早すぎた決着
旧シズラス教会国対アゼル共和国&ジャバル連合国&大エルフ国と神聖皇国の援軍の戦争は、たった3日で決着が着いてしまった。
普通の戦争ならばありえない速さでの決着だ。
35万vs20万の兵力の戦争ならば数ヶ月かかってもおかしくないのだが、我が傭兵団“
初日で3分の1以上の敵兵力を削った化け物集団は敵兵達の士気を大幅に削り、二日目にして脱走兵や投降兵が出始めた。
もちろん、敵の指揮官はそれを許すはずもなく見せしめに殺したりとしていたが、味方を殺す行為は更に士気を下げる。
そうしてやる気を失った敵兵達は嫌々戦線に立たされ、無惨にも殺されて行った。
初日に旧シズラス教会国側の主力である
世界最強の傭兵団を自負していた彼らは、団長が容赦なく殺されたことにより統率を失い、瞬く間に崩壊して行ったのだ。
授業参観の如く毎日戦場を上空から眺めていた俺は、拠点に帰ると一息つく。
「ね?だから言ったでしょ?心配しすぎだって」
「花音の言う通り心配しすぎたな。たった9人でここまで戦局を変えられるとは思ってなかったし、シルフォード達が想像以上に強かった」
「特にシルフォードが強かったねぇ。勝てるとは思っていたけど、まさかあそこまで一方的だとは思わなかったよ」
「そうだな。シルフォードが強すぎたし、神突が想像よりも弱かった」
シルフォードは、以前俺達と遊んだ時より更に強くなっていた。
元々才能があったのだろう。実力の上がり方が半端では無い。
まだ揺レ動ク者に所属する厄災級魔物には勝てないだろうが、弱めの厄災級魔物相手にならば勝てることができる程の強さを手にしている。
人種の中でもシルフォードに勝てる奴はかなり少ないだろう。シルフォードに勝てそうな相手と聞いてパッと思いつくのは“剣聖”のジジィぐらいだ。
あのジジィとは戦ったことは無いが、その実力の一端を見ている。
あれは、俺でも苦戦するかもしれないと思わせる何かがあったからな。
「それにしても、“炎帝”ねぇ。炎の皇帝だって」
「二つ名か。今回の戦争でこの傭兵団にも二つ名が出たのは嬉しいな。俺の“
俺がそう思っていると、花音が首を傾げた。
「え?一応私たちにも二つ名あるじゃん」
「え?何?」
「“影の英雄”」
「それも二つ名とはすこし違うくね?」
神聖皇国では確かにそう呼ばれているが、其れは“揺レ動ク者”を指しているのであって俺を指している訳では無い。
傭兵団の二つ名という意味では確かに二つ名と言えるかもしれないが、個人としての二つ名とはとても言えなかった。
「後はエドストルだな。“幻魔剣”だったっけ?随分とかっこいい名前をつけられたものだ」
「幻覚じゃなくて、見せているのは色覚異常なんだけどねぇ。幻覚に近いっちゃ近いけど。それに魔剣って何?」
「魔剣じゃなくて“幻魔”と“剣”なんだろ。変に組み合わさったせいで“幻”と“魔剣”にも分けられるけど」
押され気味だった戦線で活躍したエドストルにも二つ名が着いた。
その名も“幻魔剣”。
幻覚を見せ、剣で仕留めるその姿から付けられた二つ名は、幻を見せる魔剣を扱うと捉えられても仕方がない名前をしている。
俺や花音はエドストルの異能を知っているのでそんな訳ないと分かるのだが、エドストルを知らない人が聞けば勘違いされてしまいそうだ。
主にジャバル連合国に広まりつつある名前であり、アゼル共和国にも少し広まっている。
空から見ていた感じ、エドストル本人は結構嬉しそうだったので、その名前を気に入っているのだろう。
その内、自分から二つ名を名乗る日が来るかもしれない。
シルフォードも自分の二つ名は気に入っているようで、“炎帝”と呼ばれる事が嬉しいようだった。
まぁ、シルフォードの場合は、二つ名と言う傭兵団の格を上げる要因の一つを手に入れた事が嬉しいようにも見えたが。
「部下が二つ名持ってて、団長と副団長が二つ名無しっていいのか?傭兵団的に」
「いいんじゃない?どうせ正教会国との戦争の時に暴れたら二つ名が着くよ。私達はいやでも目立つし」
「そうかな?」
「真っ白な仮面を被って戦場に出る変態はそうそう多くないと思うけどね」
「変態なのか?」
「変態でしょ。視界が悪くなるし、態々被るものじゃないと思うよ」
そうかー変態か。
........被るのやめようかな。
俺はそう考えつつ、今頃大変なことになっているであろうシルフォード達の事を考える。
「今頃勧誘の嵐だろうなぁ。神聖皇国からエルドリーシスさん来てるし、大エルフ国からも精霊魔法使いが来てるだろ?シルフォード辺りは大変そうだ」
「イスを置いてきたから、最悪逃げれるけどね。別世界に逃げれるってズルくない?」
この戦争一番の功労者であるシルフォード達は、今頃物凄い他国からのアピールを受けているに違いない。
一応、どこにも属していませんみたいなスタンスでやってくれとは言ってあるが、他から見ればアゼル共和国に肩入れしているように見えるだろう。
事実しているし。
なんなら、アゼル共和国も俺たちを引き留めようとはするはずだ。
35万の兵力を相手して、圧倒できる兵力なんてそうそういないからな。
コネクションを広げるいい機会なので、できる限り対応して欲しいとは指示を出したものの無理なら逃げてきていいよとも言ってある。
逃げれない場合は、上空で待機しているイスが回収してくれるはずだ。
一人ぼっちだと寂しいだろうから、ちゃんとベオークも一緒である。
2人ともかなり仲がいいから、退屈はしないはずだ。
そして、なぜイスを置いてきてまで拠点に戻ってきたかと言うと、神聖皇国にお呼びたしを食らっているためである。
どうやらエルドリーシスさんが、俺達が戦争に参加していると報告してしまったようで教皇の爺さんが半分呆れ気味に俺を探しているそうだ。報連相がしっかりしているなぁ。
戦争が終わった今、なるべく早めに行かないと教皇の爺さんから雷が落ちるかもしれない。
「めんどくせぇ........」
「しょうがないよ。しばらく大人しくねって言われてたのに直ぐに戦争に参加したんだから」
「暇つぶしとか適当なこと言っておけばいいか?」
「いいんじゃない?多分教皇のおじいちゃんも、仁に言って聞かせるのは無理っていう悟ってるから。最悪、脅せば問題ないよ。おどれの国に厄災級魔物をけしかけられたくなければ、余計な詮索はするな。ってね」
「それは最高の脅しだな........」
そんな脅し方したら教皇の爺さん泡吹いて倒れるぞ。
俺はそう思いながら、やけに重い腰を上げて神聖皇国に向かうのだった。ホント、なんて言い訳しよう。
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