第四十四話

 さむらいたちの様子を見た美玖みくさんは、真剣しんけんな表情で俺に告げた。

「ここは一旦いったんかくれるぞ! 誠兵衛せいべえ!」

「え? 何で?」


 すると美玖さんは、冷静に答えた。

「ここにいる侍を全てたおすのは、面倒めんどうだ。しかも下手へたをすると、私たちと十五組の侍たちの戦いになるかも知れない。我々は、有名だからな。だからこの乱戦らんせんが落ち着くまで、少し隠れていよう」

「な、なるほど……」

 

 そして美玖さんと俺は乱戦の場から離れて、大きく太い木のかげに隠れた。幸いなことに、ここは森の中で隠れられそうな大木たいぼくが何本もあった。


 美玖さんは、一安心ひとあんしんした表情になった。

「ふう。ここに隠れて、少し様子を見よう」

「ああ、分かった」


 しかしすぐに俺たちは、一組の侍たちに見つかった。

「くくく。やっぱり、こいつら沖石おきいし美玖と風早かぜはや誠兵衛だ! 参加する手続きを取っていたのを、見ていたからな!

 この大会で優勝するためには、どうしてもこいつらを倒さなきゃならねえ! それにこいつらを倒せば、俺たちはおそれられて戦わなくてもよくなるって訳だ!」

「なるほど。お前、頭いいなー」と一組の侍たちが、おそってきた。


 美玖さんは、ため息をついた。

「やれやれ……。雑魚ざこに見つかってしまったか……。しょうがない。戦うぞ、誠兵衛!」

「おー! そうこなくっちゃ! やっぱり隠れているなんて、しょうに合わねえぜ!」


 そして勝負は、一瞬で着いた。美玖さんと俺が『きわみ』と『血啜ちすすり』を、同時に左から右にるっただけで。


 はらい!


 薙ぎ払い!


 すると二人の侍の男の刀は、真っ二つにれた。二人は、すぐに逃げ出した。

駄目だめだ! やっぱり、こいつら強すぎる!」

「刀が斬られちゃ、戦えねえ! 逃げろ!」


 俺は、拍子抜ひょうしぬけした。

「やれやれ。やっぱり雑魚は雑魚か……」

「そうだな……」


 俺たちが一安心していると、また二人の侍が現れた。しかも二人とも、大男だった。すると一人が自信満々な表情で、言い放った。

「くかかかか! こんなところに隠れているとは、実はたいしたことねえんじゃねえのか? え? 沖石美玖に風早誠兵衛!」


 美玖さんは挑発ちょうはつに乗らず、冷静に聞いた。

「誰だ、お前は?」


 男は、胸を張った。

「くかかかか! 俺は大石佐吉おおいしさきち! 妖刀ようとう雷神らいじん』を持っている! おもん様は『雷神』を作る時に、雷鳥らいちょうの羽をぜたそうだ!」


 美玖さんは少なからず、動揺どうようしたようだ。

「な、妖刀だと?! 『雷神』だと?!」


 すると、もう一人の男も名のった。

「けかかかか! 俺は大東半次郎だいとうはんじろう! 妖刀『風神ふうじん』を持っている! おもん様は『風神』を作る時に、風鳥ふうちょうの羽を混ぜたそうだ!」


 二人の話を聞いた美玖さんは、明らかに動揺どうようした。

「な、『風神』だと?! 言え! 一体、誰がそれらの妖刀を作った?!」


 すると佐吉が、みを浮かべながら答えた。

「もちろん、おもん様だ」

「な、おもんが作ったのは、『いん』と『よう』の二本じゃないのか?!」

「いいや、違うなあ……。おもん様は、数本の妖刀を作られた。その中で最も素晴らしい妖刀が、『陰』と『陽』という訳だ!」

「くっ、なるほど……。それなら、お前たちは何者だ?!」

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