教皇の考え
黒百合さんが、仲間に加わる旨を話してから1週間後。
俺達は暇な時を過ごしていた。
バカ五人が脱獄に成功したと言う話はあったものの、子供達に監視だけさせている現状では“あ、そうなんだ”以外の感想が浮かばない。
俺達の復讐のために、無事に正教会国に辿り着いてくれとしか言えなかった。
外に出ようとも考えたが、この格好では目立ちすぎる。
この国の影の英雄として語られる
最近では子供達の中で話が改変されまくり、何故か勇者の仲間扱いにされている上、魔王と戦っていたりもする。
そして、何も知らない旅人が、子供の話を聞いてその話が更にねじ曲がって伝わっていくのだ。
2つほど離れた街では、大人ですらも俺達
歴史ってこうやって変わっていくんやなって。
そんな訳でこの姿では外に出れず、かと言って態々変装してまで街に出たいかと言われればそうでも無いと言う微妙な状態の中で俺達は暇を潰していた。
幸い、毎日のように遊びに来る黒百合さんや龍二のおかげで退屈はしていない。
遊び道具も多い上に、俺も花音もイスもぶっ続けで遊べる性格をしている。
身体を動かしたくなれば、イスの世界で軽くじゃれる(傍から見たらガチの殺し合い)事も出来たので不便はなかった。
ちゃんとご飯も出てくるしね。
そうやって暇はしていたが退屈はしていない日々を過ごしていると、教皇に話があると言われた。
特に何かやることがあった訳では無い俺達は、素直に教皇に会いに行く。
未だにメイドの振りを続けている第四団長のルナールさんに連れられて、教皇の待つ部屋へと入っていった。
「失礼しまーす」
「おぉ、よく来たな。そこで座って少し待っててくれ」
教皇の爺さんはそう言うと、山のように積み上がった書類をキリのいいともろまで捌く。
俺達が毎日のようにやっている、報告書の処理よりも難しいことが書かれてるんだろうなと思いながら俺達はソファーに腰をかけた。
ルナールさんは退室するのかと思いきや、そのまま教皇の護衛に着くのかしずしずと紅茶を入れてくれる。
粗茶ですがと言って出された紅茶は、どう見ても高級品であり、下手をすれば金貨が何十枚も吹っ飛ぶような品物であった。
........まぁ、紅茶の善し悪しは正直分からないから高級品の見た目と匂いのする粗茶かもしれないが。
しばらく紅茶を嗜みつつのんびりと待っいると、ようやくキリが着いたのか教皇の爺さんがこちらへやって来た。
「いやぁ、すまんすまん。呼び出しておいて待たせるとは失礼した。ぶっちゃけもう少し遅く来ると思っていたのでな」
「気にすんな。で?何の用だ?もしかして何か問題でも起こったのか?」
「問題は特にない。あ奴らも順調に正教会国に向かっておるし、そのための手引きも問題なくできている。空に、何か問題があったとしても監視が何とかしてくれよう」
「それじゃぁ、何の要件だ?」
俺がそう問いかけると、教皇は懐から1枚の大きな紙を取り出した。
ぐちゃぐちゃに書かれた線と、所々特徴的な何かが書かれている。
俺も何度か世話になったからわかる。これは世界地図だ。
観測技術が発達しておらず、全てがぐちゃぐちゃになっているこの世界地図は、大まかな場所しか分からない。これしか無いから俺達も使っているが、前の世界程正確な地図があれば間違いなくそちらを使っているだろう。
「世界地図だ。見たことがあるはずだが........」
「この世界に来てから直ぐの時に見たな。相変わらず酷い地図だ」
「ふむ。リュウジ殿やコウジ殿も同じことを言っていたな。しかし、これ以上正確な地図は無いので許してくれたまえ」
教皇はそう言うと、チェスの駒のようなものを取り出してあるひとつの場所に置いた。
どこだココ。
俺が疑問を口にする前に、教皇が語り始める。
「ここはラヴァルラントと呼ばれる国だ。正教会国側のイージス教が広く知れ渡っており、この戦争には間違いなく介入してくるだろう」
「聞いた事ない国だな」
「実質正共和国の属国だからな。獣王国と正共和国の間に位置するこの国は、とてつもなく大きい山脈がそびえ立っている。“浮島”アスピドケロン程ではないが、国を分けるには十分な大きさだ」
一瞬、アスピドケロンの名前が出てビクッとしてしまったが、アイツこの世界では1番大きい山脈とか言われてたな。
山脈というか、魔物なんだけど。
俺がそんなくだらない事を考えているとは知らず、教皇は話を続ける。
「この山脈の向こう側にはもちろん国があり、この国は神聖皇国側のイージス教なのだ」
「ほうほう。それで?」
「カランドウと言う国なのだが、この国は軍事力が低い。山脈を隔てているからラヴァルラント教会国には攻撃されなかったが、戦争となれば間違いなく攻め入って来るだろう。元々お互いの国同士仲が悪いからな」
なるほど。この小国で俺達を暴れさせようと言うわけか。
失敗して国が滅ぼうとも位置的にこちら側に被害は無く、もし勝てれば小国に恩が売れる。
橋頭堡にはならないものの、少しでも圧をかけれると言う腹積もりか。
俺が頭の中でそう結論づけると同時に、教皇の爺さんも同じことを言う。
「そこでだ。ここの戦線を丸々ジン殿達の
「随分と報酬が高いな?」
「国家間の戦争をたった一つの傭兵団に任せるのだ。成功報酬はそのぐらい高くてもいいだろうと思ってな」
日本円にして約1億か。
拠点に何故か数百枚単位であるが、一傭兵に払う金額としては破格も破格だ。
それだけ俺達を買っているのか、はたまた何か別の理由があるのか。
美味い話には裏がある。そう教えられてきた俺は、教皇を軽く睨みつけた。
「何か隠してないか?」
「何も隠してなどおらんよ。この金額が怪しいと言うのだろう?私も逆の立場ならそう思うからな。しかし、このぐらいの金額は積んでおきたいのだよ。なぜなら、この国を滅ぼすからな」
「........?どういう意味だ?」
「言葉の通りだ。この国に生きる者は全て殺す。この国だけではない。正教会国の教えるイージス教を信仰する国は全て滅ぼす。例えそれが無力な女子供、老人であろうとな」
その発言は、教皇らしからぬ発言だった。
虐殺でもしろと言っているのかこの爺さんは。相手が誰であろうと、自分達の教えを信じないもの達を殺すと?
分からない訳でもない。戦争に勝ったとしたも、人の考えというのはそう簡単には変わらない。幼い頃から教えられてきた考えと言うのは、脳に染み付いたタテゥーと同じなのだ。
統治をしたとしても間違いなく反感を買い、場合によっては反乱となる。そして、下手をすれば第二次世界大戦の始まりだ。
「納得出来ぬか?」
「........いや、考えは分かる。いいだろう。俺達は傭兵だ。仕事はきっちりこなしてやるよ」
割とあっさり受け入れたのが意外だったのか、教皇は少し驚いた表情をしたもののすぐ様いつもの顔に戻る。
「そうか。助かるぞ」
「全てを塵にして構わないんだな?」
「他国に干渉しない限りは好きにして構わんが、なるべく苦しむことなく殺してやってくれ」
「了解だ」
こうして、俺達が向かう戦場は決まった。
まぁ、力の有り余っている厄災級魔物達にはいい運動になるかもな。
........あ、報酬の話をしてねぇや。
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