大天使との再会
地下牢で暴れるバカ5人を見るのは傑作だった。
俺達が牢屋に行った時には、殴り合いをしていたのだ。
何があったのかは知らないが、死という恐怖を前に彼らは己の平静を保つことが出来なかったらしい。
万が一死にそうな場合などは、影に仕込んである子供達が何とかしてくれるだろうが、仲間内の喧嘩でその姿を見見せるのは勘弁願いたいな。
ほんの少しの間だけでも、殴り合いに発展する辺りこの後の計画を遂行するのは大変だろう。
子供達には、これが終わったらたっぷりとボーナスを出してやらないとな........
人間とは違い、金が必要ではない子供達へのボーナスはどうしようかと考えながら、俺達はアイリス団長に連れられて黒百合さんがいる部屋へと向かう。
「朱那ちゃん元気かな?」
「さぁな。アイリス団長曰く、結構不安定な状況らしいから元気とは言いづらいんじゃないか?」
「そうだねぇ。報告ではそんな風には見えなかったから、やっぱり文字だけじゃ分からない事も多いね」
確かに報告書には、黒百合さんが落ち込んでいるみたいな報告があった気がするが、アイリス団長が心配する程だとは思っていなかった。
花音の言うとおり、文字だけでは分からないことも多いな。
「龍二とか辺りがケアしてるのかと思ったんだがなぁ........」
「無理でしょ。龍二はアイリスちゃんに構うのが精一杯だろうし。アイリスちゃんはどこか一線を引いているだろうからね。意外とそう言うところは感じ取れるものだよ」
「もっと頑張れよ龍二。数少ない同郷だぞ」
「無茶言うんじゃねぇよ。独り身に向かって何言っても嫌味にか聞こえなねぇだろうが」
「その理論で言えば、俺達もダメじゃねぇか」
精神状態が危ういやつに向かって煽りに行くんか?
勘弁してくれよ。煽るのは好きだが、俺も相手ぐらいは選ぶぞ。
「お前たちはいいんだよ。昔っから2人でずっと一緒にいるんだから、それがデフォルトになってる。それに、黒百合さんの中では友人という枠組みに入っているだろうさ」
「お前は?」
「同郷以上友人以下」
「なんか悲しいなぁ」
確かに神聖皇国にいた時は黒百合さんともよく話したが、それは龍二だって同じだろうに。
花音は夜に女子会みたく部屋に転がり込んでいた事もあったそうだが、俺も精々同郷以上友人以下の関係なのではないだろうか。
どうしよう。死んだと思っていたら実は生きてましたって黒百合さんの前に現れたら、“ふーん良かったね”と冷たい反応された日には俺の繊細なガラスの心が砕け散るかもしれん。
「男の1人でも作ってくれればいいんだがな........如何せん大天使様相手だとどうしても一線を引いてしまうものだ。龍二の同郷もどこかよそよそしかったしな」
「黒百合さん、どこ世界に行っても高嶺の花なんだな........」
「朱那ちゃんらしいって言えばらしいけどねー。同じ女子からも話しかけづらいってよく言われてたし」
同性から見ても高嶺の花と言われている辺り、彼女は孤高になるべくして生まれてきたのかもしれない。
確かに近寄り難いオーラはあったな。話してみると結構面白い人なのだが........
そう話していると、黒百合さんの気配がする部屋へと辿り着いく。
アイリス団長は何一つ躊躇うことなく、その部屋をノックした。
「シュナ!!いるか?」
「アイリス団長ですか?どうぞ入ってください」
入室の許可が出たので、ぞろぞろと俺達は部屋へと入っていく。
アイリス団長と龍二が見えた時は一切表情を変えなかった黒百合さんだが、俺達が入るとその綺麗な顔を軽く顰めた。
そりゃそうだ。
影の英雄と呼ばれているとはいえ、俺達は所詮傭兵に過ぎない。そんな荒くれ者と言われる傭兵が、部屋に入ってきたとなれば顔の1つも顰めるだろう。
ましてや、自分と何ら関わりのない相手ならば尚更に。
「........何の用ですか?急に呼び出して」
俺達に触れようかどうか一瞬迷った後、彼女はアイリス団長に話しかけた。
恐らく、要件は俺達だと気づいた上でアイリス団長に話を降ったのだろう。
「お前に会わせたい奴がいてな」
「こちらの御三方ですか?」
「そうだ。私達は暫く部屋を出て行くから、後は仲良くやってくれ。行くぞ、龍二」
「え?俺も?」
同郷同士の再会を見ようと思っていたであろう龍二は、鳩に豆鉄砲を食らったかのような間抜け面で自分を指さす。
そんな龍二を見て、アイリス団長は軽くため息をついたあと肩を組んで耳元で囁いた。
「お前は弱った乙女の涙を見るのが趣味なのか?もしそうなら今後は私も────────」
「分かった分かったから、変な事を言い出さないでくれ」
俺の耳に入ったのは偶然だ。少し耳が良かったのと、2人の近場に居たからだ。
こんなところでイチャイチャすんなやとは思ったが、言葉をなげかける前にサッサと部屋から退散してしまった。
後で思いっきり弄ってやろうと心に決めつつ、俺は黒百合さんに向き合う。
久々に正面から見た彼女の顔は、普段と何ら変わりない綺麗な顔でありながらもその裏にこびり付いた影が見える。
昔見た燦々と輝く太陽のような笑顔は無く、淡々と事務的な微笑みが俺達を見据えていた。
「確か........
「おぉ、我々傭兵団の名を覚えて頂けるとは光栄です。黒百合朱那さん」
「──────────?──────────!!」
少しの間何かに引っかかったのか首を傾げ、その後何かに気がついたのかその目が見開かれる。
それもそのはず。仮面こそ被ってはいるものの、今回はその声を変えることは無かった。
どこか懐かしい声と、日本語のイントネーションで呼ばれたフルネーム。
先程の淡々とした事務的な微笑みから、まさかと結論に至ったその顔は驚きに支配されつつも燦々と輝く太陽のような笑顔にも見える。
「仁........君?」
「久しぶりだな。黒百合さん。俺としては数ヶ月ぶりなんだが、こうして会うのは4年ぶりか?」
仮面を取って素顔を見せると、黒百合さんは座っていた席から立ち上がって勢いよく俺の顔をその手で包む。
その目には涙が浮かんでおり、今にも泣き出しそうだった。
「本物だ!!本物の仁君だ!!本当に生きてたんだ!!」
ペタペタと俺の顔を触ったかと思えば、手を握ってブンブンと上下に振られる。
あまりに勢いが良すぎて2回ほど机に手をぶつけたが、黒百合さんは全く気づいていなかった。
興奮が冷めぬまま、今度は俺の後ろで控えていた花音に視線を向ける。
「それじゃ、こっちは──────────」
「お久ー。朱那ちゃん。元気そうで何よりだよ」
「花音ちゃぁぁぁぁぁん!!」
溢れ出した涙を拭くこともなく、黒百合さんは俺から手を離して花音に抱きつく。
あまりに勢いが良すぎて、花音は一瞬ふらついたものの、しっかりと黒百合さんを受け止めた。
「花音ちゃん!!花音ちゃん!!」
「はいはい。私はここにいるから落ち着いて」
「花音ちゃんだよぉ........グスッ、ふぇぇぇぇぇん」
花音を抱きしめたまま、ガチ泣きをし始めてしまった黒百合さん。
花音は“どうにかしてくれ”と俺に助けを求める顔をしたが、俺は肩を竦めて“諦めろ”と返しておいた。
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