第五十話

 俺は全身を左にひねって、放った。


 光速こうそく軌跡きせき


 さやから光の速さで飛び出した『血啜ちすすり』は、『』を真っ二つにった。


 益蔵ますぞうは、おどろいた表情になった。

「ば、馬鹿ばかな! 妖刀ようとうが、『阿』が、真っ二つだと?!」


 ふと見ると、ことみは左手に持った刀を水平すいへいに、右手に持った刀を垂直すいちょくかまえていた。

「左の刀は防御に、右の刀は攻撃に。これが相模二刀流さがみにとうりゅうの基本の構え。さあ、かかってらっしゃい!」


 作五郎さくごろうは、『うん』をき出した。


 突き!


 すると、ことみは左の刀で突きをさばき、右の刀を作五郎にり下ろした。


 ざん


 作五郎は斬を受けることも、かわすこともできずに左肩から右の腰まで斬られた。

「くっ、おのれ……」


 そして『吽』を持っている右手を、だらりとらした。


 俺は、二人に告げた。

「一人は刀を斬られて、もう一人は刀を振るえない……。この勝負、俺たちの勝ちだな」


 益蔵は、逃げ出した。

「くっ、おぼえていろよ!」


 作五郎も『吽』を投げ捨てて、逃げ出した。

「ま、待ってくれ!」


 俺は「やれやれ」とつぶやくと、投げ出された『吽』を『血啜り』で真っ二つに斬った。


 すると、ことみは喜びを爆発ばくはつさせた。

「やったー! これで私たちの勝ちだよね! 私たちが優勝したって、いうことだよねー!」

「ああ、そうだな……」


 俺と、ことみが一息ひといきついていると、おもんが拍手はくしゅをしながらあらわれた。

「おめでとうございます。あなたたちが、優勝した方々かたがたですね?」


 ことみは満面まんめんみで、元気よく答えた。

「はい、そうです! だから、『いん』と『よう』をください!」


 すると、おもんは高笑たかわらった。

「おーほっほっほっ! 残念ながら、そういうわけには、いきませんねえ……」

「え? どういうことですか?!」


 おもんは、俺を見つめた。

「あなたが、風早かぜはや誠兵衛せいべえですね。最凶さいきょうの妖刀『血啜り』を持っている……」


 俺は、冷静に答えた。

「ああ、そうだ」


 すると、おもんはくやしそうな表情になった。

「うーん、この展開は予想外だったわねえ……。私の計画では勝ち残るのは、『血啜り』を持っている誠兵衛と、『きわみ』を持っている美玖みくだったのに……」


 俺は、おもんが何をたくらんでいたのか知りたくて聞いてみた。

「そしたらお前は、どうするつもりだったんだ?」

「もちろん『陰』と『陽』で、二人を倒すつもりだったわ。陰の呪符じゅふを混ぜて作った『陰』と、陽の呪符を混ぜて作った『陽』で……」


 俺は、再び冷静に答えた。

「やはり、そういうことか……」


 すると、おもんは言い切った。

「まあ、いいわ。今は、誠兵衛! 取りあえず、お前をたおすことにする! そしてその後で、美玖を倒す!」

「出来るもんなら、やってみろ!」

「ええ、そうさせてもらうわ。出てきなさい!」


 おもんに呼ばれて森の中から、二人の中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの男たちが現れた。

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