神正世界戦争:幻魔剣vs豪鬼②

 早急に作られた闘技場。観客は誰一人としておらず、沸き上がる声援も無い。


 滝のように降り注ぐ雨の中でも燃え盛る炎だけが、彼らの行く末を見守る中エドストルの復讐は始まった。


 「オラァァァァァァァ!!」


 雨水をはじき飛ばしながら前進するは、“豪鬼”の二つ名を持つ猛者。


 かつてとある戦場で暴れ、その姿が“鬼”のように勇ましく震え上がることから付けられた。


 ゴルゼインはその名に相応しい気迫でエドストルに接近すると、自身の体格と同じほどの大きさを持つ大剣を愚直に振り下ろす。


 よわい60年とは思えない怪力によって振り下ろされた大剣は、的確にエドストルの脳天を目掛けて落ちて行ったかのように思えた。


 しかし、その剣がエドストルに当たることは無い。


 振り下ろされた大剣は虚空を斬り、雨の混じった地面を跳ねあげるだけである。


 「何?!」

 「昔、この能力を見破られいとも容易く皆を殺されたが........今となっては見破ることもできないんですね。貴様が衰えたと言うのもありますが、私が強くなりすぎた」


 エドストルは、その場から1歩も動いていない。


 ただ、ゴルゼインが剣を振り下ろす際に自分の居る場所を少し錯覚させただけだ。


 かつては破られた自分の異能。しかし、エドストルはその頭の良さと鍛え上げられた魔力によってゴルゼインの抵抗力レジストをも上回った。


 「ゴッ........!!」


 確実に捉えたと思っていた相手が真横におり、隙だらけの状態を晒してエドストルが見逃すはずもない。


 その場で手に持つ剣を振り下ろせば、勝敗は決していただろうが、エドストルはここで済ませるほど優しい男ではなかった。


 無造作にゴルゼインの脇腹を蹴りあげ、肋骨を1本だけへし折ると言う器用な事をする。


 蹴り挙げられたゴルゼインは、小さく嘔吐くと泥の中を転がってへし折られた脇腹を抑えつつ大剣を構えた。


 「ハハッ、痛てぇじゃねぇか」

 「痛い方向に折りましたからね。これは殺された村長の分です」


 エドストルはそう言うと、ゴルゼインの視界から消え去る。


 目で追えないほどのスピードで迫ったエドストルは、的確にゴルゼインの水月に拳をめり込ませた。


 メキメキと嫌な音を立て、ゴルゼインは再び吹き飛ばされる。


 「カハッ........」

 「これは殺された友人の分」


 反応すら出来なかったゴルゼインは、相手との格の違いを悟ると同時に自分の死を確信する。


 相手は復讐の鬼。同じ鬼と呼ばれる者としての本能が、自らの死を告げていた。


 横隔膜の動きが瞬間的に止まり、ゴルゼインは胃液を吐き散らしながら呼吸困難になる。


 何度も咳き込み、胃液を吐き出し涙目ながらようやく呼吸を取り戻したその時には目の前にエドストルが立っていた。


 「これは殺されおばちゃんの分、これは殺されたおじさんの分、これは殺された姉さんの分」


 ゴス、バギ、ゴキ、と人が奏でるには少し鈍い音が何度も何度も響き渡る。


 相手を気絶させず、痛みを確実に与え続けるエドストルの打撃は、ゴルゼインの戦意を確実に奪っていった。


 足がへし折れ腕がへし折れ、それでもなお許されない“死”。


 何度も何度も殴られ、叩きつけられ、へし曲げられ、次第に人間としての形を保てなくなっていく。


 「う........あ........」

 「これは殺された母の分」


 まともに話すことも出来ず、恐怖すら抱けなくなった頃、エドストルはようやく剣を抜いてゴルゼインの両足を切り落とした。


 泥に混じる血は赤黒く染まり、エドストルの憎悪を表しているようにも見える。


 既に戦意を削がれ、痛みが麻痺してきていたゴルゼインは切り落とされた自分の両足を見ても騒ぐことは無かった。


 エドストルはそれでも復讐の手を止めることは無い。


 「これは殺された父の分」


 両腕を切り飛ばし、肉だるまになりさがったゴルゼイン。


 悲鳴もなく、ただただ死を待つ人形にエドストルはトドメを刺した。


 「最後に私の分」


 ゆっくりと振り下ろされた剣はゴルゼインの首を捉え、血飛沫を上げて泥の中を転がる。


 無惨にも殺されたゴルゼインは、一切の抵抗も許されず一方的に殺されたのだ。


 泥の中に混じる血。長年夢見た仇を殺したエドストルは、転がったゴルゼインの頭を踏みつぶすと天を見上げる。


 止む気配のない雨の中、エドストルが何を思ったのか。それは本人にしか分からないことではあるが、少なくとも仮面の奥に隠された顔はどこかスッキリとしている。


 「なるほど、確かにこれはスッキリしますね。団長さんや副団長さんが拘ったわけだ」

 「おつかれ」


 空から敵兵を牽制し続けていたシルフォードは、ひとつの生命が終わったことを察知するとエドストルの横に降り立つ。


 チラリとエドストルの後ろに転がる死体に目をやると、人と言うには無理があるほどにまでぐちゃぐちゃになっていた。


 「スッキリした?」

 「えぇ。とっても。この天気にはそぐわない程の清々しさです。精神が浄化されるなんて言葉がありますが、実感すとは思いませんでした」

 「多分、使い方間違ってると思うけど、無事に終わったなら良かった」

 「えぇ、それで。残りはどうしますか?」

 「もちろん始末する。あ、死体の頭は?向こうに投げ込んだら士気を下げれそうなんだけど」

 「踏み潰しちゃいました。というか、シルフォード1人で全て始末できたのに、なぜ生かしているのですか?」

 「私達が戦果を上げすぎるとやっかみを受ける。多少は味方にも花を持たせるべき」

 「今更過ぎる気もしますけどねぇ。主に、団長さん達が暴れすぎているせいで」


 彼らの主である団長は、“黒滅”という二つ名を付けられてかなり上機嫌である。


 上機嫌すぎて戦場で大暴れし、たった1人で一個師団を壊滅させてしまったりとかなりやりたい放題していた。


 シルフォードは半笑いすると、エドストルの肩に手を置く。


 その顔は仮面によって隠されてはいるが、きっと全てを諦めた顔をしている事だろう。


 「団長さんに期待するな。あの人、楽しくなると周り見えないから」

 「それはいつもでしょう?振り回される身にもなって欲しいですがね」

 「それは──────────」


 突如として現れた殺気、その場に居ることが死に直結すると本能が告げる。


 シルフォードとエドストルはその場を素早く飛び退くと、さっきまで居た場所に斬撃らしき何かが通過した。


 「どうやら私達が“あたり”を引いたみたい」

 「その様ですね。出来れば団長さんのところに行って欲しかったですが」


 2人は斬撃が飛んできた方を見据える。


 とてつもない殺気は、徐々に膨らみシルフォードとエドストルでも迂闊に手を出せないと判断する程だった。


 「ほっほっほ。これは楽しめそうじゃのぉ」


 正教会騎士団第一部隊の中から顔を出す老人。その横には疲れきった顔をした青年がいた。


 シルフォードもエドストルも知っている。


 人類最強と名高い剣士。


 その名も“剣聖”。


 雨が頬をつたり落ちる中に混じる汗。1歩でも間違えれば待っいるのは死だ。


 「団長さんが来るまでは耐えないとね」

 「時間にしてどのぐらいですかね?」

 「最長5分。それまで耐えれば、私たちの勝ち」


 幻魔剣&炎帝vs剣聖。


 人類最強との戦いが今始まる。

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