久しい神聖皇国
イスの背中で風を感じながら飛ぶこと数時間。長い空の旅は、神聖皇国の首都である大聖堂カテドラが視界に入った事で終わりを告げた。
「久々の大聖堂だな。既に暴食の魔王から受けた被害は直っているらしい」
「すごいねぇ。被害が少なかったとは言え、かなり派手に壊れてたと思うんだけど、もう直ったんだ」
イスの背中から見下ろす景色は暴食の魔王が復活する前と変わらず、多くの人々が街の中を行き交っているのがよく分かる。
暴食の魔王の復活に伴って壊れてしまっていた大聖堂は、既に以前の輝きを取り戻しており、日差しを反射して黄金に輝いているようにも見えた。
かつての輝きを取り戻し、魔王と言う驚異に打ち勝ったこの街は以前よりも活気に溢れていることだろう。
豆粒のような小ささの人々をよく見れば、皆が皆明るく元気な表情をしている。
スラム街に住む人々ですら心做しか明るい顔をしているのを見るに、あの教皇の爺さんは相当頑張ったのだろう。
「とりあえず降りるか。イス、あの森の奥に降りれるか?」
「キュア!!」
かつて俺が殺されかけた森を指さして、イスに降りるように指示を出す。
俺と花音を背中に乗せて機嫌のいいイスは、元気よく吠えると限を発生させながらゆっくりと森の中に着陸した。
「さて、どうやって街に入ろうかねぇ。三年近く顔を見られてないとはいえ、物覚えが良い奴がいると面倒だしなぁ」
「前みたいにこっそり侵入する?それとも着替えて一般市民を装う?」
「後者は無理だな。俺達は傭兵だし、昔アイリス団長から貰った偽装の身分証もここで使えば問題になる可能性がある。あの馬鹿共に話が漏れる可能性がある以上、下手な手は使わない方がいい」
「じゃぁ、夜中にこっそり侵入するの?」
「まぁ、そうなるだろうな。夜中に侵入して、そのまま教皇の爺さんに匿ってもらおう。あの人ならなんとでもしてくれるはずだ」
以前のように堂々と街を歩けば、注目を集めてしまう。
影の英雄と呼ばれる俺達の格好は、この街の人々に知れ渡っているのだ。
だからといって、変装しても顔は隠さなければならない。呪いの仮面とか言って誤魔化そうにも、監視が着く可能性は十分にあった。
ワンチャンコスプレしている痛い人で通すのもアリかと考えたが、流石に恥ずかしすぎたのだ却下。
俺は、まだ羞恥心を完全に捨てきれるほど頭のトんだ人間ではない。
「それじゃ夜になるまではゆっくりしてよっか。こんな事ならもう少し遅く拠点を置く出てきても良かったね」
「そうだな。あまり深く考えずに出発したからな。暫くはイスの異能の中で遊ぶとするか」
「まーじゃんするの!!」
『ワタシもやる』
元気よく手を振り上げるイスと、今度こそ勝つと言わんばかりに目をギラつかせるベオーク。
ベオークは、この前ゴリゴリのイカサマ麻雀でコテンパンにされたからな。
最初こそ俺が少しだけ勝てるように仕込んでいたのだが、途中からあからさまに勝てるように仕込み始め、最後は天鳳を3連発させるとか言う漫画ですらもう少しまともな事をやるだろと言わんばかりのイカサマをしてやったのだ。
もちろん一緒にやっていた花音とアンスールもこれには呆れ果て、イカサマを見抜けなかった三人の仕返しによりその日の晩ご飯は俺の分だけしょぼかった。
流石に天鳳3連チャンはやりすぎである。
尚、その後ドッペルに全自動麻雀卓を作るようにお願いされていた。明らかに技術の無駄遣いである。
今では、拠点に数個、イスの異能の中に一つ全自動麻雀卓があり、暇を見つけては皆で打っている。
ちなみに、なぁなぁでしか麻雀のルール(正確には点数計算)を覚えていなかった為、上がれば勝ちと言う単純なゲームになっている。
こんな事なら、家の婆さんに麻雀の事もしっかりと教わればよかったな。
積み込みやらイカサマは教わって、ルールは教わらないとか家の教育方針おかしくねぇか?
そんなこんなで、今では運と実力ゲーとなった麻雀は、俺には勝ち目があるゲームとして遊ばれているのだった。
「今日は勝つの!!」
「最近は負けっぱなしだし、勝ちに行こうかな。仁、勝ったらなんかちょうだいねー」
「勝てないから安心しろ。取らぬ狸のなんとやらって言うだろ?」
『負けない』
こうして、日が沈み、街が寝るまでの間俺達は麻雀を打ち続けるのだった。
結果としてはイスが豪運を発揮して勝ちました。裏ドラ8とか初めて見たんだけど。
そして夜。
人々は寝静まり、黄金に輝いていた街が永久の闇に囚われたその時間に、俺達はこっそりと街の中に潜入する。
大魔王が復活する時とは違い監視も多くいたが、ベオークとその子供達の手によって眠らされてしまった。
交代の番が来れば何寝てんだと怒られるかもしれないが、そこは........うん。頑張って怒られてくれ。
少し罪悪感を覚えつつ、俺達は闇の中を素早く移動していく。
気配を完全に消し、闇の中に紛れる俺達を捉える者は誰一人として居なかった。
「流石は都会だな。夜中になっも明るい場所が多い」
「大通りとか明るいねぇ。歓楽街はバルサルも明るかったけど、大通りとかは薄暗かったよね?」
「そうだな。まぁ、光が強ければそれだけ闇も深くなる。そのおかげで俺達は隠れやすいと考えれば、ありがたいけどな」
「無くてもなんとでもなるのー」
「それを言っらおしまいだよ」
厄災級魔物のアンテナすらもくぐり抜ける俺達の隠密が、そんじょそこらの人にバレるわけが無い。
その場に侵入した場合、感知される結界系の魔法や能力出ない限りはバレることは無いだろう。
そして、そういう魔法等は燃費が物凄く悪い。
一定の範囲を結界で覆うという行為は、魔力をその場に固定させる事と同意義だ。その維持にすらも魔力を使う為、物凄い勢いで魔力が消費されていく。
強力な力ほど代償も大きいのだ。
俺の異能も、もう少し燃費が良くなってくれねぇかなとはよく思う。まぁ、俺の異能の場合は崩壊させる物を工夫すれば大抵の事はなんでも出来るあたり理不尽の極みだが。
我が拠点に結界を張っているウロボロスの場合は少し違うのだが、あれはアレで理不尽な異能である。
「見えてきたな。全てが始まった場所が」
「教皇はどの辺にいるかな?」
『ワタシの子供が見張ってる。そこを辿ればヨシ』
「流石だ」
俺はローブから顔を出すベオークの頭を撫でつつ、大聖堂の中に侵入した。
ベオークの案内と共に、薄暗い大聖堂の中を走り回っていく。
幸い、障害になりそうなものは何も無く、迷う事もなく教皇の元にたどり着けた。
護衛がもちろんいたのだが、子供達によって眠ってもらっている。
明日辺り怒られるかもしれないが、頑張ってくれ。
そして、たどり着けたのはいいのだが........
「なんかすげぇ疲れてね?」
「顔が死にかけてるね。過労死しそう........」
「お爺ちゃんなの」
『あの顔知ってる。仁と花音が報告書の山の中に埋もれてた時もあんな顔だった』
やめてベオーク。あまり思い出したくない記憶だから。
気配を消しているとはいえ、扉が開けば気づきそうなものなのに一切気づいていない。
ヒソヒソと話している声すらも耳に入っていないようだった。
「大変そうだな........」
「なんと言うか、もう少し優しくしてあげようと思えるね........」
げっそりと疲れきった教皇には申し訳ないが、俺達の用事を終わらせるためにも話しかけるとしよう。
俺は罪悪感を覚えつつ、教皇の肩を優しく叩くのだった。
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