創造神の子が記憶を封印されて修行の旅をする異世界冒険

バーチ君

初めての異世界

第1話 不思議な出来事

「ジリリリリ—————ン」




 もう朝かぁ。今日も仕事だぁ。あ~あ、疲れた~。休みたいなぁ。



 

 寝ぼけ眼をこすりながら朝食の用意をする。用意といってもトーストを焼き、その間に着替えて、牛乳を用意するだけだ。軽く朝食をとり、いつもの時間に家を出て、いつもの時間に電車に乗る。普段と何の変化もない日常的な行動だ。


 因みにオレは、武田翔。23歳独身だ。大学時代に空手部に所属し、筋トレをしていたので175cmでマッチョだ。現在は大学時代の先輩から勧められた運送会社で働いている。


 その日もいつもと同じように会社に行き、仕事をして帰った。


 帰り道、彼女もいないオレは、家に帰ってもやることがなく暇なので、何気なく映画館に立ち寄った。映画を見ていたが、どうやら疲れていたらしく、途中で迂闊にも寝てしまった。



「ツバサ。ツバサ。」



 オレは自分を呼ぶ声に目を覚ました。すると目の前に、美しい女性がいた。だが、オレの記憶にこの人はいない。だって瞳は蒼いし、どう見ても白人だ。誰だろうかと不思議に思ったオレは、失礼かもしれないとは思いながらも聞いてみた。



「誰ですか?」



 その女性は何も言わずに、突然オレの手を取り、冷たく硬い何かを握らせた。



「帰って来て!」



 オレは慌てて話しかけようとするが、声が出ない。気付いたら、映画館の椅子で寝ていた。変な夢を見たもんだと思いながら、ふと、自分の手を見てみると、見たこともないコインをしっかりと握っていた。




 それにしてもきれいな女性だったなぁ。あんなにきれいな女性なら忘れるわけがないんだけどなぁ。夢じゃなければもう一度会って話がしたいよ。




 先ほどの出来事が夢だったのか、現実だったのか、よくわからないままコンビニで晩飯を買って家に帰った。テレビを見ながら晩飯を食べ、風呂に入った後、布団に入ってぐっすりと寝た。


 翌日、いつものように会社に行ったが、昨日のでき事が気になったオレは、同僚の柴田に相談した。



「柴田。ちょっといいか?」


「どうした?武田。」


「昨日映画館に寄ったんだけど、そこで不思議な女性にこのコインを渡されたんだよな~。でもさ、それが夢なのかどうかわからないなんだよな。」


「お前さ~。疲れてるんじゃないのか?コインが手元にあるなら、現実だろ?」


「やっぱりそうなのかな~?でもさ、お前、このコイン見たことあるか?」



 柴田にコインを見せた。



「なんだこりゃ?なんか文字みたいなのが書かれてるけど、俺は見たことないな。麗子さんなら、いろんな国に行ってるから知ってるんじゃないか?聞いてみれば。」


「そうだな。そうするよ。」

 

「なにか分かったら、今度ごちそうしろよ!」



 麗子さんのところに向かった。



「麗子さん。ちょっといいですか?」


「何?ツバサ君。デートのお誘い?」


「いいえ、違いますよ。」


「えっ、違うの?残念だなぁ。やっぱり年上はダメかなぁ?」


「いや、そうじゃなくて。オレは、別に歳なんか気にしませんから。ただ、仕事が忙しくて、それどころじゃないっていうか・・・・・」


「まっ、いいわ。それで、どうしたの?」



 オレはポケットからコインを取り出して、麗子さんに見せた。



「麗子さん、このコインがどこの国のものかわかりますか?」


「いいえ、見たことないわね。」


「そうですか~。ふ~。麗子さんでもわからないですか?」


「役に立てなくてごめんね。ところで、どうしたの?そのコイン。」



 オレは、柴田に話したことを麗子さんにも話した。



「ツバサ君、疲れてるんじゃないの?有給でも取って、休んだ方がいいよ。」


「やっぱり、オレ、疲れてるのかな~?明日仕事休もうかなぁ。」


「コインのことだけど。コインを扱ってるお店とかあるじゃない。そこにでも行ってみら?」


「あっ、そうか!ありがとうございます。明日にでも仕事休んで行ってみます。」


「コインのことが分かったら、デートに誘ってね。」



 麗子はウインクして、仕事に戻って行った。




 明日は仕事を休んでコインのお店に行こう。




 オレは、翌日に備えてすぐに家に帰り、コインを扱っている店を調べた。隣の駅前にあることが分かり、安心して布団に入った。だが、寝苦しさに目を覚ますと、身体が動かない。




 これがいわゆる金縛りなのかな?




 なんとなく落ち着ていたオレは、身体を動かそうとしたがやはり動かない。すると目の前に大きな銀色の渦が現れ、オレはその渦に飲み込まれていく。気づくと、オレは下に寝ているオレの姿を見た。それはあまりにも不思議な光景だった。




 えっ。なんで?これどうなってるの?俺死んじゃうの?やばい!




 オレは必死に戻ろうと、頭の中で『南無妙・・・』『南無阿弥・・』と必死に拝んだ。気づくと、オレは布団の中で再び金縛りに苦しんでいる。オレは心の中で叫んだ。




 誰か助けて!




 すると、ドアの方から黒い影がオレに向かって歩いてくる。オレは、その黒い影に向かって叫んだ。




 助けて!




 再び目の前に銀色の渦が現れ、オレはその渦に吸い込まれていった。そして意識を失った。



 オレは意識を取り戻すと、見たことのない草原に寝ころんでいた。




 オレ、死んだのかなぁ?それとも夢かなぁ?




 そんなことを考えながら、周りを見渡してみた。見渡す限り草原だ。建物は何もない。オレは自分自身を確認してみた。すると、いつも着ている寝巻代わりのスエットパンツにTシャツだ。だが、靴下も履いていないし靴もない。布団で寝ていた時の格好だった。




 ここどこなんだろう?見たこともない場所だよな~。




 オレは、夢の世界なのかと思い、傍らの草に触れてみた。感触がある。自分の頬を叩いてみた。痛い。頭の中が混乱し始めた。同時に不安が襲ってきた。




 ここどこなんだよ。なんなんだよ。もう!




 夢なら覚めて欲しいと思ってその場でじっとしていたが、のどが渇いた。周りを見

渡してもやはり何もない。




 ここにいてもしょうがないか。どこかに家がないかなぁ?




 自分だけの空間に不安といら立ちが込み上げてくる。オレは、立ち上がって辺りをふらつくことにした。すると、草原の中に道らしきものが見えた。オレはその道まで行った。近くに行くと、確かに道だが舗装されていなかった。それに車の車輪の跡もない。




 ほんとにここどこなんだよ~?




 オレは、その道を左側に向かってトコトコと歩き始めた。靴もないので足が痛い。我慢してしばらく歩いていると、後ろからゴトゴトと馬車がやって来た。どうやら、農夫らしい。馬の後ろにつながれた荷車には、果物と野菜がたんまりと積まれていた。その馬車は、オレの脇まで来て止まった。



「お前さん、どこから来たのかね?」




 この人、どう見ても日本人じゃないよな~。でも、言葉がわかるぞ。なんでだ?やっぱり夢なのかな~?




「わからないんです。気が付いたらここにいたんです。」



 農夫は、荷物も何も持っていないオレを不思議そうに見ていたが、放って置けなかったらしく、親切に話しかけてきてくれた。



「俺はこれから後ろの荷物をアルタナの街に届けるんだが、一緒に行くかい?」


「いいんですか?」


「何も荷物も持っていないようだし、放って置く訳にもいかんだろう。」


「ありがとうございます。」




 言葉が通じた~。良かった~。




「ところでお前さん。名前は何というんだ?俺はワサイ村のフエキだ。」


「オレは、ツバサです。タケダツバサです。」


「ツバサが名前かい?」


「はい。」



 オレはフエキさんの隣に座らせてもらって、アルタナの街に向かうことになった。フエキさんはオレのことを不思議に思ったらしく、いろいろと聞いてきた。



「ツバサはどこの国の出身なんだ?そんな珍しい服は見たことないぞ。それに裸足じゃないか。」


「日本です。」


「日本?そんな国聞いたことがないぞ。どこにあるんだ?」




 やはり、ここは地球じゃないのかなぁ?下手なこと答えられないな。




「いや、正直言ってよく覚えてないんですよ。親の名前も思い出せませんから。」


「自分の名前は覚えているのにか?」


「はい。ところで、フエキさん、ここはどこですか?」


「ここは、アルティカ王国だ。」


「アルティカ王国ですか?」


「なんだ、アルティカ王国のことも知らないのか?」

 


 確か自分の記憶の中に、アルティカ王国という国はない。やっぱり、『地球じゃないのかもしれない』とすると、オレは別の世界にいることになる。早くこの夢冷めないかなぁ。



「ええ。やっぱりオレ記憶喪失かもしれません。」


「そりゃ大変だ。どっかに頭でもぶっつけたのかもしれんな。」




 もしこれが夢でないとしたら、オレはこの世界で生きていくことになるな。でも、オレはこの世界のことを何も知らないし、その覚悟もない。困ったなぁ。




「フエキさん、アルタナの街まであとどのくらいかかりますか?」


「そうだなぁ~。後2時間程度だな。」


「そしたらアルティカ王国について教えてもらっていいですか?」


「ああいいぞ。何でも聞いてくれ。」



 フエキさんの話によると、アルティカ王国は300年ほど前に建国された。現在の国王は、シュナイダー=アルティカという名前だ。公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵・騎士爵の貴族がいるらしい。貨幣制度はしっかり整備されていて、銅貨10枚で大銅貨、大銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で大銀貨、大銀貨10枚で金貨、金貨10枚で大金貨、大金貨10枚で白金貨、白金貨10まで大白金貨となっている。



「ツバサはお金持っているのか?」


「いいえ。どうしてですか?」


「街に着いたら靴を買わなきゃならんだろう。それに、その服は目立つぞ。ただでさえ、黒髪に黒い瞳なんて珍しいのによー。」


「そうですよね。記憶もないのに、目立たない方がいいですよね?でも、オレみたいな正体不明な人間が、お金を稼げる仕事なんてありますか?」


「俺の行きつけの食堂の親父が、『忙しくて人手が足りねぇ。』っていつも嘆いているから、紹介してやるよ。」


「本当ですか?ありがとうございます。」



 フエキさんとオレは、馬を休ませるため大きな木の下で休憩することにした。フエキさんから水筒をもらい、久しぶりに水を飲んだ。のどがカラカラだったせいかとても旨かった。馬にも水を与え、2人が休んでいると、左の森の中から剣を腰に下げた5人の男達が現れた。



「おい、お前達、命が欲しければその馬と荷物を置いていけ。」



 どうやら盗賊らしい。フエキさんは顔色を青くさせて震えている。


 相手は5人。しかも全員が剣を持っている。大学時代の空手部の練習では、ナイフを持っている相手を想定した組手の経験はあるが、実戦で経験したことはない。どうしたものかと躊躇していると、いきなり一人の男が剣を抜いて切りかかってきた。




 えっ!遅すぎない?




 まるでスローモーションだ。相手の動きがものすごく遅く見える。これなら勝てると思ったオレは、振り下ろされる剣を避けて、鳩尾に拳をお見舞いする。



「グエ。」


「てめぇ、よくもやりやがったな!殺してやるよ。」



 倒れてる仲間を横目に見ながら、主犯格の男が言ってくる。オレは、全員を相手に戦うことを決めた。まず、最初に切りかかってきた男の顔に右の拳をお見舞いする。



「グワッ」



 オレに殴られた男は、鼻血を出しながら倒れた。


 残りの3人が切りかかってくるが、それを難なく躱しながら、次々と鳩尾に拳をくらわす。全員苦しがっているが、死ぬことはないだろうと剣を取り上げてそのまま放置した。



「ツバサ、こいつらこの縄で縛ってくれ。」



 オレは、フエキさんが荷台から取り出した縄で全員の手を縛った。



「ツバサ、もうすぐアルタナの街だ。街に着いたら、こいつらを警備兵に引渡そう。報酬が出るから、それを当面の生活費にしろ。」


「オレがもらっていいんですか?」


「当たり前だ。お前が退治したんだから。お前のものだ。」



  オレ達は、アルタナの街にようやく到着した。

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