第三十二話

 そして俺たちは早速さっそく、江戸を後にした。昼くらいに武蔵むさしの国と上野こうずけの国の境目さかいめ正純せいじゅんが作ったさけの、おにぎりを食べた。そして再び走り出し目指めざす上野の国の山に着いた時は、すでに日が落ちていた。


 山道で俺はとうとう、弱音よわねいた。

「ちょ、ちょっと美玖みくさん! 玄庵げんあん工房こうぼうには、まだ着かないんすか?!」

「うむ。ここまでくれば、もう少しだ。後は、この山を少し登ればあるはず……」


 すると突然、山道に大男が現れた。大男は不敵ふてきに笑っていた。

「くっくっくっ。やはりきたな、四刀しとう……。玄庵様の読み通りだ……」


 美玖さんは、いらついた。

「何だ、貴様きさまは?」

「ふ、俺か? 俺は最体さいたい妖刀ようとう赤鬼あかおに』を持つ……」


 すると美玖さんは、叫んだ。

雑魚ざこに用は無い、邪魔じゃまだ!」


 美玖さんは腰を左にひねり『ため』を作り、上段、中段、下段の左、真ん中、右をいた。

「喰らえ!」


 絶対死ぜったいし


 衝撃波しょうげきは連撃れんげきを喰らった大男は、後ろに吹き飛ばされた。俺は近くに行って確認してみた。すると何と大男は、気絶きぜつしていた。


 俺はあらためて美玖さんの強さに、青ざめた。おいおい、『赤鬼』って名前からして、『青鬼あおおに』と同じくらい強い妖刀なんじゃねーのか? それを一瞬で……。駄目だめだ。やっぱり、もう一度戦っても、美玖さんに勝てる気がしねえ……。


 美玖さんは『きわみ』で『赤鬼』を真っ二つにすると、走り出して告げた。

「よし。雑魚が出てきたということは、玄庵の工房は近いぞ! みんな、行くぞ!」


 重助しげすけ市之進いちのしんも美玖さんの強さに青ざめていたが、美玖さんの言葉で我に返り走り出した。少し走ると、中肉中背の男が現れた。


 男は、嬉々ききとして叫んだ。

「ひゃっはー! 妖刀『おと』を持つ市之進ってのは、どいつだー?!」


 俺たちは走るのを止めて、まった。男から尋常じんじょうではない、殺気さっきを感じたからだ。美玖さんですら、容易よういに動けなかった。


 少しして、市之進が前に出た。

最速さいそくの妖刀『音』を持っているのは、僕だよ。山脇やまわき市之進だ……」


 男は、おどけた。

「そうか、お前が『音』を持っているのか! それじゃあ俺が相手をしてやろう。 

 最伸さいしんの妖刀『青龍せいりゅう』を持つ俺様、八巻彦太郎はちまきひこたろう様がなあ!」


 美玖さんは、つぶやいた。

「『青龍』……。やはり『四神しじん』か……」


 市之進は『音』を抜刀ばっとうすると、美玖さんに告げた。

「美玖さんたちは、先へ進んでください。ここは僕にまかせて下さい!」

「うむ、頼んだぞ!」と美玖さんは答え、俺たち三人は彦太郎の左横を走り抜けた。


   ●


 彦太郎は、やはりおどけていた。

「ひゃっはー! やっと、つええやつと戦えるぜ~! 今まで戦ったのは、弱っちい奴らばっかりだったからなあ~」


『音』を中段でかまえたまま、市之進は静かに告げた。

「そうか。ならば教えよう、敗北はいぼくの二文字を!」


   ●


 俺たち三人が走っていると今度は、背の高い男が現れた。


 俺たちが立ち止まると、男は聞いた。

とどろき重助というのは、どいつだ?」


 重助は、前に出た。

「ふん、わしだ。お前は、儂と戦いたいのか?」


 男は無表情で、答えた。

「ああ、玄庵様の依頼だ。この最鋼さいこうの妖刀『玄武げんぶ』を持つ俺、平塚登ひらつかのぼるは重助を倒せ、との依頼いらいだ……」


 重助は、最撃さいげきの妖刀『じゅう』を抜刀して告げた。

「そういことだ、美玖さん。二人は先に行ってくれ!」


 美玖さんは、「お前も用心ようじんしろよ。その妖刀は、ただの妖刀ではない!」と言い放ち、俺たち二人は走り出した。


   ●


 登はやはり無表情のまま、告げた。

「重助。気のどくだが、お前には死んでもらう……」


 すると重助は、自信満々じしんまんまんに言い放った。

「ごはははは! 面白い。この儂、四刀の二番刀にばんがたなの儂を殺すだと? やれるものなら、やってみろ!」

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