集結

 

 おさらい。

 ストリゴイ→ティール

 スンダル・ボロン→ラーグ



 戦場となるドレス平野では、二年前の緊張が再び支配していた。


 旧シズラス教会国対アゼル共和国とジャバル連合国並びに大エルフ国、神聖皇国の睨み合いはブルボン王国南部で起きた争いの睨み合いと同じほどの緊張感があると言えるだろう。


 心做しか、二年前に踏み荒らされた草花もその緊張感にやられて萎れているようにも見える。


 そんな一触即発の状況の中、アゼル共和国側の陣地では異様に人の目を引きつける集団がやってきていた。


 「久しぶりだな!!正直来ないと思っていたぞ。ティール殿」

 「ふははは!!世話になった国の危機を見過ごすほど、我ら揺レ動ク者グングニルも薄情では無いのでな!!まぁ、団長殿は仕事の都合で来れないが、あの程度の軍勢ならば我らだけでなんとでもなるだろう」

 「そりゃ心強い。ジンやカノン、イスちゃんが居ねぇのは残念だが、あんたらの強さは身に染みて分かってるよ........所で、失礼じゃなければ聞いていいか?」

 「なんだ?」

 「その、ティール殿以外は仮面をしているようだが、なんだアレは」


 久々に会えた揺レ動ク者グングニルの団員達に喜びつつ、彼らの長である仁と親交の深いアッガスは微妙な顔をしながら他のメンバーに目を向ける。


 揺レ動ク者グングニルの特徴である逆ケルト十字が刻まれた黒服に関しては見慣れているため何も言わないが、その顔に着けた真っ白な仮面は流石に目を引く。


 しかも、その中で一人だけ模様が入っているのは何か意味があるのだろうかと首を傾げてしまうものだった。


 元々、赤腕の盾レッドブクーリエの面々が以前行われた特別講師を招いての戦闘訓練において、異次元の強さを発揮した揺レ動ク者達の事を他の傭兵団にも話していた。


 その特徴的な見た目から彼らが噂の人物だと言うのは直ぐに推測できたものの、白い仮面を被っているとは耳にしていなかった。


 ティールと呼ばれたストリゴイは、少し怯えながら聞くアッガスの背中をバシバシと叩いて豪快に笑った。


 「ふははは!!アレは我らが傭兵団の戦闘衣装だ!!団長殿の趣味でな!!特段これと言った理由はない。もちろん、我も持っておるぞ」


 ストリゴイはそう言うと、ローブの懐から白をベースとし模様が描かれた仮面を取り出して被る。


 アッガスは、何か言いたげだったが“ジンの趣味かぁ”と勝手に納得してしまった。


 ちなみに、本来ならばアンスールやメデューサも戦争の際に仮面を被るべきだったのだが、仁が言い忘れていたので仮面を付けていなかった。


 普段から仮面をつけるような変わり者は誰一人として居なかった上に、仁も実践で仮面をつける機会なんてそうそうなかったので完全に忘れていたのだ。


 今回、仮面の存在を忘れることなくちゃんと付けているのは、ストリゴイや三姉妹達の正体を少しでもバレにくくするためである。


 厄災級魔物であるストリゴイとスンダルは、その口元をじっくり見られると吸血鬼特有の牙を見つけられてしまう。三姉妹に至っては言わずもがな。ダークエルフという存在は、それだけで人種からタブー扱いされているのだ。


 「まぁ、そんなわけだから、気にしないで欲しい。アッガス殿も付けてみるか?」

 「いや、遠慮しておこう。視界が悪くなりそうだし、普段やらない事を本番でやる気にはならないからな」

 「ふははは!!良い心がけだ。身の程をわきまえた奴ほど、厄介で強い。アッガス殿は良い戦士だな」

 「お褒めに預かり光栄だとでも言えばいいか?ほんと、良くもまぁ、こんな出来た人材がジンの下についてるもんだ」


 アッガスは呆れつつ、今は顔を見せていない友人の顔を思い浮かべる。


 2年近い付き合いになるが、いつも掴みどころのない変わり者だった。強いし、性格も悪くは無いが本能は危険信号を出している。そんな奴だったが、ここに来てようやくその危険信号の意味がわかった気がする。


 なぜなら、ストリゴイ達から溢れ出す闘志が尋常ではないからだ。


 特に、シルフォードと思われるフードを被った人物から溢れる闘志は尋常ではなく、周囲の空間が歪んで見えてしまう程である。


 赤腕の盾の面々が話しかけようと近づくも、その闘志に怯え誰一人として近づけなかった。


 アッガスだって出来れば離れたいと思うほどである。しかし、自分がこの中では1番交流を持っている者の為、声をかけない訳にもいかない。


(こんな化け物共相手に、よく“勝てる”って断言出来るな........そう言えば、ジンの本気って見たこと無かったな)


 貧乏クジを引かされた気分になりつつも、アッガスはふと浮かんだ疑問をストリゴイに投げかけた。


 「前にジンから聞いたんだが、ジンはティール殿よりも強いのか?」

 「強いな。本気で殺し合えばまず間違いなく我が負けるぞ。アレは反則だ。やりたい放題できてしまう」

 「ジンの異能か」

 「そうだ。詳しく知りたければ本人に聞くといい。流石に他人の能力を言いふらす程恩知らずでもないのでな」

 「いや、それは分かっているからいいんだ。それにしても、それほどにまでジンは強いんだな」

 「我が出会った強者の中では間違いなく五本の指に入る強さだな。幾ら我が強くなろうとも届かぬ壁はあるという訳だ」

 「五本?残り四本を聞いてもいいか?」

 「二本は言えぬが、もう二本はアッガス殿もよく知る人物だと思うぞ?」

 「え?」


 アッガスは首を傾げるが、誰も思い浮かばない。


 唯一思い浮かぶのは自分達の団長であるが、アレは仁どころかストリゴイにすら勝てないので選択肢には入らない。


 となると同じ団員の話になるのだろうか。


 「あ、もしかしてラーグさん?」

 「スン........じゃなくて、ラーグは我と同じか少し劣るぐらいだな。それよりも居るだろう?よく団長殿と一緒にいる2人が」

 「........まさか、カノンとイスちゃんの事か?」


 アッガスが答えを導き出すと、ストリゴイは大きく首を縦に振る。


 そんな馬鹿なと、アッガスは口を大きく開けて固まってしまった。


 確かに花音もイスもバルサルにいるギルドマスターに比べれば圧倒的に強いが、仁に並ぶほど強いかと言えば首を傾げざるを得ない。


 女子供だからと侮っているわけでない。本能が危険だと感じたことが1度も無いのだ。


 花音の場合は仁が絡むと危ない面があるが、それとこれとは別の話である。


 自分より圧倒的強者であるストリゴイですら、強者と認める程とは思えなかった。


 「そんなに強いのか........?」

 「ふはは。まぁ、普段の様子からは分からぬだろうな。が、本気を出した時は恐ろしいぞ。三人ともヤバいと感じるほど強いが、中でもカノンが一番ヤバいだろうな。強さだけで言えば団長殿だが、カノンは団長殿が絡むと途端に怖くなる」


 ストリゴイは何かを思い出したのか、ブルりと体を震わせた。


 その様子を見て、アッガスは間違っても仁絡みで花音を怒らせるのはやめようと心に誓うのだった。


 そして、戦争は始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る