第五十一話

 二人の男は、名のった。

「俺は、青山政蔵あおやままさぞう! 妖刀ようとういん』を持っている!」

「俺は、朝倉伊助あさくらいすけ! 妖刀『よう』を持っている!」


『陰』は得体えたいが知れない妖気ようきを放つ、黒い刀身とうしんをしていた。また『陽』も得体が知れない妖気を放つ、白い刀身をしていた。


 おもんは、余裕よゆうの表情で二人にめいじた。

「さあ、まずは、この二人をたおしなさい! 『陰』と『陽』なら、簡単かんたんなはず!」

「はっ!」

「はっ!」


 俺は、警戒けいかいした。

「くるぞ、ことみ! かまえろ!」

「う、うん!」


 俺は『血啜ちすすり』を中段に、ことみは左手の刀を水平すいへいに、右手の刀を垂直すいちょくに構えた。


 すると早速さっそく、政蔵と伊助が攻撃してきた。政蔵は『陰』を左側に振って、伊助は『陽』を右側に振って『陰』と『陽』を交差こうささせて、陰陽術おんみょうじゅつ呪文じゅもん詠唱えいしょうした。

『黒ききりよ、我が敵の視界しかいうばえ』


 神通力じんつうりき陰陽術 暗刀あんとう


 すると俺の顔を、黒い霧がおおった。


 俺は予想外の攻撃に、動揺どうようした。

「な、何だ、こりゃ? 暗くて何も見えねえ!」


 再び政蔵と伊助は、詠唱した。

『我が敵を、深い眠りにいざなえ』


 神通力陰陽術 睡刀すいとう


 すると、ことみは二本の刀をだらりとおろした。

「な、何?! 急にねむくなってきた……」


 政蔵は、勝ちほこった表情でかたった。暗刀は黒い霧で相手の視界を奪い、睡刀は眠気ねむけで体の自由を奪う。これが『陰』と『陽』の神通力だ、と。


 そして政蔵は俺に、『陰』でりかかってきた。


 ざん


 俺は、左肩ひだりかたを斬られた。

「うぐっ!」


 一方、伊助は、ことみに向かって左から右へ『陽』をるった。


 はらい!


 ことみは、腹を斬られた。

「うっ!」


 政蔵は、高笑たかわらった。

「ふはははは! 風早かぜはや誠兵衛せいべえおそれるにりず! 俺があの、風早誠兵衛を倒すんだ! ふはははは!」


 俺は、考え出した。考えろ。考えれば必ず、突破口とっぱこうは開けるはずだ……。しかし前方の上部で、『ひゅっ』と音がした後、右肩を斬られた。く、くそっ! 何とかしねえと、負けちまう……。


 すると政蔵の、余裕の声がした。

「ふはははは! これで終わりだ、風早誠兵衛!」


 そして再び、前方の上部で『ひゅっ』と音がした。何だ? この音は?……。はっ、そうか! これは刀を振るう音か! なら次の攻撃もまた、斬のはず!


 俺は、『血啜り』を上段に構えた。すると『がきぃ』と音がして、『陰』を受けることが出来た。そうか! 目が見えなくても、音をたよりに戦えばいいんだ!


 すると政蔵の、あせった声がした。

「くっ! ならばこれで、どうだ?!」


 そして前方から、『ひゅっ』と音がした。この攻撃は、きのはず! 俺は、『血啜り』を左から右へ薙ぎ払った。すると再び『がきぃ』と音がして、『陰』の突きをさばくことが出来た。


 政蔵は、驚いた声を出した。

「な、何い?! 一体、どうなっているんだ?!」


 突破口が開けた俺は、えた。

「ふん! 目が見えなくたって、音を頼りに戦えばいいんだ!」

「な、何だと?!」

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