氷合戦⑦

  アンスールガ落ちた事により、俺達の戦力差が大きく傾いた。


 厄災級魔物、それも人型では1番強いと言っても過言では無いアンスールが落ちたのだ。三姉妹や奴隷達には申し訳ないが、戦力の4分の1が無くなったと言っても過言ではない。


 「よし、コレで補給所も抑えたし、かなり有利になったな」

 「そうだね。イスはどう動くのかな?」

 「イスは真ん中を抑え続けるだろうな。あそこまで取られると一気に不利になる。今はまだ、少し不利ってところだろう」


 ここからイスのいる地点に向かって氷玉を投げてもいいのだが、それは流石にゲーム性をぶち壊す。2~300m程度なら障害物を無視してもいいが、1kmも無視したら障害物の意味が無い。


 よって、無限に玉の補給ができるここから超遠距離戦をするのはナシ。


 俺達はここから動かないといけないのだが、待ちの方が圧倒的に有利なんだよな。


 「どうしたもんかねぇ。待ってたほうが絶対強いけど、それをやるとゲームが終わらん。かと言ってこちらから出向けば、苦戦は必至」

 「多分メデューサも待ち構えているだろうから、勝つのは厳しいね」


 トータルの戦力で見れば俺たちが有利。ただし、攻めに行こうとすれば俺達が不利になる。


 めんどくせぇなこう言う睨み合いは。


 真ん中で待ち構えているメデューサはアンスール並に強いし、イスはそれ以上に厄介だ。


  ちなみに、俺と花音はイスを人型の魔物としてカウントしていない。


 何故かって?


 そりゃ、イスはドラゴンだからさ。ドラゴンが人の形になれるようになっただけであって、本質はドラゴンだ。蒼黒氷龍ヘルと言うのが、イスである。


 「ストリゴイさん。アウトです」


 そうやって悩んでいる内に、また1人脱落者が出てくる。


 今度はストリゴイか。これは中々痛いな。コレでリーシャ、ストリゴイペアは二人ともアウトになってしまった。


 しかし、アナウンスはそこで終わらなかった。


 「ゼリスさん。プランさん。スンダルさん。アウトです」


 一気に3人減ったぞ。これで残りはイスとメデューサ、エドストルの3人になった。


 恐らく、ドッペル辺りが上手くやったのだろう。


 「これはチャンスだな。人数差がかなり出てきている。エドストルも合流のためにイス達のいる真ん中に集まるだろうし、俺達もそこで叩くとしよう」

 「こっちには弾数に制限があるけどどうするの?」

 「とりあえずドッペル達をこちらへ呼ぶ。全員満タンまで玉を補充すれば60発は投げれるんだ。なんとかなるだろ」


 なんともならないかもしれないが。


 メデューサもイスも強いからな。弾数に制限があれば負ける気がしないが、向こうはアンスールのような弾幕を張れるのだ。


 その時点でコチラの方が若干不利ではある。


 エドストルは........まだまだ精進してくれたまえ。


 まぁ、そこら辺はどうにかするとして、ドッペル達を呼ぶとしよう。


 俺はわざと目立つように魔力を練り上げて、ドッペル達に俺の存在を知らせる。


 頭の回るドッペルなら、俺が呼んでいることに気づくだろう。


 三分ほど待つと、ドッペルとトリスがこちらへやってくる。


 「呼びましたカ?」

 「呼んだとも。残り3人を仕留めに行くからな」


  俺がそう言った次の瞬間だった。


  俺の探知内にものすごいスピードで走ってくる影が2つ。更に、少し遅れて走る影が1つ。


  イス達だ。待ちが有利なこの状況で、攻撃を仕掛けてきやがった。


 「マジか。ここで来るのか?どう考えてもこっちが有利になるぞ?」

 「何か作戦があるのかな?ともかく、迎撃準備をしておかなきゃね」


  全員両手に玉を持って迫ってくるイス達を迎え撃とうと身構える。


  さて、どうやって俺達を崩しに来るんだ?


  イスとメデューサは射線通る道の1本手前まで来ると、道を変えて俺達を囲むような動きを始めた。


  探知は余裕でできるが、足が早すぎる。このスピードで走るイスとメデューサを偏差で狙うのは大変そうだ。


  そして、遅れて走ってきたエドストルは到着すると同時に上に向かって氷玉を投げてきた。


  しかも、10発全てをだ。


  この瞬間エドストルは完全に無防備になるが、遮蔽物を挟んでの攻撃の為、即座に反撃したところで当たらないだろう。


  そして、この玉を合図にイスとメデューサが突っ込んでくる。


  何がしたいのかは分からないが、コレは迎え撃つしかない。


 「やれ!!」


  俺の声と同時に全員がイスとメデューサ目掛けて氷玉を投げるが、その瞬間に遮蔽物に隠れて氷玉は空をきる。


  やっぱ当たるわけがないな。この程度なら簡単に避けられてしまう。


  しかし、最初に放ったエドストルの玉がまだ落ちてこない。かなり山なりに投げていたが、どこまで投げたんだか。


 「上は注意しておけよ」

 「撃ち落とすにはもう少し落ちてくれないと、厳しそうだね」

 「どこまで上に投げてるんだか。そして、何がしたいのか分からん」


  イスとメデューサは遮蔽物に隠れた後、直ぐに移動を開始している。本当に何がしたいんだ。


  こういう時は無理やりにでも攻めた方がいいのだが、イスが何をしてくるのか知りたいのであえて受けを選択している。


 「また、来ますヨ」


  ドッペルの合図と同時にイスとメデューサが射線上に再び現れた。


  もちろん俺達は、容赦なく氷玉を投げるが上手く避けられる。今回は、自分の持っている氷玉をぶつけての防御もしているようだ。


  イスは4発の玉を使って自分を防御しつつ、地面スレスレを走って弾幕を避ける。が、その程度で全てを掻い潜れるほど浅い弾幕は張っていない。


 「メデューサ!!」

 「Yah!!後は任せましたよ!!」


  玉がイスに当たるその瞬間、メデューサが身を呈してイスを守った。


  コレでメデューサもアウト、その代わり張った弾幕に穴が出来た。


 「エドストル!!」

 「いよぉいしょぉぉぉ!!」


  イスは次にエドストルを呼ぶと、エドストルは補給してきた玉をもう一度空へと投げる。


  あの短時間の間に取りに戻ったその足の速さに驚いたが、それどころではない。


 「花音、いけるな?」

 「り」


  空を舞う20の玉を、花音が叩き落とそうとしたその時だ。


 「吹き飛ぶの!!」


  イスは、ドラゴンの翼を出して1度だけ大きく羽ばたく。


  ドラゴンの羽ばたきは、花音の放った氷玉の軌道を変える。


 「うわ!!それはずるい!!」

 「ルール違反でハないですネ.......異能や魔法ではありませんシ」

 「アンスールさんも同じようなことしてましたね......」

 「それよりも落ちてくるよ!!」


  イスの奇策によって、撃ち落としが出来なくなった俺達に残された選択肢は避けることただ一つ。


  全員がバラバラに避けたその隙をイスは見逃さない。


 「ふっ!!」


  一瞬の間にトリスとシルフォード、ロナをアウトさせる。


  3人は大きく避けすぎた。そのせいで浮いた駒になってしまったのだ。


  最小限の動きで避けた俺と花音とドッペルは、イスに向かって反撃しようと氷玉を投げるが、


 「いて!!」


  当てられたトリスを上手く盾にして攻撃を避け、そこからドッペルを狙い撃ちする。


  ドッペルは反応して避けたが、少し無理な体勢になっている。そして、我が子はそれを見逃さない。


 「ヤバ.......」

 「残り2人」


  ドッペルもアウト。俺と花音VSイスとエドストルの戦いになる。


  最終決戦だと意気込んだそのときだった。イスのやる気がピタリと止んで、その場に立ち止まったのだ。


  いきなりのストップに俺も花音も戸惑う。コレは罠か?攻撃していいのか?


  するとイスは、慌てた様子で異能を解除しながら叫んだ。


 「もうすぐ魔王が復活するの!!」

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