第8話 ステージアップ

3月25日

 昼からクラスメイト15人ほどでボーリングをした。夜はクラス会。担任の河合先生も来た。先生は一次会で帰ったが、僕たちは2階に広い部屋がある石原の家に場所を移し、二次会。


 二次会が始まって1時間ほどしたとき、電車の中でデート帰りの僕と美沙さんを目撃した森田が、言い出した。

「高広、お前、尾崎さんとデートしやがって~」

「そうだよ。こいつ俺たちに、電車の中でばれてやんの」

もう一人の目撃者、山崎が追随した。

「なに!ホントかよ?」周りが騒ぎ出す。

僕は、「まあ、いいじゃないの。気にするな」と言って、かわそうとした。が、すぐに周りにいた連中に取り囲まれた。


「お前から誘ったのか?」

「当たり前だろ!向こうが誘うわけないじゃないか」

「デートでどこ行ったんだ?」

「映画見て、ランチしただけ」

「本当か?」

「本当だって。あ、あと俺の買い物に付き合ってもらったけど」

「電車の中で、随分いい雰囲気だったけど、どこまでいったんだ?」

「だから、映画見てー」

「そういう意味じゃなくて!」

「・・・・・・馬鹿だな。何にもないよ」

「いつからできてたんだ?」

「いつからでもないよ。あの時、1回こっきり。卒業記念だって」

「じゃあ、付き合ってるわけじゃないんだな?」

「ああ、まだな」

「『まだな』ってなんだよ」


「もう、いいじゃないか。取られたって決まったわけじゃないんだから。」

石原が森田を慰める。森田は、別に僕に絡んでくるわけではなく、ただ黙っていられなくなっただけのようだった。

席が美沙さんと遠く離れていたので、二人一緒に責め立てられなくてよかった。


 だんだん雰囲気が怪しくなってきたのを感じてか、美沙さんが上着をもって席を立ち、出口へ向かったので、僕も後を追って退席した。美沙さんの家まで歩いて10分程度だが、僕は、夜道だからと、家まで送ることを申し出た。


 美沙さんの家の前の交差点に着いた時、僕は、【今後のプラン2】を発動した。


「僕、慶応ダメだった。今日大学から通知が来て、入学手続き締め切ったって。だから、名古屋の大学行くよ。大学行ったら、離れ離れになっちゃうけど、新幹線に乗れば名古屋から京都まで1時間で行けるんだ。だから、これからも可能な範囲で付き合ってくれる?」

「いいですよ」

「よかった。一人暮らし始めたら、ちょくちょく遊びに行くね」

「うん、来て来て」

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


「いいですよ」というのが、妙にかしこまって響いた。【今後のプラン2】は大成功だった。これからは、僕と美沙さんは付き合っている仲になる。今までとは違う、ステージがひとつ上がった関係になるのだ。


 この日は電車で来ていたので、来た道を戻り、ローカル線の駅へ向かう。石原の家の2階はまだ照明がついていた。中では、まだ僕たちのことが話題になっているのだろうか?


 帰りの電車に揺られながら、美沙さんの家の前での二人の会話を思い出した。何度も繰り返し思い出しているうちに、僕は自分の気持ちの変化に気が付いた。高校に通っていたころは、美沙さんは僕にとって単なる”クラスで一番好きな女の子”に過ぎなかった。しかし、デートをし、自宅へ行き、告白した今、美沙さんも僕のことを「いいな、と思っていた」と告白してくれ、付き合ってくれると言ってくれたことで、僕の中で美沙さんは、”好きな女の子”から”愛する女性”へと変わっていた。


3月27日

 両親と一緒に、大学へ行き、アパートを探した。学生課前の掲示板に貼られていたチラシの一つに目星をつけ、父さんが電話をした。現物を見て、すぐに手付金を払った。古い木造2階建ての1階だが、部屋は広く、2Kバストイレ付き。家で使っているセミダブルのベッドを置ける広さがあった。


 名古屋から帰宅すると、珍しく山崎から電話があった。同じ大学へ行くので、入学準備やアパートなどの情報交換をした。ところでと言って、

「俺、今日、櫻川さんと映画見に行った。ふふ」

僕と美沙さんのデートを目撃して、刺激されたせいか、どうやら僕の向こうを張ったらしい。櫻川さんも男子生徒から人気があった。男子から見て、美沙さんはちょっと雲の上感があって、近付きにくいが、櫻川さんは身近な雰囲気で、男子にも気さくに話かけるタイプだったから、きっと告白されたことも多かったのではなかろうか。


 3月末になると、クラスメイトたちがだんだん新天地へと旅立っていく。北は北海道から西は広島。45人のクラスメイトの内、地元の大学へは13人が進学した。地元といっても、県内という意味で、半島から通うのは無理なので、みんなアパートを借りて一人暮らしだった。

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