ポカってレベルじゃなくね?
スタンピード。
異世界の物語に置いて、テンプレとも取られる話の展開。
物語によってスタンピードの定義は変わるが、“大量の魔物が街を襲う”と言う所は変わらない。
ダンジョンや迷宮と言ったファンタジーな物が無いこの世界で、スタンピードなんてあるんだな。
俺は、肩で息をするシルフォードが落ち着くまで待った後、口を開いた。
「スタンピードが起こったってどこで?神聖皇国か?それとも、正教会国か?」
シルフォードが慌ててやって来ると言うことは、今後の戦争において重要な場所でスタンピードが起こったのだろう。
そう考えていると、シルフォードは俺の想像をはるかに超えた事を言った。
「ブルボン王国!!ブルボン王国でスタンピードが起こった!!正確には、ブルボン王国でスタンピードを
「........?起こした?どういう事だ?」
その言い方では、誰かが人為的にスタンピードを起こしたように聞こえるではないか。
シルフォードは俺の質問に、少しだけバツが悪そうに答える。
「その、ファフニールさんが誤ってスタンピードを起こしちゃったみたい........」
........は?
ファフニールがスタンピードを起こした?
あまりに予想していなかった回答を聞いて、俺は一瞬固まる。
え?スタンピードって誤って起こせるものなの?
「く、詳しく簡潔にお願い」
「荒野を飛んでたら喉が渇いたらしくて、オアシスに降りたらそこが
「うんうんそれで?」
「
「........ウンウンそれで?」
「ファフニールさん、最初は自分1人で何とかしようと思ったらしいんだけど、大暴れすると目立つでしょ?だから、指示を団長さんに仰いだ」
俺は頭に手を当てて天を仰ぐ。
これが、ブルボン王国じゃなければ問題なかったのになぁ........
どこぞの田舎国家ならば、いっそ見逃してもいい。
お亡くなりになられた方々には申し訳ないが、運がなかったとしか言えないだろう。
しかし、ブルボン王国だと話が変わる。
あの国は神聖皇国と正教会国の最前線であり、かなり重要な場所になっている。
事実、既に多くの聖堂騎士がブルボン王国に入ってきており、着々と戦争の準備を始めているところだったはずだ。
そんなところに地竜を引き連れたスタンピードなんてやった日には、神聖皇国は正教会国と戦わずして甚大な被害を受けるだろう。
「ファフニールは今どうしてる?」
「人目につかないようにしながら、スタンピードを監視してるらしい。後1時間もあれば、最初の街エートと接触するはず」
どうせファフニールの事だ、自分の気配を消しながら世界を回ることに慣れてきていたのだろう。
そして、油断してしまったに違いない。
「はぁ、何やってんだか........」
俺は心の中でファフニールを1発思いっきり殴ろうと心に決めた後、イスと花音を呼び出した。
「話は聞いてたな?」
「聞いてたよー。ファフちゃん随分とポカやらかしたねぇ」
「ポカってレベルじゃない気がするが........まぁいいや。ブルボン王国はそれなりに遠いし、いつも見たいに移動すると多分間に合わん。イス、悪いが異能の中に入れてくれるか?それで、全力疾走で頼む。この方角に飛べばいいはずだ。近くになれば、ファフニールが迎えに来るだろうしな」
「了解なのー!!久々に本気で飛ぶの!!」
街ひとつが滅びそうだと言うのに、随分と呑気なものだ。
俺も人のことは言えないが。
そうして行く準備を整えていると、シルフォードが申し訳なさそうに話しかけてきた。
その様子はどこか怯えており、見ているこちらが何かしたのかと不安になるほどだ。
「あ、あの、団長さん」
「ん?どうした?」
「その、で、出来れば、私達も連れて行って欲しい」
珍しい。
多少の我儘を言うことはあるが、こうして俺たちについて行きたいという事は無かった。
怯えていたのも、俺に怒られるのでは?と思ったからだろう。
個人的にはどちらでもいい。
ついてきても着いてこなくても、やることは余り変わらない。
とはいえ、理由は聞いておくべきである。
「んー理由は?」
「エドストルが、戦争に参加したいらしい。昔、故郷にいた頃、両親を殺した奴が正教会国辺りにいると踏んでるみたい」
「へぇ?」
奴隷達の過去に着いて詳しく聞いたことは無い。
奴隷になる前の記憶なぞ、あまり思い出したくないだろうし、重要なのは過去ではなく今だ。
多少の事を知るために話すことはあったが、それ以降彼らの過去を無理やり聞くことはしなかった。
エドストルが奴隷になった大まかな経緯は知っているが........まさか両親が殺されていたとは。
正教会国と絞りこめる辺り、両親を殺した相手は目立っていたのだろう。
それにしても、敵討ちか。
俺達がそれを止める道理は無いな。
せっかく仲間になってくれたのだ。多少の我儘は聞いてやるべきである。
「戦争は参加させてやろう。正教会国に攻め込む時に、ちょいとねじ込んでやるよ」
「それはエドストルに言って欲しい。それで、ぶつけ本番で戦争に挑む前に、連携や多少の動きを確かめたい」
「なるほど。あの傭兵共じゃ話にならなかったか」
「弱くは無いけど、本気で暴れられる程じゃなかった。相手が地竜なら、全力でやれる」
つまりは、戦争前の調整にこのスタンピードと戦いたいわけだ。
んー個人的にはいいと思うが、一応花音達の意見も聞いておこう。
「どう思う?」
「いいんじゃない?情報の整理とかは少し大変になるけど、私達も手伝えばいいし、この拠点じゃなきゃ情報整理出来ないわけじゃないしね」
「そうだな。イスは?」
「皆と戦えるの嬉しいの!!」
「おーそうかそうか。嬉しいな」
純粋すぎる答えに眩しさを感じつつ、俺はイスの頭を撫でてやる。
イスって単純だよな。
「アンスールは?」
「あら?私にも聞くの?いいんじゃないかしら、実力も最低限はあるし、戦争で死ぬこともないと思うわよ。ジンぐらいイカれた敵が相手じゃ無ければ、だけどね」
アンスールも賛成。
ここまで聞いたならついでにメデューサにも聞いとくか。
「メデューサはどう思う?」
「Yah!!いいんじゃないですカ?何かあっても自己責任。ソレがこの世界デース」
お、おう。なかなかドライな事を言うがメデューサも賛成のようだ。
俺はシルフォードの肩を軽く叩き、命令を出す。
「よし、5分以内に全員集めてこい。遅れたやつはお留守番な」
「........!!ありがとう団長さん。すぐ連れてくる」
満面の笑顔で走り去っていくシルフォードを見て、俺はぽつりと呟いた。
「エドストルに惚れてる?」
「どうなんだろ?ちょっと違う気もするけど........」
ちょっと違うのか。
頑張れエドストル。
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