ヴァンア王国前哨戦

見た目と声は中々合わない

島から出発し、霧の中を抜け、海の上を飛ぶ事2日。ようやく大陸が見えてきた。


「して、ジンよこの後はどうするのだ?」


俺達を背中に乗せているファフニールが、大陸を目にしながら質問してくる。みなには、大まかにやる事は伝えている。魔王討伐と正教会国との戦争だ。その後の事とかは全く考えてないし、今もメンバー集めしようとは思っているが、具体的なプランはない。つまり行き当たりばったりだ。


「どうしようかねぇ。とりあえず拠点が欲しいな。お前達がいても、全く問題にならないような場所がいい」


街の近くを拠点にしよう物なら、まず間違いなく討伐部隊が組まれて人類との戦争になるだろう。どれだけこちらが友好的に接したとしても、恐怖は理性を飛ばすのだ。


そんな事を思っていると、ウロボロスが寄ってくる。どうやら何か案があるようだ。


「ほう!!それなら心当たりがあるぞ!!今はどうなっているか知らぬが、ワシの旧友がおった場所だ」

「そこなら問題ないと?」

「うむ。気配をまだ感じるのでな。おそらく生きておる。場所も変わってないであろう」


ウロボロスの旧友って、何年ぐらい前の友人なのだろうか。ウロボロスとか他の厄災級魔物達も、長生き過ぎて時間感覚が当てにならないからな........


付いてこい、と言って先頭を飛び始めたので、皆ウロボロスについて行く。


ちなみに、空を飛べない組は飛べる奴の背中に乗っているのだが、さすがにジャバウォックとヨルムンガンドは乗れないので、俺の異能を限界まで薄く広げてそこに乗せている。


ヨルムンガンドとか全長100mよりあるんじゃね?と言うほどデカかったが、割と簡単に乗れた。金のように薄く伸ばすと、結構な面積に広げれるのだ。能力訓練の賜物である。


しばらく飛ぶと、一際大きい山が目につく。山頂は雪で覆われており、途中までは木々が生い茂っている。そして、その山からは巨大なを感じる。


間違いなく、この山がウロボロスの旧友なのだろう。そして、この山のようにでかい厄災級魔物を俺は知っている。


「おい、ウロボロス。もしかして旧友ってのは浮島アスピドケロンの事か?」

「そうだ。かつては一緒に人の国を滅ぼしたものよ!!懐かしいのぉ」


浮島アスピドケロン。かつては海に島のように浮かんでいたが、ある時を境に地上に現れた厄災級魔物だ。


その山のように大きい甲羅はありとあらゆる攻撃を弾き返し、1歩足を踏み出せばその大地は沈むと言われている。また、青いブレスを吐くらしく、その威力は5km離れた街を一瞬にして更地に変える。その山の大きさから見ると、富士山よりも大きそうだ。多分エベレストよりは小さい。


現在、厄災級魔物の中で唯一居場所が分かっている魔物でもあり、下手に刺激しない限りは何もしてこないので、遠目から見る人は多い。


「ウロボロス。人目のつかない所がいいんだが......」

「なぁに、心配は要らぬ。ワシが無限を使って見えないようにしてやろう。今のようにな。それに、彼奴の近くに人が寄ることは無い。隠れ家としては最適では無いか?」


ウロボロスの言う通り、今俺達はウロボロスの能力によって姿が見えないようになっている.......はずだ。俺はウロボロス達を認識できるから、下から見上げて見えないのかどうかは分からない。本人がそう言っているので、そうなのだろう。


まぁ、面倒事を避けるために、人の目につかない場所が好ましいと言うだけであって、どうしても人目に付かないようにしたい訳では無い。


面倒事が起きたら起きたでいいか、好立地は中々見つからないのだ。妥協大事。


山に近づくと、山もこちらを察知したのか警戒しているのがわかる。全く動いてないが、確実に意識がこちらに向いている。


少しピリついた空気の中、ウロボロスはかつての旧友に向かって話しかける。


「アスピドケロンよ!!ワシだ!!ウロボロスだ!!覚えておるか!!」

『その声ウロちゃん?!めっちゃ久しぶりじゃん!!急にいなくなってあたし寂しかったんだよ〜!!』


えぇぇぇぇぇぇぇ........声も話し方もイメージと違いすぎるんだけど。完全にjkだ。しかも、頭の中に声が響く。1部の魔物が持っていると言われる、念話を使っているな?


念話とは、念じることで相手に直接話したい事を伝えることが出来る。基本的には統率系統の魔物が持っていると言われているな。


本来はウロボロスにしか聞こえないはずなのだが、ウロボロスが声を拡散させたのか、それとも俺たちにも聞こえるようにアスピドケロンが話したのか、俺達にも声が聞こえている。


「ふははは!!すまんな!!色々とあったのだ!!とりあえずそちらへ降りるが良いな?!」

『いいよ!!来ちゃって!!来ちゃって!!』


アスピドケロンの許可が降りたので、みんな揃って目の前に降りていく。アスピドケロンは顔を甲羅の中に仕舞っていたようで、ゆっくりと顔を出した。


その顔は完全に亀であり、誰がどう見てもあんなjkのような話し方をするとは思えないだろう。渋い爺さんのような声の方が、圧倒的に似合う。


『オヨヨ?ウロちゃん以外にも一杯気配あるなーと思ったら、中々すごいメンツだね』

「そうであろう?皆強き者たちよ」

『うんうん。特にそこの人間2人。君たち本当に人間?あたしが本能的に勝てないと思うのは、そこにいるファフニールさん以来だよ』

「え?ファフニール知り合いなの?」

「当たり前だ。我は原初の竜だぞ?この世界が創成されたその時から生きておるわ」


流石は原初の竜。生きてきた時間が違いすぎる。其れはともかく、挨拶はしっかりとしないとな。俺と花音はアスピドケロンの前に立つと、丁寧に挨拶する。


「はじめまして。浮島アスピドケロン。俺は傭兵団揺レ動ク者グングニル団長、ウイルドの名を持つ者、東雲仁だ」

「副団長、ギューフの名を持つ者、浅香花音。よろしくね」


この挨拶は、ギルド揺レ動ク者グングニルの頃の正式な挨拶の仕方だ。この世界では、傭兵団揺レ動ク者グングニルの団長としてやっていくつもりである。


なんか黒歴史製造機君よりもやべぇ黒歴史作ってる気がするが、こういうのはノリと勢いだ。ノリと勢いは全てを解決するのだ。


『はじめまして!!ジンくんにカノンちゃん!!ところで、ようへいだんぐんぐにる?って何?』

「........傭兵団の言葉の意味知ってる?」

『わかんない!!』


俺はウロボロスの方を見る。するとウロボロスは、とても残念そうな顔をして頷いた。なるほどこの子は少々頭が足りない子のようだ。


難しい言葉で説明しても分からないだろうから、物凄く簡潔に簡単に説明しなければ。


「傭兵団ってのは、簡単に言うと、金で雇われる戦闘集団の事だ。揺レ動ク者グングニルってのは、その傭兵団の名前だ。わかったか?」

『えっと、お金を貰って人殺しする集団って事?』

「あながち間違いではないな」


俺達の場合は、金をいくら積まれても動かない場合があるけどな。神聖皇国との戦争とか。


『集団って事は、何人もいるの?』

「いるぞ。と言うか、君の目の前にいる者達は全員、揺レ動ク者グングニルのメンバーだ」

『えぇぇぇ!!ファフニールさんもウロちゃんも傭兵団なの?!』

「そうであるな!!」

「うむ、我も揺レ動ク者グングニルの一員だぞ」


その凄く驚いた顔をするアスピドケロン。コイツ亀なのに中々表情豊かだな。口をあんぐりと開けて、目も見開いているその顔は、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。


『ほへ〜凄いね。その気になれば世界征服できるんじゃない?』

「かもしれぬな!!まぁ、我が団長殿がそれを望むかどうかは別であるがな!!それで、アスピドケロンよ。お主の傍に我らの拠点を構えたいのだが、良いだろうか」


ここでようやくウロボロスが本題を切り出す。アスピドケロンがいる為、近くによる人はおらず、1番近い街も上から見た感じだと30km以上離れている。その間には森があり、アスピドケロンまでの行く手を阻んでいるので、簡単にはここまでこれない。


心配事があるとすれば、人目につきやすく、アスピドケロンに少しでも違和感があれば調査隊が組まれこちらに近づいてくる事だろう。


1歩歩くだけで街が潰れるような大きさの厄災級魔物なのだ。毎日のように警戒しているはずだ。


そして、離れて見られるとはいえ、観光名所のようになっている。それだけ多くの視線が集まれば、ウロボロス達を見られるのも時間の問題。


だが、ここよりいい場所を探すのかと言われると、もうぶっちゃけ面倒である。丸2日も空を飛んでいるのだ。さっさとゆっくり寝たいのが本音だ。


うん。ここでいいかな。さっきも言ったが、妥協は大事だ。


『いいよ〜!!ただ、1ついいかな?』

「なんだ?」

『私も仲間に入れて!!』


厄災級魔物の条件ということで少し警戒したが、どうやら普通の提案だった。確かに、1人だけ仲間はずれは寂しいだろう。特に性格jkみたいな奴には。


「いいぞ、俺達揺レ動ク者グングニルは君を歓迎しよう。詳しいことはウロボロスに聞いてくれ。旧友の方が話しやすいだろ?」

『旧友じゃなくて、今でも友達だよ!!ね?ウロちゃん』

「ふははは!!頭は弱いが良き友人であるぞ!!それと、旧友は古くからの友という意味であって、昔の友という訳では無いぞ?」

『え?そうなの?』


少し頭の弱い子だが、明るく元気なムードメーカー的存在が入ってきてくれた。コレでまた賑やかになるだろう。また大きすぎて、運用に困るメンバーだなぁとは思うが深く考えない事にした。なんとかなるっしょ。多分。


「随分元気な子が入ってくれたね」

「あぁ、イスとは仲良く出来そうだな。マジ卍ーとか言い出されても困るけど」

「それもう死語だよ仁」

「え、マジ?」


時代の流れは早いんだなぁと思いながら、俺は未だにファフニールの背の上で寝ているイスを見るのだった。寝る子は育つって言うけど、この子寝すぎでしょ。

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