計画は慎重に綿密にそれでいて大胆に

「「..............................は?」」


龍二と花音、2人の顔が固まる。そりゃ、暗殺計画をどうするか考えていたのに、急に死にますは困惑するだろう。


2人の反応を楽しそうに眺めていると、スっと花音が立ち上がる。その手には、仕舞ったはずのナイフがいつの間にか握られていた。あ、ヤバい。止めなきゃ。


「待て花音早まるな。話は最後まで聞け」

「大丈夫だよ仁。私ちょっと行ってくるね」

「あれぇ?デジャブかな?さっきそのセリフ聞いた気がする」

「大丈夫だよ仁。私ちょっと行ってくるね」

「うん。大丈夫じゃないから。少し落ち着こうな?話は最後まで聞け。別に本当に死のうとしているわけじゃないなら」

「大丈夫だよ仁。私ちょっと行ってくるね」

「ダメだこの子!!」


5分もかけて何とか花音を落ち着かせると、俺はまた花音が暴走しないようにさっさと考えを2人に聞かせる。


「俺らが証拠も無く、アイツらを殺したら悪者は俺ら。ならば証拠を作ればいい」

「どうやって?」

「俺が殺されたをすればいいんだ。そしてその証拠を持っていれば、完全に俺達が悪とは言えなくなる。まぁ、この国の法律が分からないから、殺人はどんな理由があろうとダメとか言われると困るが」


こんな事なら、ロムスにこの国の法律についての本があるか聞けば良かった。どの世界でも、法律は重要なんだな........


「んーなら、合法的に殺せるようにしちゃえば?」

「おい?そもそも殺す前提なのか?」


龍二が馬鹿げたことを聞いてくる。同郷だろうがなんであろうが、超えては行けない一線はあるんだよ。特に.......


「花音に手を出そうとした罪は重い」

「仁を殺そうとした罪は重い」


特に、俺達2人に手を出す事は。それを聞いた龍二は、半分呆れ顔で「あぁそう」とだけ言った。付き合いが長い龍二は、俺たちに言っても無駄だと悟ったのだろう。


「それで花音。どうやって合法的に殺せるようにするんだ?」

「簡単だよ。戦争を起こせばいいの。もちろんあの5人は敵国側として参加させてね」


確かに、戦争中の殺し合いは罪には問われないだろう。だが、どうやって戦争を起こし、あの5人を敵国側の人間として参加させるんだ?その回答は花音が既に用意していた。


「まずは仁を殺してもらう。これは龍二、あの5人と話せる貴方にも協力してもらうよ?」

「え?俺?」

「報酬は、アイリスちゃん達との秘密の共有。やったね、接する機会が増えるよ。頑張って口説いてね」

「よし乗った」

「えぇ(困惑).........」


先程まで、あの5人を殺すのか?とか聞いていたやつとは思えないほどの、手のひら返しだ。あまりに鮮やかすぎて見とれるよ。


少し話は変わるが、龍二はお姉さん系の褐色美人が大好きだ。つまりアイリス団長は、龍二のタイプなのである。訓練日初日は、相当羨ましがられた。光属性の教官はオッサンだったからな........アイリス団長は、彼氏とかいないそうなのでチャンスはある。頑張れ龍二。親友として応援してるぞ。


「龍二には、あの5人に混じって暗殺計画を立ててもらう。出来れば主導で計画を立てて欲しい」

「そしてその計画の情報をお前達に流すと」

「そういう事。理想としては、この前遠征しに行った森の奥に渓谷があるらしい。そこで仁を突き落として殺したことにする」

「それ大丈夫か?俺本当に死なない?」


渓谷の深さにもよるが、渓谷と呼ばれる程の高さから落ちたら俺もタダでは済まないと思うんだけど.......


「大丈夫。渓谷のそこには川が流れているってアイリスちゃんが言ってた。身体強化も使えば無傷だと思う」


まぁ、しっかりと考えられてるならいいか。問題は俺がビビらずに落ちれるかだが、不安しかない。


「そして、龍二と5人が仁を殺す瞬間を魔道具で撮る。これで証拠は大丈夫」

「おい待て、魔道具で撮るってなんだ?映像を撮ることができる魔道具があるのか?」

「あるよ。高いけど」


花音曰く、カメラやビデオの魔道具はあるにはあるが、値段が高い為今の俺達では買う事はできないそうだ。大金貨8枚は高すぎる。日本円で8000万だぞ......


「そんな高いの買えないぞ?どうするんだ」

「そこでアイリスちゃんたちの出番。アイリスちゃん達なら、簡単に魔道具を手に入れられると思う。権力あるし、お金もあるだろうし」


確かにアイリス団長や師匠なら手に入れることは出来るだろうが、あの二人がこの話を聞いて乗ってくれるかどうか怪しいところだ。そんな俺の考えを花音は見抜いたのか、解決案を出てきた。


「もちろんタダでとは言わない。取引を持ちかける」

「取り引き?」


ほぼ手ぶらでこの世界に来た俺らが、交渉材料に出せる物などほとんど無い。一体何を差し出すんだ?


花音はニィと、口元を大きく歪める。


だよ。戦争を始める理由をあげる代わりに、私達に協力してもらう」

「..........なんだと?」


俺も、龍二も話が見えず、首を傾げる。開戦理由を与えるだと?神聖皇国に開戦理由を与える事が交渉材料になるのか?


「分からない?同じ名前の宗教なのに、考え方が全く違って邪魔だよね?特に正教会国とその同盟国は、神聖皇国にとって目障りなんだよ。それに、今回の勇者召喚は神聖皇国のみ神託が下されたから、宗教としての格が明確に生まれちゃった状態なんだよ」

「神聖皇国が上、正教会国が下ということか?」

「そうだね。女神イージスの神託によって、どちらの国が世界を救うにふさわしいか決められちゃったからね。そして、選ばれなかった正教会国は不服なはず」


なるほど、確かに正教会国としては面白くない状況だろう。女神イージス様を信仰しています!!我々はイージス様の為に!!とか言っているにも関わらず、その女神には見向きもされない。傍から見ればお笑い物だ。俺なら盛大に笑ってる。


「魔王討伐は信託によって下されたから、多分正教会国も大人しくしてると思うけど、魔王を討伐し終えたら話は別。何らかのイチャモンをつけて神聖皇国に戦争をふっかけると思うよ。ここまではOK?」


俺も龍二も頷く。俺は自分の価値を高める為に、魔物や魔術の知識に関してよく読んではいたが、歴史や世界情勢についてはさっぱりだ。花音は、アイリス団長や他の人にも色々聞いていたのだろう。流石だ。


俺から感心した視線を感じたのか、花音は少しドヤ顔をしながら、頷く俺らを満足そうに見て話を続ける。


「それでね。神聖皇国も正教会国は潰したいんだよ。目障りだから。幾ら愛だのなんだの言ったって、結局は人間。傘下に入るなら愛するけどそれ以外は場合によっては殺すよ?ってスタンスなんだよ」

「恐ろしい事だな。だから宗教は嫌いなんだ」

「まぁまぁ。神聖皇国は、宗教嫌いな私から見てもそれなりにまともだから。腐敗政治もしていないようだし........それで、話を戻すけど、戦争が起きるには理由が必要な訳では無いの、別に地球のように国際法なんてないから正教会国は理由もなく戦争を起こすはず。理由を強引につけるなら、目障りだからかな?」

「おいおい、そんな理由で戦争吹っかけるのか」

「価値観の違いが出すぎているな。俺らの世界だったら、ありえない事だし」


目障りだから戦争しますねは、野蛮すぎだろ。第一次世界大戦の時でも、戦争の正当性は必要だったぞ。まぁ第二次世界大戦の時は怪しかったが........


「でもね?正当性があった方が、他国からの支援を受けやすいらしいんだ。物資はもちろん、兵まで出してくれる国まである。それでね、神聖皇国に味方する国は多いから、きちんとした正当性があれば戦争は神聖皇国の有利に進むんだよ」

「それで?その正当性とやらをどうやって作るんだ?」

「あの5人を使うんだよ。魔王を討伐後に、暗殺があったことを告発するの。勇者って人々を守る守護者としてこの世界では認知されてるから、人を率先して殺したら信頼はガタ落ち。この国にはいられなくなる」


スーパーヒーローが悪人を倒すのは許されるが、善人を倒すのは許されない。そういう感じかな?


「そして、5人を神聖皇国から逃がすんだよ。正教会国にね」

「話が読めてきたぞ。その5人は殺人犯。正教会国は、大人しく5人をこちらに引き渡すべしと請求。もちろん正教会国が言うことを聞くはずもない。ならば戦争だ。って感じか?」

「大まかにはね」


色々と問題はあるが大筋は、こんな感じなのだろう。確かにそのまま戦争になれば、あの5人はまず間違いなく戦場に出てくる。考え無しの馬鹿だからな。それならば、俺らは合法的に殺せるようになるわけだ。


「って言うか、そんな魔道具あるなら、暗殺計画を立てている所を撮ればそれでよくね?証拠は十分だろ」


龍二が最もなことを言うが、残念ながらそれだけでは


「ダメだよ龍二。やられたら、やり返す。倍返しなんて生温い。この世に生まれてきて、後悔するぐらいの絶望を与えてあげなきゃ。魔王を討伐した英雄から、仲間殺しの堕落者になってもらわないと。幸せの絶頂にいる時に、どん底の絶望を味わってもらわないと

「仁、お前もそう思うのか?」

「同じ意見だな」


龍二ははぁとため息を着くと、やれやれと首を振って椅子から立ち上がった。机の上にある紙と羽根ペンを持っけ来ると、龍二は仕切るように言い出す。


「まずは、アイリスさん達の協力が得られないと始まらない。今の作戦を纏めて、問題点はしっかりと解決しよう。俺があの5人の計画に参加する場合、俺までもが殺人犯にならないようにしないとな」


流石は親友。話が分かるやつだ。


その日の夜、俺達は眠ること無く綿密な作戦を立てることになった。そのおかげで寝不足だったので、翌日の戦闘訓練はいつもりよもボコられたのは、言うまでもない。

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