不転の意思&落ちゆく記憶

 大地を震えさせるほどの轟音。山と見間違えるほどの砂煙。


 紅き不死鳥が魔物の群れに突撃してから、たった数分でその場は戦場と化していた。


 「おーおー、みんな気合い入ってんなぁ」


 不死鳥を制御するシルフォードを背に守りながら、自分より大きな盾を構えるぜリスは欠伸をかみ締める。


 その視線の先には、魔物を蹂躙する仲間達頑張っていた。


 「ふふふ。私も早く張り切りたいわぁ」

 「まだだぞプラン。今、俺達がやるべきことはリーダーの護衛だ」

 「分かってるわよ。でも、最初にゴブリンが飛んできた時から一向に攻撃が来なくて暇なのよ」


 プランの言う通り、未だに攻撃らしき攻撃は初めに投げられたゴブリン以外に無い。


 ゼリスも心の中では少し暇だなと思っていた。


 「暇だが、それでもやるべきことは変わらんよ。ここでリーダーが怪我してみろ。間違いなく団長殿に怒られるぞ」

 「それは嫌ねぇ。真面目にやらないと」


 口ではそう言うプランだが、目は退屈そうだ。


 ゼリスとプランは、シルフォードの操る不死鳥が消えるまでは大人しく待つしかない。


 プランは弓による牽制ができなくもないが、魔物の中に突っ込んで大暴れしている仲間達からすれば焼け石に水である。


 ならば、いつでも迎撃できるように大人しくしておくべきだ。


 未だに反撃が来ず、暇な獣人夫婦はどこか懐かしそうに戦場を眺める。


 「懐かしいわね。こうして魔物の相手をするのは」

 「規模が違いすぎるし、結局守れなかったけどな........」

 「そう言わないの。あの時は私達以外守れる人がいなかったからじゃない」

 「それはそうだが........あの時、今の力があればと思うとな」

 「そうしたら団長さん達には会えなかったわよ?」

 「悩ましいな」


 ゼリスとプランがかつての話をしているその時だった。


 砂埃の先、視界が取れない中に煌めく光線が1つ。


 熱を帯び、荒れ果てた荒野をも溶かすほどの熱線は、殺気と共に盾を燃やさんと迫り来る。


 攻撃が来た。


 そう認識した瞬間、ゼリスとプランの動きは的確かつ早かった。


 「っと。ようやくか」

 「行くわよ」


 ゼリスは盾を構えると、熱線を真正面から受け止める。


 ゼリス程の盾使いともなれば、その熱線を受け流すことも可能だ。


 しかし、ゼリスの後ろにはシルフォードだけではなく、エートの街もある。


 多少の被害は目を瞑るべきだろう。だが、やるからには完璧な形で勝利したいゼリスは、受け止めることを選択した。


 「ふはぁ!!俺の不転の意思Roll Like Thinkを破れるとも思うなよ魔物風情が!!」


 鉄程度ならば容易に溶かすであろう熱線は、不動の盾にその行く道を阻まれるとそのまま勢いを失って消えていく。


 一方、ゼリスの盾はかすり傷1つついていなかった。


 「プラン」

 「もう殺ったわ」


 ゼリスがプランに話しかけると、弓を下ろすプランが微笑む。


 熱線を確認したその瞬間にゼリスが受け止めると信じてプランは、矢を放っていた。


 狙いはもちろん自分たちを狙った魔物。


 「落ちゆく記憶Folling Down。狙った獲物は逃さない」


 放たれた矢は天高く登ると、何かに操られたかのように向きを変える。


 狙いは自分たちを狙った魔物。天から落ちるその矢は見る人によっては天罰と呼ばれるのかもしれない。


 「ズドン」


 プランの気の抜ける掛け声と同時に、矢は魔物の頭を貫いて絶命させる。


 かなり離れており、砂埃が舞い散っている為魔物の死亡をゼリスは確認できないが、プランの堂々とした雰囲気を見ればしっかりと仕留めた事はわかる。


 ゼリスは警戒を解くことはしないまま、プランを褒めた。


 「流石だな」

 「まぁ、この程度なら誰でも出来るわよ。それよりも、今の光線を放てる魔物と言うと結晶クリスタルスコーピオンかしら?」

 「だろうな。地竜アースドラゴンのブレスにしては弱すぎる」


 結晶クリスタルスコーピオン。


 尾節部分が結晶となっており、他のスコーピオン系魔物よりも高価に取引される魔物だ。


 その尾節部分は、宝石のように美しく光り輝き、貴族や金持ちはこの結晶を持つことが一種のステータスにもなっている。


 基本的に砂漠や荒野にしか生息せず、普段は地面に潜っており見つけにくいこともありとても希少な魔物として扱われていた。


 しかし、そんな彼らも流石に地竜アースドラゴンからは逃げる。


 数百匹と言う数の結晶クリスタルスコーピオンが逃げてきていた。


 そんな結晶スコーピオンは、その尾節部分に太陽光を集めその熱源を魔力によって打ち出すことができる。


 その熱線は、鉄をも簡単に溶かし、規模によっては街ひとつを消し飛ばしてしまうこともある。


 ゼリス達は知らないが、かつて結晶スコーピオンの上位種である真結晶トゥルークリスタルスコーピオンは、たった一度の熱線で街ひとつと川を蒸発させて見せた事があった。


 「遠距離攻撃の手段を持つ魔物は早めに討伐しておきたいな。できるか?プラン」

 「大丈夫よ。一匹倒したから、この弓が魔物を覚えてるわ」

 「よし、なら──────────チッ、またか」


 ゼリスは盾を構えると同時に、再び熱線が襲ってくる。


 先程よりもさらに熱を込めたのか、熱線の放つ暑さに思わず顔を歪めた。


 「ファフニール殿の炎やリーダーの炎に比べりゃ暑くないが、ちと暑いな」

 「我慢しなさい。既に矢は放ったから、もう暫くすれば攻撃は止むわよ」


 ゼリスが熱線を耐えること10秒。


 順番に打ってきているのか、止むことのなかった熱線がピタリと止まった。


 「お?止まったな」

 「........全部で324匹いたみたいね。他の魔物に比べて数が少ない辺り、希少な魔物と言われてるだけはあるわ」

 「金になるところだけ後で剥ぎ取っておくか。2.3個貰っても怒られたりはしないだろ」


 結晶スコーピオンの結晶は、かなりの価値になる。


 プランはそういった装飾系に興味を示さないが、持っていて損は無いだろう。


 「リーダーも欲しいか?」


 ゼリスは、少し疲れた顔をするシルフォードに顔を向けることなく話しかける。


 不死鳥の制御中であれば話しかけることはしなかったが、後ろから感じるシルフォードの雰囲気から制御は終わったと判断したのだ。


 話しかけられたシルフォードはどこか困った顔をしながら、答える。


 「私も興味無い。ラナーもトリスも要らないと思う」

 「マジかよ。金がかからなくて楽だな」

 「あーでも、団長さんは欲しがるかも?」

 「団長殿が?」


 あの頭のイカれた自分達の主人は、宝石なんてただの石と言い切る程装飾品に興味が無い。


 それを知っているゼリスは、シルフォードの発言を理解できなかった。


 「団長なんて一番興味無いだろうに。あ、さては金か?幾らあっても金は困らんしな」

 「いや、団長さん見たことない魔物は食べようとする。多分、結晶も食べる」

 「えぇ........」

 

 困惑するゼリス。


 実際はそんなことないのだが、ドラゴンを食べようとする仁を見て、シルフォードはその様に感じていた。


 「ま、まぁ、流石に300個とか食わないだらうから味見できる程度には持って帰るか。しかし、そんな趣味があったとか知らないんだが........」

 「相変わらず変わった人ねぇ」


 仁の知らないところで、仁の評価は“魔物を食べるヤベー奴”になってしまったのだが、それはまた別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る