴェノム』!!」



毒魔法『ヴェノム』。

口から毒液を吐いて攻撃する魔法。


魔物っぽい魔法だが俺がさっき受けた毒を混ぜることができる。


暗殺者の一人に顔が当たり、完全に溶けた。


…かなりやばい毒だな…。



俺の多彩な魔法で翻弄する暗殺者たち。



「うおおおおぉ!!!!!」



そしてあっという間に倒していく。



これが戦いというものなのか。

これが命のやり取りというものなのか。


初めて感じた言葉にできないこの感覚。


必死に生きるため暗殺者を殺す俺。

必死に生きるため俺を殺そうとする暗殺者。


暗殺者たちだって任務を失敗したら殺させるだろう。


その中にも好きで暗殺家業をしているとは限らない。


どちらもただ生きようとしているだけ。

どちらが悪いとか簡単に割り切れない。


それでも俺は、大切な人と想いを守るため

血を浴びる。



「はぁ…はぁ…」



初めての殺し合い。

初めての魔法。

初めて人を守り抜いた。


暗殺者たちを全員倒した後

今までに感じたことのない疲労感に襲われて

俺は倒れた。



やがて雨が降り、屋敷の炎は全て消えてく。


その雨はまるで深い悲しみを表すように


いつまでも

いつまでも


降り続けるのであった。

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