イスの日常1

 

 学園を卒業し学園で様々なことを学んだイスは、自身の世界作りに没頭していた。


 既に学園で学んだ事を生かして様々な建築物を作っており、死と霧の世界には数多くの建築物が並んでいる。


 特に目立つのは、氷の城。


 イスが何ヶ月もかけて細かく作り上げた城は、正しく学園で学んできた事の最高傑作だった。


 「んー、上手くいかないの」


 イスはそう言いながら、枯れてしまった芽を見て首を傾げる。


 イスが目指すこの世界の形は、全ての衣食住をこの世界だけで完結させることだ。


 住居は氷で全て作れるので問題ないが、食と衣に関しては氷で全てが賄える訳が無い。


 寒さに強い動物を連れてくるにしても彼らが生きるための食料が必要になり、また健康面から野菜を育てるのは必須出会った。


 しかし、中々上手くいかない。


 凍った世界で植物作るのは、かなり難しいことである。


 「何がダメだと思う?」

 「........愚考ながら申しますと、寒さに強い植物ではなかったのでしょう。先ずは寒さに強い植物や野菜を育ててみるのはいかがでしょうか?」

 「んー、寒さに強い植物かぁ........種はリーゼン辺りから取り寄せてもらおっと」


 この世界の住人であるモーズグズは、“首を傾げて悩む主様超可愛い”と思いつつも枯れた芽を摘み取っていく。


 モーズグズやガルムにとってイスは神にも等しく、イスの命令であればたとえこの命が尽きようとも構わない。


 そんな絶対的な忠誠を捧げるお方が、こうして可愛らしく悩む姿はモーズグズにとってヨダレものだった。


 もちろん、だらしない顔をするとイスがドン引きするので顔だけはキリッとしているが。


 「動物も連れてこないと行けないけど、食料の安定確保ができないと動物の餌も作れない。まだまだ先が長いね」

 「住居に関しては、イス様とご友人様方のお陰で素晴らしいものが出来上がっています。もう少しですよイス様」

 「ガル」

 「気遣いどうも。一定の範囲内を暖かくする魔道具を使ってこれだと、寒さ以外にも問題がありそうなんだよね........」

 「久々にご友人方に会いに行くのはどうでしょうか?もしかしたら、いいアイディアが浮かぶかもしれませんよ」

 「んー、そうする。パパとママに言ってこなくちゃ。片付けよろしくね」


 イスはそう言うと、この世界から姿を消す。


 霧に隠れてイスがこの世界から消えるまでの間、モーズグズとガルムは頭を下げ続けた。


 「楽しそうですね。イス様」

 「ガル」

 「趣味を見つけたのはいいことですが、ちょっと没頭しすぎな気もしますけど........」

 「ガル........」


 イスが建築物を作っている時は酷かった。


 あまり何かに熱中することがなかったイスは、自分の世界を作ることに大ハマり。


 寝る間も惜しんで建築をし体調を崩した為、仁と花音に怒られる程である。


 イスの世界で正座させられながら怒られていたのだが、そのとばっちりがモーズグズ立ちにも来たとなれば笑うしかない。


 割と放任主義な親であるが、怒る時はちゃんと怒るんだなとモーズグズは感心したほどである。


 「イス様がやり過ぎないように監視しろと言われましても、私達、基本的にイス様には逆らえないんですけどね」

 「ガルゥ」


 モーズグズはそう言いながらも、怒られてシュンとしている主様も可愛かったなと思いつつ、枯れた芽を摘むのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 「リーゼンとメレッタの所に遊びに行く?」

 「うん。今日から1週間ぐらい、首都に行ってくるの」


 普段通りの暇な日を過ごしていたある日、イスがドタバタとやってきて急にそんなことを言い始めた。


 イスの数少ない友人であるリーゼンお嬢様とメレッタとは、学園を卒業してからも交流がある。


 こんなお転婆娘と仲良くしてくれるリーゼンとメレッタは、俺からしてもかなり有難い存在だ。


 そんな友達に会いに行くと言われれば、止める理由もない。


 「そうか。気をつけて行ってこいよ」

 「わかってるの。それに、どうせベオークが付いてくるでしょ?」

『どうせってなんだよ。どうせって。ワタシはイスがやらかさないように監視するの』

 「後はパパとママに私の状況を報告する為なの」

『過保護がすぎる』

 「アハハハハ........」


 辛辣なベオークに愛想笑いを浮かべつつ、俺はマジックポーチから金の入った袋と検問に並ばなくても良くなる通行証をイスに渡す。


 別にイスが友達の家に遊びに行くのはこれが初めてではない。


 少し心配なところもあるがベオークが万が一の時は止めてくれるだろうし、何よりイスが少しづつ自立しているのだ。


 俺達親が、それを止める権利はない。


 今でも“パパとママ大好き!!”とファザコンとマザコンを拗らせている子ではあるが、もう時期俺達とも一緒に寝なくなる日が来るかもな。


 この成長を喜びつつも、悲しくなる感覚を味わいながらも、俺はイスの頭を撫でる。


 反抗期が来てないだけマシか。


 “死ねクソジジィ”とか言われたら、冗談抜きで1週間は寝込む。


 イスはこのままパパママ大好きっ子で居てくれ。


 「気をつけてな。リーゼンとメレッタにあまり迷惑を掛けるなよ」

 「分かってるの。2人ももう働いてるから、そこまで迷惑になることはしないの」


 学園を卒業してからは、皆それぞれの道を歩む。


 リーゼンお嬢様は奪い取った店の経営やら、元々経営していた料理店の経営、更には建築関係にも手を伸ばしている。


 メレッタはリーゼンの元で働き、建築関係の技術者兼責任者として様々な活動をしていると報告で読んだ。


 ........ウチの子もどこかで働かせた方がいいかな?


 とか思いつつも、一応俺達も傭兵団として仕事をしているので(最近は全くしてない)、働いてはいるだろう。


 あの二人よりも圧倒的に暇だが。


 「あれ?イスどこか行くの?」

 「あ、ママ!!今からリーゼンとメレッタの所に行くの。お土産とかいる?」

 「要らないかな。別に行こうと思えばいつでも行ける場所だし、欲しいものもないし」


 部屋に入ってきた花音は、イスに抱きつかれながらそう言う。


 花音もイスには甘いようで、頭を優しく撫で、更には抱き上げてぐるぐると回っていた。


 「そうなの。それじゃ、面白そうなものがあったら買ってくるの」

 「よろしく。リーゼン達に迷惑かけないようにね」

 「はいなの!!それじゃ、行ってきます!!」

『バーイ』


 イスはそう言うと、元気よく部屋を飛び出す。


 俺も花音も、そんなイスの後ろ姿を見て“大きくなったな”と思うのだった。

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