第四十三話

 そして、おゆうさんに厄除やくよけの火打石ひうちいしをしてもらって美玖みくさんと僕は、おゆうさんの長屋ながやから出発した。僕たちは甲州道中こうしゅうどうちゅう(現在の甲州街道こうしゅうかいどう)を西に進んだ。途中、小腹こばらがすいたので茶屋ちゃやに寄った。


 すると美玖さんは、小判こばんを見せながらが告げた。

「今回は本郷翁ほんごうおうから支度金したくきんを、もらった。小判二枚(約六十万円)だ」


 そして美玖さんは、茶屋の女性店員に聞いた。

「この茶屋では、何が美味おいしいんだ?」

「はい。ここでは、さかまんじゅうが美味しいです」

「うむ。それでは酒まんじゅうとお茶を二つづつ、もらおう」

「はい。かしこまりました」


 茶屋を出ると更に歩きつ前に宿場しゅくばで、うどんを食べて腹ごしらえをして目的地の森に着いた。あたりはすでに暗くなっていたが二つの、かがり火が見えた。そのかがり火に近づくと、机に着いていた二人の男がいた。


 美玖さんは二人の男に近づいて、聞いてみた。

「ここか? 二人一組で参加して優勝すれば、『いん』と『よう』の妖刀ようとうをもらえるという大会の会場は?」


 すると右側の男が、答えた。

「はい、左様さようです。ここが『妖刀争奪ようとうそうだつ二人一組剣術大会ふたりひとくみけんじゅつたいかい』の会場です。大会に参加されますか?」

「うむ。もちろん」


 すると今度は左側の男が、告げた。

「では、この帳面ちょうめんに参加される方の、お名前をご記入ください」


 美玖さんは帳面に、俺たちの名前を書いた。そして、その場を立ち去ろうとした時、更に告げられた。

「あの、参加料さんかりょうは小判一枚ですので、お支払しはらいください」


 美玖さんは目を見開みひらき、おどろいた表情になった

「何? 参加料が必要なのか?! しかも小判一枚だと?!」


 男は、当然という表情をしながらも丁寧ていねいに説明をした。でも大会で優勝すれば、江戸で一番と言われる本郷様の二番弟子にばんでしだった、おもん様がお作りになった妖刀、『陰』と『陽』が手に入ります。それを考えると、お安いと思いますが、と。


 美玖さんは一瞬、こまった表情をしたが、覚悟かくごを決めた。

「まあ、それは確かにそうだが我々の目的は……。ええい、まあいい。払うぞ!」


 そして着物のそでから出した財布さいふから小判を一枚取り出し、男に手渡した。すると男は、頭を下げた。

「ありがとうございます」

「他に、必要な物はあるか?」

「いいえ、ございません。もうすぐ、おもん様が挨拶あいさつをされて大会が始まるので、少々お待ちください」


 俺たちは今度こそ机を離れて、大木たいぼくのそばに移動した。


 すると美玖さんは、俺に話しかけた。

「ふうむ。結構、参加者がいるな。三十人くらいか?」


 俺はすでに『血啜ちすすり』の神通力じんつうりきで、凶暴性きょうぼうせいを引き出されていた。

「ああ、それくらいだな、美玖さん。とにかく俺たちは、こいつらと戦って優勝すればいいんだな?」

「ああ、そうだ。考えてみると、全員をたおす必要は無さそうだ。そのための作戦を考える必要が、あるかもな……。……うっ」


 俺は、美玖さんの異変いへんに気づいた。

「どうしたんだ、美玖さん? 顔色が悪いようだが?」

「うっ……。いや、何でもない。気にするな……」

「あっ、そう……」


 すると二人の男が着いていた机の前から、派手はで顔立かおだちで赤い花柄はながらの着物を着た女が現れた。


 女は、大きな声で告げた。

「はーい、皆さん! 今夜は『妖刀争奪・二人一組剣術大会』に参加してくれて、どうもありがとう! 私が、この大会を企画きかくした、おもんでーす! 帳面を確認したら何と十六組の方々が、参加してくれました! おかげで参加料も相当、もうかって……、いやいや、今のは無し。

 とにかく優勝した二人組には私が作った妖刀、『陰』と『陽』をあげるから、がんばってねー! それでは大会を始めまーす! 試合、開始!」


 すると十六組のさむらいたちは、一斉いっせいに距離を取った。まずは、様子を見るようだ。


 しかし少しすると妖刀に目がくらんだ侍たちは、戦い始めた。

「妖刀を手に入れるのは、俺たちだー!」

「いや、俺たちだー!」

「とにかく、ここにいる全員を倒してやるー!」

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