第41話 泥だらけの美狐と醜い貴公子

体育館の床に手をつく北条。


「きゃっ! 痛いじゃない! 佐朝すけともぉ、何するのよ!」


「雅子……お前、その顔は何だ……まさかドブスが感染ったとでも言うのか?」


「は? 私にドブスが感染る? 何を言ってるの?」


「うるさい! 自分の顔を鏡で見てみろ!」


しぶしぶと手鏡を取り出し顔を見る雅子。


「ひぃっ!」


それは右頬だった。右頬を以前の静香のようなブツブツが覆っていた。いや、右頬だけでは済まず、そこから目に見えてブツブツは広がっていく。そして、5分も経たないうちに……北条の顔は……静香と同じブツブツに覆われてしまった……


体育館は阿鼻叫喚で埋め尽くされている。そんな中にあって静香と九狼は抱き合ったままだ。やはり世界に自分たちしか存在しないかのように。


そして……


「す、佐朝! あなたの顔が……」


「うるさい! 近寄るな!」


北条だけでなく水本の顔にも同様のブツブツが発生した。なまじ美女とイケメンだっただけに周囲の衝撃は大きい。本気で疫病でも発生したかのように雪崩をうって体育館から人が消えた。


残ったのは静香と九狼、北条と水本、そして北条の取り巻きの1人、阿波だけだった。



「ぷっ、あははははははははははぁ! ぷぷっ、くっ、あーははははははははははははははぁぁぁ!」


狂ったように阿波が笑い始めた。そこでようやく静香と九狼も現実に帰ってきたらしい。


「あれ? 仮装ダンスパーティーはどうなったんだ? まだ終わる時間じゃないよな?」


「そうだよね。私まだ踊り足りないよ。」


「音楽が止まってるな。吹奏楽部もいなくなってるし。まあいいか。」


「うん、このまま2人で踊ろうよ。城君、リードして。」


北条の顔を見ながら笑い続ける阿波。何ものも気にせず踊り続ける2人。そして、互いを罵り合う北条と水本。


「お前があんなドブスなんかに関わるから感染ったんだろう! どうしてくれるんだ!」


「そんなの感染るわけないでしょ! ドブスが感染るって小学生じゃあるまいし! こんなのすぐ治るわよ!」


「本当だろうな! こんな顔では外も歩けん! 迎えを呼ぶから先に帰るぞ! お前は勝手にしろ!」


「ちょ、佐朝、自分だけ帰る気!? 私も連れて行ってよ! 帝大病院に行くつもりなんでしょ!」


「うるさい! タクシーでも何でも呼んで後から来い! 治るまで俺に近付くな!」


「そう……そんなこと言うんだ。この私に。もういい、アンタなんかいらない。さっさと消えろ! この、無駄撃ち早撃ちゲス猿野郎ぉぉぉーーー!」


「ふん、血筋しか取り柄のない売女が! お前だけが女だとでも思っているのか! 今日のことはパパに言いつけるからな!」


顔を隠し体育館から走り出る水本。王子様の仮装が滑稽でならない。


「アンタはいつまで笑ってんのよ!」


阿波に向かってビンタを放つ北条。しかし手首を掴まれた。


「哀れねぇ北条さぁん? どうしてこうなったんだろぉねぇ? ぷぷっ、今のあんたはブス香そっくり、そうよ! あんたは今日から雅子みやびこじゃなくてドブス子よ!」


「秋子、アンタ何考えてんの? 私に逆らってこの先どうやって生きてくつもりなのよ?」


「はぁ!? あんたがそれを言うの!? 私達はもう終わりなんだよ! あんたなんかに付いて来た所為で! こんな学校に来てまで! くっそ下らないイジメをさせらせて! 私らの成績知ってる!? 4人で最下位争いしてんだよ!? こんな成績でどこの大学に行けってのよ! しかもブス香はあんたより美人になるし! あんたは水本先輩に捨てられるし! ブス香よりドブスだし! もう笑うしかないんだよぉぉぉぉーーー!」


「そう。アンタも佐朝もバカばっかりね。なぜ私にこんなブツブツが出来たのかは知らないけど、こんなのすぐ治るに決まってるわ。アンタら4人も佐朝も、好きにしたらいいわ!」


「ひゃっはっはぁ! 好きにするわよ! あんたのその顔! もうバッチリ写したからね! せいぜい広めてやるから! 世界中にねぇ! 死ねばよかったのに、ほんっとに悪運だけは強いんだから! あんたもブス香も! せいぜい生き恥晒してもらうからね!」


次の瞬間、北条は阿波に襲いかかり手元のスマホを奪いとった。そして馬乗りになり、ゆっくりと阿波の顔を殴り始めた。阿波は気を失うまで、狂ったように笑い続けていた。




「ブス香ぁぁぁぁーーー!」


北条はもう堪えきれないといった面持ちで感情を剥き出しにして、叫んだ。

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