第五十三話

 政蔵まさぞう伊助いすけは、おもんに助けを求めた。

「ど、どうしましょうか、おもん様?!」

「た、助けてください! おもん様!」


 しかし、おもんはくやしそうな表情で逃げ出した。

「お、おぼえてらっしゃい! 次は、もっと強い妖刀ようとうを作って、必ずたおしてやる!」


 政蔵も伊助も、おもんを追って逃げ出した。


 ことみは、盛大せいだいに喜んだ。

「か、勝ったのよね、私たち……。やったーー!!!! 勝ったーー!!!!」


 俺は、ことみに声をかけた。

「ああ、俺たちの勝ちだ……。しかし、ことみ。お前って結構けっこう、強いな」

「あったり前でしょう?! 私を誰だと思っているの? 相模二刀流さがみにとうりゅう師範代しはんだいよ! 相模二刀流の強さを、日本中に広める女なのよ!」

「そうか……。そうだったな……」


 そして、ことみは落ちていた『いん』と『よう』をひろって、聞いてきた。

「おもんは、いなくなっちゃったけど結局、私たちが優勝したんだから、これはもらってもいいよね?」

「あ、ああ。まあ、そうだろうな」


 すると、ことみは俺にきついてきた。

「そうよね、やったー!」


 俺は少し、戸惑とまどった。

「おいおい……」


 だが、れいを言った。

「とにかく、お前のおかげで『陰』と『陽』を手に入れることが出来た。ありがとう……」


 すると、ことみは顔を真っ赤にして言い放った。

「べ、別に、あんたのために、やったんじゃないからね! 私のために、やったんだからね!」


 疑問に思った俺は、聞いてみた。

「何だよ、お前。さっきまで『デレデレ』してたくせに、急に『ツンツン』しやがって?」


 すると、ことみは真顔まがおで答えた。

「え? 私は『ツンデレラ』ですが、何か?」

「は? 何、言ってんだ、お前……」


 だが俺は、元々の目的を思い出した。

「あ、ちょっと待ってくれ」

「え? 何?」

「ああ。『陰』と『陽』は、お前にやってもいいと思うんだが一応、許可を取りたいんだ」

「許可? 誰に?」

「ああ。本郷ほんごうじいさんだ」


 ことみは、驚いた表情になった。

「ほ、本郷って、あの江戸で一番の刀工とうこうって言われる、本郷 源吉げんきち様?!」

「ああ、そうだ」

「ど、どうして?!」


 俺は、説明をした。

「俺の元々の目的は、この大会で優勝して『陰』と『陽』を手に入れて、それらを真っ二つにることなんだよ。これは本郷の爺さんに、頼まれたことなんだよ」

「え? 本郷様が、どうして?」

「ああ。本郷の爺さんは、おもんが気に入らないんだよ。だから、おもんが作った妖刀を斬りたいんだよ」

「な、なるほど……。確かに嫌なやつだったもんね、おもんは……。でも、どうしよう。私、『陰』と『陽』が、どうしても欲しいの!」


  うーむ、と少し考えた俺は聞いてみた。

「ことみ。お前の目的は相模二刀流の強さを、日本中に広めることなんだよな?」

「ええ、そうよ!」

「だったら本郷の爺さんも、お前が『陰』と『陽』を持つことを許可するかも知れねえ。人をむやみにきずつけるためじゃねえんなら、分かってもらえると思う……」


 ことみは、また盛大に喜んだ。

「本当ー? うれしいー! 誠兵衛、だーい好きー!」

「お? おお。そうか……」


 しかし真顔に戻った、ことみは告げた。

「あ、でも私、さっきも言ったけど『ツンデレラ』ですから!」

「だから何なんだよ、それは……」


 俺の疑問を無視して、ことみは提案ていあんしてきた。

「あ、そうそう。ねえ、今から江戸に行かない? 今から行けば、朝には着くんじゃない?」

「え? 今から? こんな夜更よふけに? どうしてだ?」


 ことみは真顔のまま、答えた。

「そんなの、早く本郷様の許可を取りたいからに決まっているでしょう!」

「ああ、そういうことか……。しかしなあ、戦いも終わったばかりで疲れてるし……」

「そう? 私は元気よ。早く江戸に行きたいから!」

「はあ……。しょうがねえなあ……」


 そして俺たちは、大会が行われた森から江戸に向かった。

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