モヒカンは良い奴
マルネスの魔道具店で買い物を済ませた俺達は、大通りに立ち並ぶ屋台で買い物をしていた。
天高く日が昇る今は昼時であり、人々が小腹を埋めるために屋台に殺到している。
普段は傭兵ギルドで昼食を済ますのだが、偶には趣を変えてみるのもいいだろう。
「........なんというか、微妙だな」
「美味しくない訳では無いんだけど、別にそこまで美味しい訳じゃない........微妙だね」
「お肉
適当に並んで買ってみた串焼きを口の中に入れつつ、俺達は思い思いの言葉を口にする。
別に不味い訳では無い。が、どこか物足りない。
イスが強調していたとおり、素材はそれなりにいいものを使っているが、味付けがダメだった。
「どんな高級食材でも、作り手が下手だとダメだな」
「武器とかもそうだけど、使い手次第だよねぇ。焼き加減とかはいいんだから、無難に塩コショウでも美味しいと思うんだけど」
「なんだったっけ?三代受け継がれてきた秘伝のタレだっけ?受け継いだ歴史よりも味だろ」
「まぁ、その受け継いだ歴史に釣られて買ったんだけどね」
屋台の隣に置いてあった看板に、“三代に渡って受け継がれてきた秘伝のタレ!!”って書いてあったから買ったんだよな。
花音の言う通り、そこに釣られて買ってしまったわけだ。
どこか物足りなさはあるが、別にマズイ訳では無い。
ハマる人にはハマるのだろう。
結構いい値段するけど。
「今度から昼飯はギルド一択だな。安い、早い、美味い。この三拍子が揃ってるのはあそこだけだわ」
「唯一の欠点は、傭兵たちがうるさい事ぐらいかな?何故かみんな寄ってきて、最終的にはどんちゃん騒ぎだもんねぇ」
「そうだな........」
俺は傭兵ギルドで騒ぐアホ共のことを思い出す。
俺達が何か食べていると、それにつられた傭兵達が酒を頼みながら俺達には絡み、俺もノリがいいからそれに乗って、周りの奴らも楽しそうにしている俺達を見て、その輪に入ってくる。
結果、どんちゃん騒ぎになるのだ。
普通に昼食を取りに来ただけなのに、気づけば夕方だったなんてザラである。
そんなことを1年近くやっていた為か、ギルドが騒がしい時は俺達がいるって認識になってしまった。
「買い出しに行く時は、暇のときだからな。魔王が急に復活するとかじゃなければ周りとのコミュニケーションに使って信頼を得た方がいい」
「信頼は身を助けるってね。でも、積み上げるのは大変だよ」
「壊すのは簡単なのにな」
俺達が話しながら歩いていると、正面から世紀末に居そうな頭をしたガラの悪い傭兵が歩いてくる。
汚物は消毒だ!!ヒャッハー!!とか言ってそうな風貌をしたソイツは、俺たちに気がつくと軽く手を振りながら近づいてきた。
以前、バルサル最強をぶっ飛ばして時の人となった俺だが、人の噂も七十五日。今では俺に興味を抱く人は少ない。
気配を消していない俺達に、あのモヒカンが気づくのは当たり前だと言えた。
「おー。ジン達じゃないか。久しぶりだな」
「久しぶりだな。モヒカン。あんたみたいな顔面凶器がこんな大通りを歩いてていいのか?」
「ブハハハハハ!!いいに決まってるだろ?イケメンすぎるこの顔が凶器って言う気持ちはわかるがな!!」
初めてあった時よりも、返しのキレがいい。
1年近い付き合いで、俺への対応の仕方が分かってきたのだろう。
モヒカンは、キラーンと効果音がなりそうなほど白い歯を見せて爽やかに笑った後素に戻る。
「んで、親子揃ってお買い物か?」
「そんなところだ。モヒカンは?」
「俺は今から孤児院に行くのさ。寄付はしてるが、経営は厳しいからな。子供達に腹いっぱいとは言えないが、肉を食わせてやりたい」
モヒカンは持っていた麻袋の中を開くと、そこには調理されていない肉がギッシリと詰まっていた。
家畜や冒険者が買ってくる魔物など、肉を得る手段は多いが、野菜と比べると危険が伴うし、家畜も外敵から守るためにコストがかかる。
そのため、どうしても野菜より高くなるし、資金があまりない孤児院は肉を腹いっぱい頬張ることはなかなかできない。
モヒカンは、開いた麻袋を閉じると、少し苦い顔をして呟いた。
「コレでも足りないんだけどな。俺の生活も考えるとこの辺が限界なんだ」
「孤児院には何人ぐらい子供がいるんだ?」
「大体50人ぐらいか?孤児院に入れる子ってのも少ないからな。大抵はスラムの方に流れちまう。そして、スラムに流れた子供ってのは大抵死ぬ」
悲しいことだが、これが現実だ。
更に、俺たちではどうこうしようともどうにも出来ないのが実態である。
まぁ、俺達は聖人君子どころか己の復讐のためだけに戦争をふっかけようとするアホなので、悲しくはあるが、どうこうしようとは思わない。
綺麗事で世界が回る訳では無いのだ。
「孤児院って言うと、大通りを1本ズレた道だよな?」
「そうだ。お前も来るか?遊び相手は何人いても困らないからな」
モヒカンはそう言うと、イスの方を見る。
イスは、口直しに干し肉を食べていた。
「イスちゃんも同年代の子と遊べるいい経験になると思うぞ?普段はあのむさ苦しい連中がベタベタしてるだけだからな」
「そのむさ苦しい連中の中に、お前も入っているってことを自覚してるか?」
「ばっか。俺は爽やかイケメン枠だ」
「寝言は寝てから言えや。鏡見てこいナルシスト」
俺はそう言って、モヒカンについて行くのだった。
もしかしたら、世話になるかもしれないからな。多少の親睦は深めておこう。
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嫉妬の魔王が討伐されてから三ヶ月。
世界は平和を保っており、人々は明るい未来を胸に抱いて生きている。
そんな平和な時が流れる中、心中穏やかでは無い者も多くいる。
そのうちの一人、神聖皇国の教皇シュベル・ペテロは報告書を見て盛大にため息をついた。
「はぁ........魔王が復活しないことはいい事かもしれないが、私としてはさっさと復活して討伐されて欲しいものだ」
「そうですね。今後のことを考えて、色々と動かしてはいますが動かせないものもありますからね」
教皇の右腕、枢機卿フシコ・ラ・センデスルは、教皇の言葉に頷きつつ書類を整理していた。
彼らが見ている書類は、今後起こる........否、今後起こす戦争の準備についての資料だ。
大陸の上と下に位置する神聖皇国と正教会国。
その距離はまともに移動すれば1年近くかかってしまう。
あの者達を裁いて、逃がして、正教会国にたどり着くまでに1年。更に宣戦布告し、兵力を集めて移動させるのに2年。戦争を始めるのに1年。
単純計算で計4年近くかかってしまう。
教皇も既にいい歳だ。いつポックリと死んでしまうか分かったものでは無い。
その為、4年かかる準備を1年に短縮するために様々な準備をしているのだ。
これは既に仁達から計画を擦り合わせていた時から動かしており、正教会国に勘づかれないように慎重にそれでいて大胆にやっている。
とは言え、動かせないものがあるのも事実であり、魔王という存在が邪魔であった。
「まさか、魔王が早く復活して欲しいと思う日が来るとはな........」
「気長に待ちましょう。短気は寿命を縮めますよ」
教皇と枢機卿は、今日も今日とて深いため息を吐きながら積み上がった書類と向き合うのだった。
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