教皇選挙
既に歓迎会の準備はされているし、人混みに酔ってグロッキーだったイスも元気になったからだ。
龍二は仕事があるらしく、俺達の拠点には遊びに来れないらしい。
では休暇は何時かと聞いたら、休暇は基本的にアイリス団長と過ごしたいんだとか。
なんだろう。親友の照れ臭い笑顔を見ると、イラッとする。
思わずパンチが出るのを我慢した俺は偉い。ノーベル平和賞受賞間違い無しだ。
「さて、帰るか」
俺がそう言って部屋を出る直前、誰かが部屋のドアを叩く。
知ってる気配だ。
俺が扉を開くと、そこにはメイド服........では無く騎士の格好をしたルナールさんが立っている。
もう監視の必要な無いもんな。
個人的にはメイド服の方が似合ってると思うが、流石にそれを口にするほど空気の読めない男ではない。
「ルナールさん。なんの御用で?」
「教皇様がお呼びです。ジン様、カノン様、イス様、旧友との会話は一旦切り上げて来て貰えますか?」
「教皇の爺さんが?報酬は受け取ったし、何か話ってあったっけ?」
後ろにいる花音に聞くが、花音も心当たりが無いようで首を横に振った。
もちろん、イスにも心当たりは無い。
「あのおじいちゃんの事だし、世間話でもしたいんじゃない?ほら、私たちってあんまり気を使わないから話しやすいでしょ」
「なるほど、あの爺さんなら十分に有り得るな」
とりあえず、呼ばれているなら行くとしよう。
仮にも、この神聖皇国の頂点に立つお方の呼び出しを断る訳にはいかないしな。
「悪いな黒百合さん。少し出発を遅らすことになりそうだ」
「いいよいいよ。私はその間ラファちゃんと待ってるから」
「シュナちゃんと待ってるよー」
ヒラヒラと手を振る大天使様達の見送りを受けながら、俺達はルナールさんの後について行く。
基本あまり話さないルナールさんなのだが、この日は少し饒舌だった。
「ありがとうございました」
「ん?何が?」
「正教会国他の戦争で、救われた兵士が多いので」
「身内でもいたのか?」
「はい。弟が1人。唯一の家族です」
もちろん知っている。団長格の家族構成ぐらい、子供達が調べるのは朝飯前だ。
ここで知っているフリをすると面倒そうなので、知らないフリをしながら会話を続ける。
「そりゃ良かった。俺達は救ってやろうなんて気はサラサラなかったけどな」
「知っていますよ。短い期間でしたが、あなた方と一緒にいて身に染みています。初めてでしたよ?人数が足りないからって監視の私に“人生ゲーム”とやらをやらせたり、暇つぶしと言ってオセロとかいうゲームをやらされたり。仮にも第四団長である私をなんだと思ってるんですか」
文句を言っているようだが、その言葉からは暖かいものを感じられる。
これが俗に言うツンデレですか(違う)。
3人だとどうしても人数が余ったり、足りなかったりするのだ。
ババ抜きなんかも、正直あまり面白くない。
人数を増やすために当時俺達を監視していたルナールさんを無理やり参加させたりしたのだが、どうやらその事が彼女には新鮮に映ったみたいだ。
割と楽しそうにやってた覚えがあるけどね。ちなみに、オセロにルナールさんはハマって居ることを子供達の報告によって知っている。
結構楽しそうにオセロをやっていたので、プレゼントしてあげたのだ。今は弟君とやっている。
そういえば、6年近く経ったというのに誰も異世界の定番とも言える知識夢想してる奴が居ないんだよな。
龍二辺りはオセロなんかを作って金儲けしそうなのに。
この世界は娯楽が少ない。オセロとか絶対流行るだろう。
後は将棋と囲碁か。この二つはルールを覚えるのが面倒なので、流行らないかもしれないが、少なくとも1分もあればルールを覚えられるオセロは万人受けしやすい。
ルールは簡単なのに、ゲームは奥が深いからな。
“ルールを覚えるのに1分、オセロを極めるのは一生”なんて言われる程。
「龍二名義でオセロを売るか。金は要らんし、結婚祝いに不労所得を渡してやるのとか良くない?」
「それ、多分龍二に怒られるよ。“俺の名前を勝手に使うんじゃねぇ”って」
そうかな?意外と喜んでくれると思うのだが........流石にサプライズでやるのは非常識が過ぎるな。
今度会った時に話してみよう。それなら問題ないはず。
しばらくルナールさんと話しながら歩くと、教皇の爺さんがいる部屋に辿り着く。
いつもの執務室とは違い、来賓を迎えるための部屋だった。
ルナールさんは扉をノックすると、教皇の返事が来る前に開ける。
え?それいいの?と思う間もなく、ルナールさんはズケズケと部屋に入っていった。
「教皇様。御三方をお連れしました」
「うん。それはいいけど、私の返事を待とうよ。我、教皇ぞ?」
「すいません。急ぎで頼むと言われていたので」
悪びれる様子もなく、ルナールさんは形だけ頭を下げる。
この人、意外と不真面目だな。
俺も人のことは言えないが。
教皇は何を言っても無駄だと察すると、軽く頭を押えてからルナールさんに退室を促す。
ルナールさんは俺達にぺこりと頭を下げた後、部屋を速やかに出ていった。
「下があんな感じだと教皇も大変だな」
「普段は真面目なんだがな........さて、話しに入ろう」
少し遠い目をした教皇は、直ぐに切り替えるととある資料を渡してきた。
えーとなになに........これは教皇選出戦の資料だな。
教皇は一通り俺達が資料に目を通したのを確認すると、話し始める。
「私もいい歳だ。この戦争の事後処理が終わると同時に引退する」
「そうだな。それで?」
「そうなると枢機卿の中から新たに教皇を選ぶ訳だが、その選ぶ方法を知っているか?」
「ここに書いてあるな。神聖皇国所属の司教以上の位を持つ者による投票だって」
「そうだ。私もこの方法で選ばれた」
「んで、俺達に何をさせたいんだ?」
早く帰りたい俺は、さっさと本題を話せと促す。
神聖皇国に所属しない俺達に、一体何をやらせたいのだろうか。
「今、教皇に選ばれる可能性がある者は2人いる。フシコとラバートだ。2人共あった事があるだろう?」
フシコさんは言わずもがな、教皇の右腕として働く有能枢機卿だ。
俺達にも優しく接してくれる人であり、偶に話す彼の雑学は結構楽しい。
ラバートさんは........ほぼ絡みがない。確か、かなりの狂信者だと言うのは知っている。
記憶に残らない程度にしか会ってないから、正直わからん。報告書ではよく見る名前なんだがな........
「ラバートさんとやらは記憶にないけどな」
「私も無いねぇ。興味無いし」
「誰なの?」
「何度か顔を合わせたんだがな........まぁいい。その2人が教皇になりうる候補だと思ってくれ。それで本題だが、フシコを勝たせたい。何とかならんか?」
随分と直球だな。
「いいのか?仮にも教皇がそんなこと言って」
「普段なら言わん。だが、奴は魔物を極端に嫌うのだ。下手をしなくとも、奴が教皇になればお主らと敵対するぞ」
あー、そういえば、ラバートさんは魔物嫌いで有名だったな。
なるほど、たとえ厄災級魔物であろうと喧嘩を売りかねないから困っているのか。
下手をせずとも魔王認定されるだろう。魔を従える者として。
そして、敵対すれば神聖皇国が滅ぶ事を教皇は知っている。
そりゃ、フシコさんを勝たせたいわけだ。俺達のヤバさを彼も少しは理解しているだろうしな。
「分かった。手を貸そう。とりあえず、不祥事とか調べればいいか?」
「まだ選挙までは時間がある。頼む」
教皇はそういうと、静かに頭を下げるのだった。
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