37話「二度目の晩御飯」

 俺達は、それから他愛のない話をしながらいつも通り電車に乗ると同じ最寄り駅で一緒に降りた。


 それから山田さんは、この間紹介した商店街の八百屋で野菜を買い、足りないものを隣の精肉店や近くの商店で買い揃えた。


 八百屋の大将だけでなく、精肉店や商店どこへ行っても山田さんは歓迎されると、オマケでサービスしてくれた。

 よく美人は得するとは言うけれど、本当なんだなぁと思いながら俺は買い物袋を持って隣に並んでいた。


 こうして食材を買い込んだ俺達は、そのまま一緒に山田さんの家へと向かった。


 それにしても、こうして一緒に食材を買い込んで帰るとか、まるで夫婦みたいだなとか考えてしまい少し気恥ずかしくなった。

 俺達はまだ彼氏彼女なわけでもないのに、やってる事はそれ以上だった。



 ◇



 土曜日ぶりの、山田さんの家へとやってきた。


 相変わらず、広いけど物の少ないリビングへ案内されると「今日は座って待ってて良いからね、驚かせたいから」と言われてしまったので、お言葉に甘えて座って待つことにした。


 こうして当たり前のように山田さんの家にお呼ばれしているけれど、やっぱり普通に考えたらあり得ない行為をしていると思う。


 だけど俺自身、少しでも山田さんと一緒に居る時間が長ければ長いほど嬉しいし、こうして一つ屋根の下二人きりで居れる状況なんて尚更だ。


 けどそれでも、それだけなら俺は断っていたと思う。

 やっぱり、付き合う前の男女が家に出入りしてるのは不健全だと思うから。


 じゃあなんで今ここに居るのかというと、理由は一つ。

 それは、この広い部屋で一人暮らししている山田さんの事を一人にしたくなかったからだ。


 口や態度には出さないけれど、山田さんが寂しがっている事ぐらい俺は分かっている。

 だから俺は、理由はまだ聞いていないけどご両親と離れてここで一人暮らしをしている山田さんのためなら、出来ることがあれば何でもしてあげたかった。


 せっかくこの街へやってきて、そして俺と出会ってくれた山田さんに、少しでも楽しんで欲しかった。




 山田さんの様子を伺うと、その長く美しい金髪を後ろでまとめ、制服の上からピンクのエプロンを着けて料理を始めていた。


 俺はその姿に、思わず赤面してしまった。

 いつもと違う山田さんを見ていると、やっぱりとんでもない美人だなって再認識させられてしまう。


 そして俺の視線に気が付いた山田さんは、こちらに向かってニコッと微笑んでくれた。



 ◇



 テーブルに料理が並べられる。

 ご飯とお味噌汁にサラダ。

 そして今日のおかずは、豚の生姜焼きだった。


 匂いで何となく分かっていたけれど、好物が並べられた事で俺はテンションが上がった。


「凄い、美味しそう! 俺生姜焼き好きなんだよね!」

「フフ、なら良かった。太郎くん好きかなぁと思って」


 山田さんは、俺のために今日の献立を考えてくれたようだ。

 当たり前だけど、俺はそれがとても嬉しかった。

 山田さんが俺の事を考えてくれていたという事に、胸がいっぱいになった。


 そして「冷めちゃうから、食べよ」と言われたので、一緒にいただきますをして早速俺はその豚の生姜焼きを一口食べてみる。


「お、美味しい!」

「そう? 良かった」


 めちゃくちゃ美味しかった。

 家で食べる生姜焼きは市販のタレを使っているけど、この生姜焼きは一からタレを作ってるのだろうか、生姜の香りがしっかりと香り味のバランスも絶妙だった。


 そのあまりの美味しさに、すぐ二口目を口に運ぶ俺の事を山田さんは嬉しそうに見つめてきていた。


「おかわりもあるから、沢山食べてね」


 山田さんのお言葉に甘えて、結局サラダ以外の全てをお代わりした俺は、お腹も心も満たされたのであった。



 あぁ、もうこれダメだ……幸せすぎる……。


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