第六十九話

   ● 


 少しすると火消ひけしの衣服をまとった火消しが五人、現れた。五人はこれ以上火事が広がらないように、火元の左右にある長屋ながや刺又さすまたこわし始めた。


 美玖みくは、長屋の住人に指示を出した。井戸いどから水をくんだおけを次の住人に渡し、火元にいる美玖に手渡しした。そして美玖が火元の長屋に水をかけるという作業を繰り返し、やっと火事を消した。


 火消しが、消火した長屋を調べてみると古い長屋なので最近、人がいた様子は無い。それに火の気も無かった。どうして火事が起きたんだろうと、不思議がっていた。


 美玖はその様子を見て、これから何か嫌なことが起こるかもしれないと、不安な表情になった。すると再び近くの長屋から、火の手が上がった。


「くっ」と美玖は再び、消火活動を始めた。火消しも左右の長屋を壊し始めた。すると更に少し離れたところから、四つの火の手が上がった。


 これは異常事態だと美玖は考えようだが、とにかく消火するしかなかった。

「もっと火消しを呼べ!」

「水をくんだ桶を、俺に渡せ!」

「とにかく火を消せ!」と、その一帯いったいは大騒ぎになった。


 これはさすがにまずいという表情のことみが、火消しを呼びに行こうとした時、女が立ちふさがった。伸ばした前髪が左目を隠した、妖艶ようえんな雰囲気を持つ女だった。


 ことみは必死の表情で、叫んだ。

「何なの、あんた?! 邪魔じゃましないで!」


 すると微笑びしょうしながら、女は答えた。

「そうは、いかないねえ……。あんたの相手は、この私なんだから……」

「何ですって?!」


 女は微笑しながら、続けた。

「私の名は、荒木あらきすぎ南条なんじょうことみ、あんたを倒す女だ!」


 そう言い放つとお杉は、の先に細長い円錐えんすいが付いている武器、ランスを振りかざした。

「ふふふ。これは妖槍ようそうどく』。さあ、この『毒』を持つ私を倒せるかしら!」と、ことみに向かってきを数回、放った。


 ことみはその突きに、『いん』と『よう』の突きを放ち相殺そうさいした。

「ふん。こんな攻撃、私には効かないわ!」


 すると、お杉は不敵ふてきに笑った。

「ふふふ。それは、どうかしら?」


 そしてまた、『毒』の突きを数回、放った。ことみはまたも、『陰』と『陽』の突きで相殺した。


 ことみは、えた。

「だからこんな攻撃、私には効かないって言ってるでしょう! ってあれ?……」


 すると、ことみの呼吸が荒くなってきた。

「あれ? 何これ? い、息が苦しい……」


 お杉は、高笑たかわらった。

「ほーほっほっほっ! これが妖槍『毒』の神通力じんつうりきよ! 『毒』はるうだけで呼吸困難こきゅうこんなんを起こす毒を振りまけるの! これを作る時、周五郎しゅうごろう様は、猛毒もうどくのトリカブトを混ぜたって言ってたわ!」

「しゅ、周五郎? そ、そいつがこの妖槍を作ったの?……」


 お杉は、なおも笑っていた。

「ふふふ。あなたは知らなくても、いいことよ……」


 そして『毒』で一回、突きを放った。


 毒突どくつき!


 息が苦しくなり動きが悪くなっていたことみは、この攻撃を防げずにまともに腹部に喰らった。

「ぐはっ!」


 すると腹部が、苦しくなった。

「こ、これは一体?……」


 お杉は勝ち誇って、説明した。毒突きを喰らった者は、多臓器不全たぞうきふぜんを起こして死ぬと。そしてそれを防ぐには、『毒』を破壊するしかないと。


 ことみは考えた。ま、まずい……。呼吸困難だけでもまずいのに、多臓器不全……。これは、一気に勝負をつけるしかなさそうね……。

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