やっべ。どうしよう
一部を除いて、
仁からの呼び出しこそあるものの、基本的には一切仕事も無く暇をしている事が多い。
そんな厄災級魔物のウチの一体である“原初の竜”ファフニールは、草が1つも生えていない荒野の地を飛んでいた。
「何も無いのぉー。ここまで何も無いと、さすがに暇じゃのぉ」
見渡す限りの荒野。何も無いその地は、何万年と生きてきたファフニールにとっても退屈なものだった。
荒れ果てた大地は、草の1つも残すことなく消え去り、太陽の光を反射するだけの鏡と化す。
その地に住むものはおらず、例え厄災が振りまかれたとしても誰一人として困ることは無い。
かつては、栄えていたはずのその地も、今は何も無き死の大地となっていた。
ファフニールは、それもまた一興と思いつつ、優雅に空を飛ぶ。
しばらく空を飛ぶと、ちらほらと生き物の気配を感じるようになっていた。
「ほうほう。この地には地竜が多くおるな。どうも巣があるらしい」
何も無い荒野の中に、ちらほらと見つかる茶色の山。
その全てが、最上級魔物である
大地の調律者であり、飛べない竜。
その鋼鉄な甲羅は、何者にも破られることはなく、その咆哮は大地の怒り。
“浮島”として人々の世に名を残しているアスピドケロンも、元を辿れば
一匹ですら小国ならば滅ぼされる危険があるほど凶悪なドラゴンだったが、ファフニールからすればアリとさほど変わりは無い。
「人からすれば驚異なのだろうな........あぁ、いや、例外もおるか」
ファフニールは頭の中に1人の男を思い浮かべる。
その男は、たった一年半で自分たちの立つ領域にまで踏み込んだ人外だ。
ファフニールは、そんな男の下で伸び伸びとできるのが嬉しかった。
かつて語り合った友をどこか思い出すようで、ファフニールにとってソレは自分の生きる意味でもある。
「故に、迷惑はかけれんなぁ」
昔のように馬鹿は出来ない。ファフニールはそう思いつつ、チラリと見えたオアシスに降り立った。
否、降り立ってしまった。
運転に慣れ始めた頃が、事故する確率が1番高いと言う。
ファフニールは正に、“自分の気配を隠しながら世界を見て回る”事に慣れ始めていた。
そして、それが油断となってしまった。
少し前ならば、気づけただろう。
その飲み場が地竜の巣のテリトリーだと。
少し距離があったことで、ファフニールは地竜の領域だと認識するのが遅れたのだ。
正に油断。
慣れた頃に起こる事故。
地竜からすれば、自分の家に両手にミサイルを持った強盗が殴り込みに来たようなものだ。
下手をすればそれ以上である。
そして、我が家に殴りこまれた住民がどのような行動を起こすかなど見るまでもない。
「「「「「グオォォォォォォォォ!!」」」」」
静かに安寧の時を過ごしていた地竜達は、一斉に起き上がるとファフニールがいる方向とは逆に全力で逃げ出した。
戦う?バカを言うな。
赤子がマイ〇・タイソンに挑んだ方がまだ勝ち目がある。
それほどにまで絶望的な実力差があるならば、逃げるしかないだろう。
そして、運の悪いことに、逃げた先には国がある。
ファフニールがその事実に気がついた時には、全てが遅かった。
「やっべ。どうしよう」
この世界に創造されてから早数万年。
ファフニールは、生まれて初めて本気で焦った。
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ブルボン王国は、神聖皇国の属国だ。
かつては王を神として崇拝する様に様々な教えを説いてきた国だが、無謀にも神聖皇国に挑み敗北。
当時の王があまりにも酷かったこともあり、イージス教は割とすんなりとこの国の人々に受け入れられた。
それ以降は、神聖皇国と正教会国の最前線で睨みを効かせている。
「った、大変だ!!」
そんなブルボン王国の最南端、エートの街の冒険者ギルドでは、とてつもない混乱が始まろうとしていた。
ギルドの扉を蹴り飛ばして入ってきたのは、その街でもベテランと呼ばれるほど長い時間冒険者をやってきた中年の冒険者。
余程のことが無ければ動じることも無く、最善手を模索して危機的状況を乗り越えてきた彼がここまで慌てるその姿は、彼の知り合いからしたら驚きである。
「どうしたんだ?ベイス、お前の嫁さんが浮気でもしてたか?」
彼の知り合いである冒険者のひとりが、少し場を和ませる冗談を言う。
彼の嫁はそれはもうベイスにべったりであり、正直見ていると胃もたれを起こしそうななる程である。
何があっても浮気しないだろうからこその冗談だ。
しかし、そんな場を和ませる冗談にすらベイスと呼ばれた冒険者は反応せず、肩で息をしつつも大声を張り上げた。
「スタンピードだ!!スタンピードが起こったぞ!!」
ザワり、とギルド内が騒がしくなる。
スタンピード、何らかの要因により波のように魔物が押し寄せてくる現象の事を言う。
大抵の場合はその魔物の波に飲まれ、甚大な被害を出す。
中には国が幾つも滅んだ事例すらあった。
「そ、それは本当か?規模は?魔物の種類は?」
「規模は分かんねぇ。だけど、ヤバいってのは分かる。少なくとも、俺の仲間のひとりが観測系の異能で見た範囲は全て魔物だった」
「魔物の種類は?」
「ゴブリン種とオーク種が少し、荒野の方から来ているらしいから、スコーピオン系の魔物も多かった」
不味い。
冒険者ギルド内にいる全員がそう予感する。
スコーピオン系の魔物が逃げてくるという事は、それ以上の何かが迫っているという事だ。
基本的にスタンピードは、強力な魔物から逃げるために魔物たちが移動することで起こる。
上級魔物も多数存在するスコーピオン系の魔物が逃げてくる自体となれば、相手は更にその上、最上級魔物である可能性が高くなる。
「........まさか」
冒険者の1人が真実にたどり着く。
ここから南に広がる荒野に、地竜の住む巣があると言われている。
事実、地竜は確認されており、
「まさか、
ボソリとと呟いたその声は、想像以上に大きかったようで、ギルド内が一瞬にして静かになる。
そして、数秒たった後、ギルドにいた冒険者達は大慌てで動き始めた。
「今すぐに住民を逃がせ!!そして、領主様に報告しろ!!おい、ギルドマスター!!聞いてただろ?!
「言われなくてもやるわボケが!!お前らは今日オフの冒険者に声を掛けて戦力をかき集めてこい!!下手をしなくても死ねるぞ!!」
「傭兵ギルドにも話を通せ!!これはある意味戦争だぞ!!」
「報酬は領主様から巻き上げてきてやるから、何とかしろよ!!頼んだぞ!!」
騒がしくなるギルド、そして、これが彼らの不本意な初陣となるのはまだ誰も知らない。
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