第50話 元ドブスは安堵する
病院に着いた私はママと城君のお母さんに連絡をした。ママは後で来てくれるそうだけどお母さんの方は連絡がとれなかったのでメッセージだけ入れておいた。
それからわずか一時間で手術は終わった。しかし、ママも城君のお母さんもまだ到着していない。
「先生! 城君は!」
さすがに西条先生ではない。たまに見る先生が執刀してくださったようだ。
「いやー彼は運がいいよ。出血が酷かったから危ないかと思ったら内臓が無傷ときたもんだ。腸が傷付いてなかったのは幸運だったね」
「ありがとうございます! 親族の方も間もなくお見えになると思いますので!」
「君みたいなかわいい子が心配してくれるなんて妬ましいね。手抜きをすればよかったかな?」
「ご、ご冗談を……」
「あはは。簡単な手術で済んだからね。誰がやっても成功するよ。よかったね。お大事に」
「ありがとうございました!」
よかった。無事に済んだんだ。きっと城君の普段の行いがいいからだと思う。背中を刺されて内臓が無傷だなんて。きっと体幹トレーニングなどで筋肉をしっかり鍛えたことも関係あるんだろうな。本当に良かった……
「静香。」
「ママ! 来てくれたんだ。ありがとう。城君が、私を庇って……」
「あなたもつくづく災難ね。美人あるあるだと思って次からは警戒しておきなさい。」
「うん……」
美人あるあるなんだ。つまりママはよく刺されかけたってことかな。でもパパと一緒だったら安全だよね。いいなぁ。
「北条 雅子だけどね。警察病院行きになったわ。あの子、何を考えたのか自分で自分の顔の皮膚を剥がしてたそうよ……剃刀でね。」
「え? 自分で?」
まさか、自分でぶつぶつを切り取ろうとしたってこと? あれは切り取っても無駄なはずなのに。
「頭のイカれた女の考えることなんて分からないわね。大人しく自殺でもすればよかったろうに。」
「そうだね。」
同情する気にはなれないな。あの顔で生きてきたのは私も同じだったんだから。北条はあの顔に耐えきれず自分の顔を剥がしてしまったんだ。分からないでもない。私の場合はパパそっくりってこともあり、少しは平気だったけど。北条の場合は美の頂点から最下層まで落とされたんだもんね、頭がおかしくなっても不思議ではないのかな。
「それから水本のボンボンだけど、帝大病院から追い出されたわ。治療費を払えそうにないから当然よね。母親はさっさと離婚届を出して逃げ出したし、ボンボンはどうするつもりなのかしらね?」
「どうでもいいよ。とりあえず私はもう城君の側から離れないよ。城君が元気になるまで。」
「好きになさい。明日には元気になってるでしょうけどね。」
それならそれで嬉しいな。
「それよりいつまでそんな変な服を着てるつもり?」
「あ、これね。親切な人が渡してくれたんだよ。私のカッターシャツは血を止めるのに使ったものだから。」
『プリンセス戦隊キュアフラッシュ』と書いてあるTシャツ。幼稚園の女の子が好みそうなデザインだ。私も小さい頃は好きだった気がする。サイズは結構大きいかな。
「そう。じゃあ私は帰るわね。しっかりやりなさい。」
「うん。来てくれてありがとう。明日は学校休むと思うから。」
はあ。やっぱりママと話すと落ち着くな。ほっとしたらお腹が空いてきちゃった。まだ城君には面会できないから、それまで食堂で何か食べてようかな。
城君の命に別状がなくて本当によかった。
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