第42話 朝比奈 巴と御前 大河

楽しく踊っていたのを邪魔された静香と九狼。お邪魔虫を見る目で北条を見るが……


「お、おい雅子! お前その顔……」


「うるさい! そこのドブスが感染ったんだよ! どうしてくれる!」


「城君、帰ろうか。たくさん踊ったし、城君の膝も心配だからね。」


そんな北条を歯牙にもかけない静香。


「お、おう、帰ろうな。おい雅子! タクシーか救急車呼ぶか? 病院に連れてってやる気はないけどそんぐらいはしてやるぞ?」


「うるさいんだよ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって! こんなブツブツなんかすぐ治るんだよ! ほっとけ!」


「それなら安心だね。私帰りにドナに寄りたいな。」


やはり北条のことなど気にもしてない静香。当然だろう。


「おう。じゃあな、そっちの阿波さんだっけ? 何とかしてやれよ。それにあんなクソ兄貴だけどよ、付き合いきれるのは雅子ぐらいだろうぜ? まあ知らんけどよ。」


「さっさと消えろ! だせぇ仮装しやがって!」


哀れむような目の九狼と九狼しか見えてない静香。2人がその場を後にすると、残されたのは北条と阿波。床に突っ伏して声を殺して泣く北条の姿を見る者はいなかった。




そこにどこからともなく現れたのは、朝比奈だった。


「くっくっく……無様だねぇ。天唾って言葉を知らないのかぁい?」


天に向かって唾を吐く。この場合はどういう意味なのか、混乱している北条には分かるはずもなかった。


「アンタのその顔、簡単に治ると思ったら大間違いさぁ。静香があの顔を治すのに費やした時間は20年近い。まあほぼ研究と解明に費やした時間だがねぇ。」


醜い顔でキッと朝比奈を睨む北条。静香が生まれる前に原因があったことなど知る由もない。ただ、静香の名前が出たことが不愉快なのだ。


「治したくなったら言ってきな。条件次第で相談に乗ってやるさ。あぁでも、アンタその顔になったら自殺するんだったわねぇ? それなら問題ないねぇ。」


「条件って何よ!」


「別にぃ? 自殺するアンタには関係ない話さ。そもそも自殺しなくたって長生きできそうにないしねぇ?」


「なっ、何を知ってるって言うのよ!」


「アンタだって気付いてんでしょお? 取り巻きがもう言うこと聞かないって。それどころか4人が4人とも追い詰められ過ぎてトチ狂ってるよぉ?」


返事ができない北条。


「まあどうせ少年院のあいつらが白状したらアンタもボンボンも豚箱行きさぁ。どんな約束で口封じしてんのか知らないけどさぁ、年貢の納め時だねぇ?」


「なっ! あれは佐朝が!」


「へぇ? ボンボンの指示だったんだぁ? 証拠ゲーット。でもそんなボンボンにおねだりしたのはアンタだよねぇ? まあ喋りたくなったら言いなぁ? 聞いてやらんこともないからさぁ。」


「何なんだよ! 何がしたいんだよ! てめぇ何もんなんだよぉ!」


そこらのアイドルを優に上回った美少女の面影はもうどこにも見えない。


「別にぃ? ただうちのかわいい静香を長年イジメた奴らを苦しめたいだけさぁ? 苦しむのが嫌ならさっさと自殺でもしなぁ!」


「くっ、こんなの治るし! 証拠とか何の話か分からないわ! 自殺なんかするわけないし!」


「そうかい。そんならその顔で一生過ごすんだねぇ。ちっとは静香の苦労が分かるだろうよ? あぁそうそう。アンタが奪ったそのスマホ、ダミーだよ。そこでのびてる子、悪知恵が働くのねぇ。もうとっくにアンタのブツブツ顔はあちこちに公開されてるよ? ははっ、可哀想にねぇ?」


「そ、そんな……」


「じゃあねー? あ、これ名刺。要らなきゃ捨てなぁ?」


北条が読まずに握り潰した名刺には『SSS Special Security Service A級エージェント 朝比奈 巴』と書かれていた。


『SSS』とは、警備会社である。それも要人警護を中心に、非公式で一国の王や裏社会の大物まで警護するとも噂のある会社である。社長は傭兵上がりで、あらゆる悪意から伝説の大女優『磯野よしの』を守り抜いた男『御前 大河』そう、静香と結牙の父親である。

会社の総売上や総資産では水本グループには遠く及ぶまい。しかしそれ以外……人脈、情報力、そして戦闘力では……


水本グループ、そして北条家はとっくに御前 大河の逆鱗に触れていた。

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