第39話 ダイヤモンドは輝きを増す

はぁ、緊張した。でもこのお金は貰わないとどうにもならないもんね。でもどうしよう。こんな大金は持っておきたくないな。ロッカーに入れておこうかな。今のところロッカーを壊されてまで物を盗まれたことはないし、多分壊せないだろうし。大丈夫だよね……



あ、まだご父兄の方が残られてたのね。


「ああ静香。あの紅茶美味しかったわよ。」


「え? その声、ママ? どうしたのそれ?」


声でママとは分かったけど……その格好に顔、まるっきりお婆さんだ。


「ちょっとしたメイクよ。結牙と一緒に来たからね。これならバレることもないわ。」


「あぁ、そうだよね。あ、ママこれ。狭山茶おいしかったよ。ありがとう。」


「どういたしまして。じゃあこれ領収証ね。それからこれ、ダンスをするのよね? 着てみなさい。」


「何かの仮装? ありがとう。すっかり忘れてたんだよね。」


紙袋を渡された。


「きっと似合うわ。じゃあ帰るわね。結牙がかなり不機嫌だから鞍天寿司にでも連れてってあげるわ。」


「あはは、あの子にしては珍しいよね。手のかかる弟って本来はあんな感じなのかな。」


「ふふっ、そうかもね。静香も結牙も手のかからない出来た子だしね。たまにはいいわよね。じゃあね。」


「うん、ママありがとう。」


嬉しいな。ママは何でもお見通しなのかな。でも困ったな、どこで着替えよう……

やっぱり女子更衣室かな、あんまり行きたくないけど。そこしかないよね。




中には数人しかいなかった。よし、これならさっさと着替えれば何事もないだろう。彼女達も自分の仮装に夢中のようだし。


さて、ママはどんな服を入れておいてくれたのかな。




うわ……すごい……深紫のイブニングドレス……それもベルベットだ……私がこれを……?

でもこれしかないし、着るしかない……


うわぁ……袖がない……胸元がこんなに開いてる……あ、背中だってすごく開いて……裾だって地面に付くほど長い……


ショールはない……このままなんだ。ロンググローブもベルベット製だ……ネックレスは……あった。うわぁ大きいエメラルドだ……すごい。イヤリング類はないのか。なら後は髪をどうにか……無理だな。櫛とヘアピンぐらいしかない。更衣室に一つしかない鏡はさっきから占領されているし、感覚で櫛を通すことしかできない。

それに、こんなドレスを着るのならお化粧ぐらいするべきなんだろうけど……口紅すら持ってないし、やったこともない。城君に恥をかかせるわけにはいかないのに……


でも、そろそろ時間だ。行かないと……脱いだ制服は紙袋に入れてロッカーにしまっておこう。この服装で校舎内を歩くのは恥ずかしいな。あんまり人がいないからいいけど。




はぁ、ここからだ。


着ていてなんとなく分かってきた。このドレスはママのだ。それも某国のパーティーでママが着用していたもの。パパがママを庇ったあのパーティーで。根拠なんかないけど、そんな感覚がある。


そうだ。


これは仮装なんだ。

私は大女優『磯野よしの』の仮装をしているんだ。

誰よりも凛々しく、何よりも美しい。

そんなママの仮装をしているんだ。


だから、恥ずかしがってなんかいられない。廊下ですら堂々と歩かなくては……





静香が決意を固めた頃、体育館ではすでにダンスパーティーが開催されていた。吹奏楽部の演奏をバックに自由気ままに踊る生徒たち。

その中にあって一際目を引くのはやはり水本 みなもと 佐朝すけとも北条ほうじょう 雅子みやびこのペアだった。九狼くろう じょうを除けば学校一のイケメンである水本とそこらのアイドルでは太刀打ちできないほどの美貌を持つ北条である。二人の仮装はシンデレラと王子様。とてもよく似合っている。ステップも正確で、さぞかし人前で踊ることに慣れているのだろう。彼らの周囲では皆が距離をとり、2人に見惚れていた。


一方九狼は、未だに現れない静香を探して体育館の入り口をウロウロしていた。当然自分の相手をしてもらおうと話しかける女生徒は枚挙にいとまがない。



静香が現れたのはそんな時だった。


「城君……お待たせ。」

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