第二十一話

 俺は得意とくいげに、言い放った。

「へっ、衝撃波しょうげきはの、広範囲こうはんいの攻撃だよ。へっ、最初からこうすりゃ良かったぜ……。 

 ま、いいや。おい、お前の負けだ。お前の攻撃は、もはや通じねえからな!」

「お、おのれ……!」


 そして俺は、菜々ななに近づいて聞いた。

「さ、聞かせてもらおうか。その妖刀ようとうは、誰からもらった?」

「ふん、誰が言うか!」


 仕方しかたなく俺は、質問を変えた。

「やれやれ、強情ごうじょうだねえ……。じゃあ、質問を変えるぜ。『桃太郎ももたろう』っていう妖刀はあるか? あるとしたら誰が持っている?」

「ふふっ、私が答えるとでも思っているのか?」

「やれやれ、本当に強情だねえ……。しょうがない、あとは任せるぜ徳右衛門とくえもん!」


「は、はい!」と菜々なななわ捕縛ほばくした徳右衛門は、俺に小判こばんを渡しながら言った。

「ええと、これで三人の辻斬つじぎりをつかまえた訳ですが、私にはこれで終わりだとは思えません……」

「ああ、俺も同感だ。『桃太郎』っていう妖刀があっても、何の不思議もねえ……」


 そして徳右衛門は、真剣しんけんな表情で聞いてきた。

「明日の夜、またうかがってもかまいませんか?」

「ああ、構わねえぜ」

「それでは、また……」


 俺は落ちていた『いぬ』をひろい、『血啜ちすすり』で真っ二つにした。そして菜々を連れて徳右衛門は、南町奉行所みなみまちぶぎょうしょに向かった。俺は思わず、つぶやいた。

「さてさて明日は、どうなることか……」


 次の日の日中。僕はいつもの稽古けいこをした後、関節かんせつを伸ばす運動も入念にゅうねんにして体をらした。


 夜になると徳右衛門が、長屋にやってきた。徳右衛門は複雑ふくざつな表情で告げた。辻斬つじぎり事件の解決のため、南町奉行所が総力そうりょくを挙げて三人から聞き出した。それは、それぞれの妖刀ようとうは『直蔵なおくら』という男から、もらったということだった。そして『直蔵』という男については、名前以外は知らないと、三人とも言っている。なので今、『直蔵』という男を全力で探しているが、まだ見つかっていないと。


 俺は、思いついたことを言ってみた。

「そうか……。おそらくはその、『直蔵』という男が『桃太郎』という名の妖刀を持っているんだろうな……」

「はい、おそらく。そして『直蔵』という男が今回の辻斬り事件の、黒幕くろまくだと私はにらんでいます……」


 俺は少し考えてから、聞いた。

「そうか……。で、今夜はどうする?」

「はい、やはりまずは、南町奉行所の北側を探してみたいと思います」

「なるほど。分かった……」


 俺たちが長屋ながやから出ようとすると、おゆうが呼び止めた。

「ちょっと待ってください。今、厄除やくよけをしますので」と、火打ひうち石を打とうとした。すると手がすべって右手に持っていた石を、落としてしまった。


 俺は少し、あきれた。

「おいおい、じょうちゃん。縁起えんぎわりいなあ……」

「す、すみません!」と、おゆうは石を拾い今度は、ちゃんと打った。


 そして俺は、頼んだ。

「じゃあ、いつも通り帰ってきたら晩酌ばんしゃくをするから、うまい酒とさかなを用意しておいてくれ」


 おゆうは、いつもの笑顔で答えた。

「はい。では、お気を付けて!」


 そして俺たちは、南町奉行所の北側を、不審人物ふしんじんぶつがいないかさがした。不審人物がいなかったので、東側、南側、西側も探したが、いなかった。


 すると徳右衛門は、提案ていあんした。

「少し、探し疲れましたね……。あ、そうだ、誠兵衛せいべえ殿! 少し休みませんか?」

「ああ、そうするか……」


 そし俺たちは、南町奉行所に行った。入り口に俺を待たせて徳右衛門は、中へ入っていった。少しするとおぼんに、お茶と、お菓子かしせて戻ってきた。


 徳右衛門は、申し訳なさそうに告げた。申し訳ありません。こんな夜中に関係者以外の方を、奉行所の中に入れる訳にはいかないので。なのでせめて、し上がってください。今夜は、ここで一服いっぷくして終わりましょう。そしてこれからどうするかは、明日また考えましょう、と。そしてお茶を啜り、お菓子をほおばった。


「そうだな……」と俺も、お茶を飲んだ。飲み終えて、「それじゃあ、また明日な」と立ち上がると、動けなくなった。


 不審に思った徳右衛門は、聞いてきた。

「うん? どうしました? 誠兵衛殿?」

「くっ、体がしびれて動かねえ……」


 徳右衛門の顔色が、真っ青に変わった。

「ま、まさか、お茶に毒物どくぶつ仕込しこまれたのか?! この私は何ともないのに……。誠兵衛殿だけがねらわれたのか?

 ええい、とにかく誰かおらぬか?! 誰か?!」と徳右衛門がわめいていると俺たちの前に、さむらいが現れた。南町奉行所の入り口に接する道から、中肉中背で精悍せいかんな顔つきの男で、黒い着物を着ていた。


 真っ青な顔色のまま、徳右衛門が対応した。

「お前は何者じゃ? 今、立て込んでおるんじゃ! それとも、お前は医術いじゅつ心得こころえがあるのか?!」


 精悍な顔つきの男は、冷静に答えた。

「いいや、そんなものは無い……。俺が心得ているのは剣術けんじゅつだけだ……」

 そして、抜刀ばっとうした。その刀身とうしんは、ぼんやりと桃色ももいろに光っていた。


 徳右衛門は、おどろきの表情でさけんだ。

「桃色の刀身?! もしや妖刀『桃太郎』?! するとお前が『直蔵』か?!」

「ふん、その通り……。俺が立花たちばな直蔵だ。そしてこれが最硬さいこうの妖刀『桃太郎』だ!」と直蔵は俺に、りかかってきた。体のしびれと戦いながらも、俺は中段の構えを取った。そして、『血啜り』で受けた。


 すると直蔵は上段の構えから、「お前、風早かぜはや誠兵衛を倒せば名ががる。この俺、立花直蔵のなあ! どんな手を使ってでもなあ!」とえ、再びりかかってきた。

ざん連撃れんげき!」


   斬!

   斬!

   斬!


 俺は何とか上段の構えで、しのいだ。


 すると直蔵は、言い放った。ふん、さすがにしぶといな。ならこれを喰らえ! 岩をもち切る居合術いあいじゅつを! それが『桃太郎』の神通力じんつうりきだ。刀工とうこうはこれを作る時、金剛石こんごうせき西洋せいようでいうダイヤモンドを混ぜたそうだ、と。

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