おやつ........おやつ?
シルフォードが放った魔法によって、スタンピードの戦端は切って落とされた。
一万と言う数の魔物を相手に、一切怯むことなく突っ込んで行ったロナ達を見ながら、俺と花音とイスはのんびりと紅茶を嗜む。
しかし、その味はあまり美味しくなかった。
「........俺の中ではこうやって後方で紅茶を嗜む行為は強キャラ感出てて好きなんだが、実際にやると申し訳なさの方が先に来るな」
「仁は優しいからねぇ。みんなに仕事を任せてのんびりするのが申し訳なく思うんでしょ」
「その言い方だと、花音は申し訳ないとは思ってないみたいだな?」
「そうだよー。向こうが嫌々やってるならともかく、嬉々として魔物の中に突っ込んでるんだから。申し訳ないとか思わないなぁ」
「........イスは?」
「私もママと同じなの。シルフォード達は自分から志願してるんだから、パパが気負うことは無いの」
いや別に気負ってる訳では無いのだけれど........
意外と冷徹なイスと花音に軽く頬をひきつらせながら、俺はドッペルの作った魔道具のコップに入った紅茶を飲み干す。
このコップは零れないように作られたコップであり、魔力を込めないと中身が飲めないとか言う欠陥品だ。
中身がこぼれないようにするのにも魔力がいるし、中身を飲むのにも魔力がいる。
魔力の無駄遣いだな。
ドッペルが機嫌よく俺にプレゼントしてきたので使っているのだが、正直普通のコップでいい。
魔道具のコップを仕舞い、戦場に目を向けると、シルフォードが解き放った不死鳥が魔物達を燃やしていく。
かなり離れているため、その熱を感じることは無いが見ているだけでその熱さは伝わってくる。
焼かれた魔物達は何とかしようと藻掻くもののその程度で火が消えるはずもない。
「あんな魔法も使えたんだな。めっちゃかっこいい」
「イスとの手合わせでは使ってなかったよね?詠唱も長そうだし、何よりコントロールが大変そう。なんでそんな面倒な魔法を使ったんだろう?」
「地形破壊するなって言ったからだろ。
俺や花音ならばその体に魔力を纏うことで熱を防ぐ事もできるが、街はそうもいかない。まず間違いなす城門溶け、家屋は燃えるだろう。
そうすれば、なんのために助太刀に来たのか分からなくなってしまう。
「私の世界を溶かすほどの熱量なの。手加減を間違えると、この荒野が燃えるの」
「既に燃えるものがない荒野が燃えるのか........」
上位精霊の力を手に入れてから、シルフォードの魔法は強力になった。
しかし、その分出力調整が上手くいかずに使える魔法を制限されるようになってしまったな。
時間をかければコントロールも上手くなるだろう。
こればかりはシルフォードの頑張り次第だ。
心の中でシルフォードに声援を送っていると、大地を揺らす轟音が響き渡る。
ふと視線をそちらに向ければ、どこぞの処刑台が魔物の首を切り落としていた。
あんな魔法初めて見たんだけど。
「何アレ」
「ギロ、ギロチンかな?魔力からしてトリスだと思うけど、あんな魔法初めて見るね」
「おぉー!!カッコイイの!!」
目をキラキラと輝かせるイスとは裏腹に、俺と花音は困惑していた。
多数ある魔法攻撃の中で、なぜにギロチン?と。
魔法の行使にはイメージも重要だ。
トリスにとってイメージしやすかったのがギロチンなのだろう。
「ま、まぁ、魔法は人によって違うからな。トリスはギロチンが好きみたいだ」
「ギロチン好きな女の子とか終わっない?色々な意味で」
花音が何か言ってるが、さすがに反応に困ったのでこう返しておこう。
「........ノーコメントで」
そんな大暴れするトリスの陰に隠れ、せっせと罠を設置するのはラナーだ。
態々魔物の中に突っ込んで罠を設置するのは、最大火力でここら一帯を吹き飛ばすためだろう。
あまり街に近すぎると、吹き飛んだ魔物の破片が飛んでくるかもしれないからな。
「うっわ、ラナー凄いエグいトラップ仕掛けてるよ」
「そうなのか?」
「多分、毒ガスと爆発を落とし穴に落ちた瞬間に作動するようにしてると思う。しかも、ご丁寧に可燃性毒ガスをばら撒くと思うよ」
「中々にエグイな........」
ラナーは自発的に攻撃するのは苦手だが、受けが上手い。
しっかりと
ところで、地形はなるべく変えないでねと言う要望を彼女は忘れているのだろうか。
落とし穴とかどう考えても地形を壊してるし、毒ガスもものによっては地形破壊となる。
一番命令を守りそうな人が、率先して命令を無視しそなんだけど。
「まぁ、ラナーは異能の関係上しょうがないちゃ、しょうがないんだけどな........」
最悪、ウロボロス辺りを連れてきて何とかしてもらおう。
俺がそう思っていると、再び轟音が響き渡る。
「ロナか」
「すごいねー。あんなに巨大な腕を作れるんだ」
「おっきいの!!」
音がした方に視線を向ければ、巨人の腕と言っても過言ではないほど大きい腕が大暴れしていた。
初陣の為か、張り切りすぎているようで初っ端からフルスロットルだ。
土でできた巨大な腕が、魔物を潰し、殴り引きちぎる。
俺たちは、ロナがやっていると分かっているから平然と見ていられるが、この街の人間からしたらあれも魔物に見えるかもしれない。
「張り切ってんなぁ」
「やっぱり“大きい”ってそれだけで脅威だよねぇ。その分質量もあるし、少し動いただけで被害になるし」
「アスピドケロンとかが本気で暴れたらヤバそうだよな」
「やばいってもんじゃないと思うよ。下手したら大陸が滅んじゃう」
アスピドケロンの大きさからして、その足の大きさは下手な都市よりも大きいだろう。
1歩歩くだけで街が滅ぶ。かつての伝承は嘘では無さそうだ。
暫く暴れていた大腕だったが、魔物もタダでやられるほど優しくはない。
大腕は同じぐらい大きな尻尾に砕かれてしまった。
「お、ジャイアントスコーピオン。最上級魔物のお出ましか」
「おっきいねぇ」
「美味しそうなの」
「え?あれ食べるの?」
「え?食べないの?」
蠍を食べるという習慣がない俺と花音は驚きながらイスを見るが、イスはさも当然のようにジャイアントスコーピオンを食べ物として見ている。
ここら辺が魔物と人の違いだな。
俺がそう思っていると、巨大な腕が再び出現し、ジャイアントスコーピオンの尻尾を掴んで上へと放り投げた。
どうやらリーシャがジャイアントスコーピオンを引き付け、その隙を着いたらしい。
「なんか笑えるな。サソリが宙を舞ってるぞ」
「たーまやー」
花音が少しズレたことを言う。
そうしている間にも、ジャイアントスコーピオンは地面へと落下し、大腕と地面とでサンドイッチされたジャイアントスコーピオンはその頭を潰す。
「あぁ、おやつか........」
サラッとジャイアントスコーピオンをおやつ扱いしているイスの頭を撫で、後て回収して置こうと考えた俺はゆったりと歩くエドストルに目を向けるのだった。
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