第七十四話

 すると壱岐いちき微笑びしょうを浮かべて、かたった。これは妖槍ようそうき』。さっきのように浮いて、攻撃をすることができます。これが『浮き』の、神通力じんつうりきです。これを作る時、周五郎しゅうごろう様は軽石かるいしを混ぜたそうです、と。


 次の瞬間、壱岐は俺の背の高さまで浮き上がり、『浮き』をり下ろした。


 ろし!


 高さがある振り下ろしを、俺は必死に『血啜ちすすり』で上段で受けた。くっ、重い……。速さがあるきと、高さがある重い振り下ろし。どっちもやっかいだ。これは早めに決着を着けないと……。


 だから俺は『血啜り』をさやおさめ、体中を左にひねった。


 壱岐は再び、微笑を浮かべた。

「なるほど、居合術いあいじゅつですか……。いいでしょう、どちらの速さが上か、決着を着けましょう……」


 そして壱岐は、再び少し浮いて突撃してきた。


 浮き突き!


 俺は、光速こうそくの居合術を放った。


 光速の軌跡きせき、つばめがえし!


 俺はまず『血啜り』を左から右に居抜いぬき、『浮き』を先端せんたんから中ほどまで真っ二つにった。そして更に右から左へ『血啜り』をはらい、残りの半分を真っ二つに斬った。すると『浮き』はたてに、真っ二つになった。


 壱岐は少し、おどろいた表情をした。

「へえ。やりますね、誠兵衛せいべえさん。まさか『浮き』を、こんなふうに斬るなんて……」


 何だ、こいつ? 武器を斬られたのに、どうして余裕よゆうなんだ? と俺が考えていると、壱岐は叫んだ。

「見ての通りですよ、周五郎様。誠兵衛さんを倒して欲しかったら、『炎王えんおう』を僕に貸してください!」


 すると長屋のかげから、髪が長いせた男があらわれた。

「ちっ。『浮き』では誠兵衛を倒せないか……。しょうがない、『炎王』を貸してやる。だが、すぐに返せよ。それは私のうらみをらすために、必要なんだ……」

「分かってますよ。徳川秀忠とくがわひでただを斬るんでしょう?」

「ああ、そうだ。この手でな……」


 俺は驚き、声を上げた。

「秀忠様を斬るだと?! どういうつもりだ、なぜだ?!」


 周五郎は全身からいてくる怒りをおさえて、ゆっくりと告げた。

「それはもちろん、秀忠を恨んでいるからに決まっているだろう……」

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