日帰り帰宅
花音と黒百合さんが作ってくれた夕飯を美味しく頂き、人々が寝静まる少し前に街を出る。
拠点に帰るのは四日ぶりか?思ってたより短いが、新しい事を始めたためか一日が長く感じたな。
俺達はイスの背中で揺られながら、移動する時間も勿体ないということで報告書に目を通していた。
「ちょっ、風が........よくイスちゃんの背中の上で報告書に目を通せるね」
「慣れだよ慣れ。あと数年もすれば、黒百合さん達も余裕で報告書に目を通せるようになるさ」
「翼で風をガードすれば良いんじゃない?そうすれば、少しはマシになると思うよ」
「おー、副団長頭いいー」
花音の助言を聞いて、ラファと黒百合さんは天使の羽根を背中から生やす。能力の無駄遣いに見えるが意外と風を防げるようで、結局拠点に帰るまで天使の姿のままだった。
ヴェルサイユ宮殿のような立派な拠点が見えてきた頃、まだまだある報告書を影の中にしまい込んで俺達は拠点に降り立つ。
イスの気配を察知していたのか、大勢の出迎えが来てくれた。
「おかえりジン。どう?あっち生活は」
「ただいまアンスール。それなりに楽しいよ。傭兵の仕事と並行してやると滅茶苦茶大変だけど。教師の仕事が終わってから報告書を見ないといけないからな。寝る時間が遅くなる。それに、天使達との戦いに向けて自分磨きしなきゃならんから、さらに大変だ」
「それは大変そうねぇ。人間の体は不便で仕方がないわ。三ヶ月ぐらい寝なくても生きていけるだけの体力を付けたらどうかしら?」
「俺に人間をやめろってか?辞めれる方法を是非とも聞きたいな」
「我が団長殿を眷属化すれば人間を辞めれるぞ。まぁ、団長殿を眷属化するのは我の命にも関わるのであまりやりたくは無いがな」
アンスールとの会話に入ってきたストリゴイが、とんでもない提案をしてくる。
人間を辞めて吸血鬼になるとかDI〇様じゃねぇか。その内ザ・ワールドとか使えるようになるぞ。
「いや、やらなくていいよ。俺はなんやかんや言って人間の自分が好きだからな。別に吸血鬼になりたくも無いし」
「そうだろうな。吸血鬼になったらなったで不便も多い。人間の体になりたいとは思わぬが、人間の体が羨ましいと思った事は何度かあるしな」
「ゴルゥ!!」
「わっぷ!!マーナガルム、そんなに寂しかったのか?」
ストリゴイと話していると、マーナガルムがストリゴイとアンスールを押し退けて俺の元にやってくる。
今日は会話の間に割り込んでくる奴が多いな。
俺はそう思いながら、マーナガルムのフサフサの毛並みを撫でてやるとマーナガルムは気持ちよさそうに喉を鳴らして甘えてきた。
昔はここまで甘えん坊じゃなかったんだがなぁ。歳月というのは、魔物の性格すらも変えてしまうらしい。
「あら、随分と好かれているわね。厄災級魔物として人々に恐れられる姿とは到底思えないわ」
「フハハハハハ!!我らも団長殿に手懐けられた口だろう?マーナガルムの事は言えんさ」
「それもそうね」
「ゴルゥ、ゴルゥ!!」
「アハハハハ!!顔を舐めるなよ。擽ったいだろ?」
暫く甘えてくるマーナガルムだったが、数分もすればササッと離れて大人しくお座りをする。
以前、俺に甘えすぎて花音の逆鱗に触れかけた事があった際に、マーナガルムは学んだのだ。
多少甘えるならともかく、度が過ぎると殺されると。
そう言う花音はどうかと言うと........
「フェンのおなかモッフモフー」
「ガルゥーガル?」
「やっぱり高級ベットでも敵わないよねぇ、この感触は。フェンを外に連れ出せたらベッドとして使えるのに........眠くなってきた」
寝転がったフェンリルのお腹に乗って、そのまま寝ようとしていた。
おいおい、フェンリルのもふもふを感じるのは結構だが、寝るのはダメだろ。俺達は今日中に首都に帰らないと行けないんだぞ。
俺はマジでフェンリルのお腹の上でうとうとし始める花音を無理やり起こすと、本題であるニーズヘッグに逢いに行く。
途中でダークエルフ三姉妹や獣人組とも出会い、軽く話をしたため想定よりもかなり遅くニーズヘッグの元に辿り着いた。
「お、来ましたか。おかえりなさい団長さん」
「ただいまニーズヘッグ。それで?
「えぇ、私たちにとっても有難い提案です。簡単に言えば“一緒に天使共と戦わないか?”という提案です。どうしますか?」
なるほど。確かに俺たちからすれば有難い提案ではあるが、何事も疑ってかからなければ足元をすくわれる。
確か、不死王は死体を集めていたはずだ。天使共との戦いのさなかで、後ろからグサリなんてことも考えられる。
俺に有効的な攻撃手段があるかは知らないが、そう考えていてもおかしくは無い。
「その不死王は信頼できるのか?確か、ニーズヘッグとは知り合いだったよな?」
「えぇ、古くからの知人ですよ。そうですね。信頼できるかどうかで言えば、今回の提案は信頼できると思います」
「理由は?」
「不死王の目的は天使共の抹殺です。彼はそれだけを考えて、この時を生きてきたと言っても過言ではありません」
「........それ、ダメじゃね?」
天使共の抹殺。つまり、黒百合さんとラファも殺すということでは無いのだろうか。
流石に団員である黒百合さんとラファを殺させる訳には行かない。拠点に待機してもらうという手段もあるが、黒百合さんの存在は不死王に話してしまったと記憶している。
なるほど、道理で黒百合さんの話をした時に少し変な仕草をした訳だ。
いくら天使共を殲滅するとはいえ、仲間を失っては意味が無い。この提案は断るべきだろう。
俺がそう結論をだすと、ニーズヘッグが待ったをかけた。
「待ってください団長さん。恐らく、団長の考えていることにはならないかと」
「なぜ?」
「不死王の目的は“自らを女神の使徒と名乗る不届きな天使”を殺すことであって、“ただの天使”を殺すのは目的じゃないからです。
「........不死王は知っているのか。天使が女神の使徒では無いという事を」
「知っています。知っているからこそ、彼は不死王となったと言っても過言ではありませんので」
なにか含みのある言い方だが、今は追求するのは辞めておこう。
それにしても、天使の真実を知っているのか。そして、女神を貶す天使達に鉄槌を、というわけだ。
これは実際に会わないと分からないな。本人の口から、話を聞くとしよう。
「不死王に連絡は取れるか?」
「大丈夫です。子供達を預けるのは流石に辞めましたが、彼の瘴気を辿るのは容易いですから」
「よし、なら........二日後に向かうとしよう。教師の仕事がない日だからな」
「団長さん、大変そうですね。教師の仕事をしながら傭兵団の管理なんて」
「大変だけど、楽しいよ。人生は一度きり何度から、やりたい事はやっておかないと」
「寿命の短い人間らしい考え方です。私なんて“いつでも出来るから後でいいや”になりますよ」
その“後でいいや”が君達の場合数万年とかになるんだから、厄災級魔物の時間感覚は狂ってる。
俺はそう思いつつも、他の魔物達と会話を少しした後首都に帰るのだった。
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