人生ゲーム
山のように積み上がった報告書を午前中になんとか片ずけた俺と花音は、イスと遊んでいた。
遊びを強請る事を覚えたイスは、俺や花音の迷惑にならない範囲で“遊んで!!”と強請ってくる。
この世界に生まれ落ちてから約五年。賢いし、空気も読めるいい子だから忘れがちだが、イスはまだまだ子供なのだ。
「うげっ!!家が燃えた!!火災保険入ってないからこれは死ねるぞ........」
「やった!!これでパパは脱落なの!!」
「おっ、仁が死んでる。これはラッキー」
『最近勝ちすぎだから、これは良し。ざまぁ見やがれ』
「あらあら、これはジンが最下位かしら?」
俺達が今やっているのは、古い記憶を呼び起こして再現したなんちゃって人生ゲームである。
所々異世界風にアレンジしつつ、前の世界の人生ゲームを基盤としたこのゲームは、何気にこの傭兵団の中では人気が高かった。
大人数でやれるし、頭を使う必要もあまりない。
それでありながら、結構時間が潰れるのでいい暇つぶしになるのだ。
囲碁や将棋、オセロなど色々とやってきたが、イスの食い付きがよかったのはコレである。
ちなみに人生ゲームの定番であるルーレットは、慣れると出したい目を出すことが出来てしまうので、公平を期すために子供達の1人が私情を挟むことなく勝手に回してくれることになっていた。
最初は自分で回していたのだが、イスやベオークも慣れると自分の出したい目を出せるようになってしまって、ゲーム性が無くなってしまった為に仕方がなく取られた措置である。
そのおかげで今俺は死にかけているんだけどね。
無事、家が燃え、火災保険に入ってなかった俺は死亡。勝つのは絶望的になってしまった。
「くっそー。自分で回せたら億万長者になってるのに........」
「それやったら、みんな同じ目を出して1番手を取った人の勝ちになるからダメってなったでしょ?何故かみんな人生ゲームにハマって、必勝法を探し出したんだから」
「おかしいだろ。なんで人生ゲームでそこまでガチになるんだよ。初めて聞いたぞ。人生ゲームの必勝法を探し出すとか」
「シルフォード達と、どの目を出せば勝てるか一生懸命考えたの!!そして、理論値出せば1番手が負けないことも分かったの!!」
「いや、胸を張って言うことでは無いからね?それと、人生ゲームに理論値とかあるのかよ」
「1番いい職業は王様なの!!無償でお城が手に入るし、お給料もいいの!!」
『でも、理論値を求めると冒険者の方が良かったりする』
だから聞いたことねぇよ。理論値とか。
ドヤ顔でこの人生ゲームの攻略法を語るイスとベオークに呆れていると、それを聞いていたアンスールは興味深く頷く。
しかも、顔がかなりマジである。
もしかして、アンスールも理論値を求めていらっしゃる?
そうなると、花音はどうなのかと思って視線を向けたが、花音は俺寄りの思考のようで“理論値”と言う、人生ゲームでは絶対に聞かないであろう言葉に困惑していた。
「このゲーム、理論値なんてあるんだ。今度作る時はもっと複雑にした方がいいかな?」
「だったら現代風TRPGで作るか。やったことないし、ルールも分からんけど」
「それを一から作るんじゃない?ルールも物語も全て自分達で作り上げるんだよ。コレも1種のTRPGみたいなものだし」
「........団員全員で考えたら楽しそうだな。今度暇そうにしてる奴らを連れて考えるか」
ぶっちゃけ現代(前の世界)風なTRPGとか全く構想が思い浮かばないので、異世界(この世界)風の話になってしまうだろうが、ステータスという概念が無いこの世界で自分の能力を数値化して割り振るというのは斬新で面白く映るだろう。
僕の考えた最強戦士なんかが作れるのは、けっこう楽しいかもしれない。
後でイスやら他の団員に話を聞いて、感触が良さそうなら作ってみるか。作り方も知らないし、ほんの僅かな知識しかないけど。
そんな雑談を楽しみつつ、人生ゲームは着々と進んでいく。
「あぁぁぁぁ!!私の貯蓄がぁぁぁぁぁ!!」
「ふふふ、悪いわねイス。金貨は貰っていくわよ」
アンスールが大人気なくイスから金を巻き上げたり、
「え?!ちょっと待って、それは死ねるって!!」
「ぷははは!!花音も死んだな!!ようこそ借金地獄へ!!」
花音の会社が倒産して借金地獄になったり、
「うっわベオークの野郎、アーティファクト手に入れてんだけど。しかも、それ最高額のやつじゃねぇか!!」
『これが運命力の差........ゴチ』
ベオークがとんでもない上振れを見せ、一気に億万長者になったかと思ったら........
『はぁぁぁぁぁぁ?!アーティファクトを全部失った?!』
「やったぞ!!ベオークの資産が総崩れだ!!アイツ現金あんまり持ってないから、勝ち目がある!!」
「私たちは借金地獄でそれどころじゃないけどねー」
「あっ、そうだった」
アーティファクトを全部失って資産が吹っ飛んだりと、かなり盛り上がりながら楽しく人生ゲームを進めて行った。
そして、最終的な勝者は──────────
「フッ、私の勝ちね」
終始安定した立ち回りを見せたアンスールであった。
運要素がかなり強くはあるが、多少実力が現れるように設計されたこのゲームでアンスールは勝ち上がったのだ。
「むぅ、アンスールにお金を取られなかったら買ってたのに........」
2番はイス。
イスも終始安定していたのだが、アンスールにぶんどられた金が響いで2番となってしまった。
「よしよし、ギリッギリでプラスだ」
そして3番は俺。
火災保険に入らないとか言うアホな事をして、案の定家が燃えた俺は、それでもなんとかプラスに持ってきた。
ありがとう職業冒険者。上振れ引いてくれたおかげで、ギリギリ借金返せたよ。
「うーん、私の会社が潰れたのが痛すぎたかなぁ........」
4番は花音。
会社が倒産して借金地獄になってしまった花音は、その借金を返すのが難しすぎてマイナスのまま終わってしまった。
こればかりは運なのでどうしようもない。花音もしょうがないと割り切っている。
『わ、ワタシが最下位........最強のアーティファクトを引いたのに........』
そして最下位はベオークである。
強強アーティファクトを引いたにも関わらず、そのすぐ後に全てを失い、そこから下ブレが酷かった。
詐欺られたり殺されかけたり。
現金をあまり持っていなかったベオークは、これにより借金地獄に。
最後の最後まで金を返すことは出来ず、ルーレットの出目も下ブレて借金がとんでもなく膨れ上がったのだ。
「これが現実だよベオーク。残念だったな」
『運だけで、ギリギリプラスのジンに言われると腹立つな』
「大丈夫だよ。私と一緒の借金生活だから。ほら、身売りしに行こう!!仁が買ってくれるよ!!」
『それは意味がわからない........』
「大丈夫なの!!わたしがベオークを買ってあげるの!!」
『これ煽ってるよね?なんかちょっと慰めてます感出てるけど、煽ってるよね?!』
「大丈夫よベオーク。私、金はあるの」
『母様まで!!』
こうして、最下位のベオークを煽りつつ2度目の人生ゲームが始まるのだった。
ちなみに、2回目は花音が爆勝ちして、最下位にまで転落したアンスールを煽り散らかしていた。君たち仲良いね。
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