各国の現状②

 11大国の1つである獣王国。数多くの獣人が住むその国の王都には、高くそびえる城がある。


 獣人達の誇りである“強さ”を象徴したその立派な城に、1人の青年が門を叩こうとしていた。


 門番が槍をその青年に向ける中、青年は大声を張り上げて城にいるはずの獣王に挑戦状を叩きつける。


 「頼もう!!腰抜けの獣王の挑む!!俺の名はバゼイル!!新たな王になりに来た!!」


 常識がある者が見れば、目を疑う光景だ。


 一国の王を腰抜け呼ばわりしたどころか、新たな王として自分が成り代わると言うのだから。


 もし、このようなことを大帝国や聖王国でやろうものならば、一族郎党皆殺しすらも生ぬるい罰が待っているだろう。


 しかし、この国は強さを重んじる国。


 無謀にも王へと挑もうとする若き力に、門番達は呆れつつもどこか楽しそうに槍を下ろした。


 「そうかい。今日はアンタで7人目だ。全く、毎日飽きもせずき客がわんさか来るな」

 「そう言うなよ。獣王様が魔王に敗北してからというもの、陛下の評判が落ちている。強さが全てのこの国では仕方がないさ」


 門番のひとりがそう言うと、槍を持っていた手がぶれる。


 次の瞬間、槍は青年の顎を撃ち抜いて青年の意識を奪った。


 「かーっ!!ダメだねぇ。俺の一撃を避けられないなんて。こんなんじゃ、獣王様に挑むには100年は早いね!!」

 「全くだな。今のに反応すら出来ないとは........獣王様のお手を煩わせるまでもない」


 門番達はそう言うと、倒れてしまった青年の首根っこを掴んで放り投げる。


 青年は、受身を摂ることも出来ずに地面へと激突した。


 本来ならば牢にぶち込まれるのだが、あまりに弱すぎたのとその若さゆえに門番達からは何も見なかったことにされたのだ。


 ある意味、幸運だった。


 「獣王様が魔王に負けて以来、随分とこういう事をするアホが増えたな」

 「中には本当に強い奴もいたが、その殆どは雑魚ばかり。弱いやつほどいきがるってはあながち間違いじゃないかもな」


 獣王が魔王に敗北したという噂は、あっという間に国中にへと広がっていった。


 政治をするもの達は、何とかその噂を止めようと尽力したが、噂を広めた本人が獣王だった場合はどうしようもない。


 「獣王様曰く、相性が最悪だったらしいが、その魔王とやらはどのぐらい強いのかねぇ?」

 「さぁな。少なくとも、獣王様に負ける俺たちじゃどうしようもないのは事実さ。俺はそれよりも、魔王を一瞬で凍らせたやつの方が気になるね」


 獣王は自分が負けた事を広まると同時に、もう1つ噂を広めていた。


 “何者かが、自分達では全く歯が立たなかった魔王を一瞬で凍らせて討伐した”


 この噂は、獣王が魔王に負けた事と相まって、今ではあちこちでその話がされている。


 中には、“その正体は自分だ”という者が現れたりしたが、獣王自らが赴いてはボコボコにされたりしている。


 獣王としては、この国の危機を救ってくれた者に礼の1つでもしたいという意味を込めて広めた噂だったのだが、そのせいで国は軽く混乱していた。


 「なんだったっけ?今の獣王様を下ろして、その氷の人を新たに獣王にしろって抗議が最近起こってるんだったよな?」

 「その通りだ。まぁ、魔王を凍らせた本人が名乗り出てないところを見るに、本人は獣王になる気はないんだろうな。だが、民衆は別だ。この国は良くも悪くも強いやつが偉いからな。獣王様ですら倒せなかった魔王を一瞬で倒せた御仁がいるなら、そっちに王となってもらいたいのだろうよ」

 「それが王の器で無かったとしてもか?」

 「さぁ?少なくとも俺は今の獣王様の方がいいな。こんな木っ端の俺達にすら、分け隔てなく接してくれる優しい方だ。知ってるか?獣王様はこの城に務める全ての者達の名前を覚えているんだぜ?」

 「そりゃ、すげぇ。この城に一体何百人勤めているんだか。その全ての人を覚えるとか、正気の沙汰じゃないぜ」

 「魔王には負けちまったかもしれないが、王としての器なら圧倒的に獣王様の方が上だ。俺達はその背中を追えばいいのさ。俺たちだけじゃない。少なくともこの城で働いている奴らは皆そう思っているだろうよ」


 門番はそう言うと、小さな欠伸をする。


 日はまだ高く昇っており、彼等が自由になるのはもう少しあとだと告げていた。


 「それにしても、魔王が討伐されてからの方がこの国は荒れてるな。最近では獣人会とどっかの勢力がドンパチやってるって話だし、この混乱はいつまで続くのかね?」

 「獣人会か。闇に生きるヤツらを応援するってのは少しおかしな話だが、個人的には頑張ってもらいたいな。相手は人間の組織って話だろ?もし、奴らが勝ったら俺達は奴隷として売られちまうかもしれないからな」


 現在獣王国では、獣人会ととある組織が抗争を繰り広げている。


 国の混乱に乗じて獣人会へ攻撃をし始めた組織だったが、現状では獣人会の方が優勢に戦えていた。


 相手が人間の組織というのもあり、獣人会を応援する者は多い。仲間意識から来るその応援は、至る所で獣人会の有利になるように働いているのだ。


 更に、最近では人間にキツく当たる獣人も多い。


 正当に王になったならともかく、国の混乱を突いて不意打ち同然の事をした組織を快く思うような奴はいない。


 普通に獣王国で暮らしている人間からすればいい迷惑だった。


 「噂では、正教会国辺りの人間が関係しているんじゃないかって言われてるな。あの国は獣人を人として見ない国だし、可能性としては有り得るぞ」

 「神聖皇国や聖王国が、わざわざこの国にちょっかいをかけるメリットは無いもんな。あの国は自分たちと俺達をちゃんと同列に見るから、人攫いなんてしないし」

 「同じイージス教の教えを信じているのに、どうしてここまで違うんだろうな。人間ってのは分からん」

 「それは確かにな。神聖皇国の聖典と正教会国の聖典を読み比べてみると面白いぞ。言ってることが真逆で、何から何まで違ってからな。下手な寸劇を見るよりも笑えるぞ」

 「それは面白いな。どこで売ってるんだ?」

 「たしか──────────」


 こうして、門番達の日常は過ぎ去っていくのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 そんな門番達が話しているところにたまたま遭遇した“獣神”ザリウスは、門番達の会話を聞いて軽く目に涙を貯めていた。


 偶然自分の話をしていた為、急いで気配を消して隠れたのだ。


 周りは“貴方しか王は居ない!!”と言うが、敗者に国を背負う資格は無いと思っていた。


 しかし、彼らはそれでもザリウスを選んだのだ。


 王の器は彼しかいないと言って、再びその背で国を背負うことを期待している。


 「弱っちい俺に付いててくると言うやつがいるなんてな........魔王に負けた俺はお役目ごめんだと思っていたが、もう少し頑張ってみるのもいいかもしれないな」


 ザリウスはそう言うと、さらなる力と王の器を求めて先ずはこの国を蝕もうとする人間の裏組織を潰そうと決意した。


 国を守るのは王の役目。先陣切らずして何が王か。


 そう考えたザリウスは、ゆっくりと立ち上がる。


 「俺には王の自覚が足りなかったんだ。アルドレア、カゼフスの両名に誓おう。俺はこの国の王として二度と投げ出さないと。いつかこの借りは返すぞ」


 ザリウスは2人の名前に誓いを立てると、こっそりとその場を後にするのだった。

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