ガールズフットプリントーーあたしとあなたが繋がった日ーー
その
前編
思えば、酷く現実感の無い光景だとは思った。でも、そこにいたあたしは文字通り、それどころではなかったのだ。
ルウムが、あたしの胸に覆い被さって、まるで赤ん坊のように乳首をしゃぶる。
しゃぶりながら、乳房を下から持ち上げるようにして撫でる。それだけの刺激で、牙の間から変な声が漏れてしまう。
「ロボナのおっぱい、大きいよね」
仔犬のようにちうちうと吸いながらルウムは喋る。
半開きになった口吻から、あたしの固く尖った乳首に、ルウムの真っ赤な舌が飴玉をしゃぶるようにまとまりついているのが見えて、あまりの恥ずかしさに目を逸らす。
少し歯が当たるが、もうそれですらアタシを悦ばせる材料にしかならなかった。
はあはあと肩で荒い息をするアタシを横目に、ルウムは無言で顔を上げて、唾液でべとべとになったアタシの胸を見下ろす。
それがどんな表情か気になるのに、どうしても顔が影になっていて見ることができない。
その影に触れようと、怠い体になんとか力を入れて起きあがろうとした時だった。
すとん、と世界が一段落下して、あたしはベッドの中に引き戻される。
目が覚めた。夢だ。
……いや、というかなんだこのシチュエーションは!?
最初は二匹でデートに出かける夢だったのに、それがどんどんエスカレートして、最近、こんな感じでルウムの淫夢をよく見てしまう。
はじめは、頼りないルウムを見守ってやりたいという気持ちから彼女のそばにいたのだが、その弱々しさや危なっかしさすらあたしにとっては魅力的で、いつの日かそれが恋であることに気づいてしまった。
それから、そういう夢を多く見るようになった。すなわち、あたし自身が、ルウムとそういう仲になりたいということだ。
だけれども、ルウムは同性愛者ではないし、それは一生叶わない。
そういう意味でルウムは絶対にあたしを求めないし、あたしではルウムが望んでいるものにはなれない。
だから、同じ種族の親友としてただひたすら、あの危なっかしい仔が、素敵なパートナーに巡り会えるまで支えるのが、使命だとすら感じていた。
淫夢で取り乱した自分になんとかそうやって言い聞かせて落ち着かせながら、スマホをぽちぽちいじっていると、LINEの通知でスマホが震えて、危うく取り落としそうになる。
通知機能は一匹しか設定していない。案の定、ルウムからだった。
『明日、おうちにいて休みだったら一緒にショッピングに行こうよ!』
返事を返す前にアプリで姫煩いの周期を確認する。まあ、すでにあたしの体臭は何とも言えない、独特のあの時期の匂いに変わりつつあったから、正直なところ確認するまでもない。
アプリは、姫煩いが近いか既に始まっている頃だと告げている。このまま明日ルウムに会ったら、確実にあたしの姫煩いはルウムへ向けた性欲に変換されてしまうだろう。
あたしが一番怖いのは、暴走したあたしがルウムとの関係を壊してしまうことだ。
ルウムが親友としてあたしに頼ってくれるのは痛いほどわかる。もしあたしが居なくなれば、人一倍シャイな彼女を一体誰が支えてあげられるのか。
それに、今までルウムにしてきたことが、同性の友人としての立場を利用した下心ありきのものだったと思われれば、思い出まで穢れてしまう気がした。
そんな事には耐えられない。
ルウムのそばにいると姫煩いの症状はひどくなる一方なのはあきらかだし、アタシは、そこまでアタシを信用できない。
だから、アタシは、はじめてルウムの誘いを断った。
『ごめん、少し体調が悪くて』
そんなそっけない返事をするなんてアタシらしくもない。なのに、その一言だけ送って、スマホを遠くに放り投げた。
もう、罪悪感と、どうにもならない寂寥感でアタシはいっぱいいっぱいだったのだ。
姫煩いの波が来ているのがわかった。さみしい。つらい。薬を飲めば、この気持ちも少しはマシになるのかもしれない。
でもそれは、あの仔への想いも無理矢理消し去ってしまうように思えて、今はもう少し、あの仔の余韻に浸っていたかった。
無意識のうちに、下腹部に手が伸びる。
そこに渦巻く熱を掻き回すように、服の上から撫でて慰めると、ひとりでに、喉の奥からため息まじりの声が漏れる。
あたしは部屋で一匹、あの仔の名前を呼ぶ。何度も、何度も。それがいかに虚しく愚かであるか、自分でわかっていながらも。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。時計を見れば数時間経った頃だろうか。ピンポン、とドアのチャイムの音で目が覚める。
何か注文でもしてたっけ、と思いながら慌てて服を着て、チェーンをかけた玄関の扉の隙間から、おそるおそる外を伺う。
そこにはアタシの最愛の狼が、それこそ心配そうな、申し訳なさそうな表情をして、耳を垂れ下げて立っていた。
「あのね……あのあとLINEしたけど返事がなくて心配で……来ちゃった」
思わず今朝見た夢の内容が脳裏に浮かんで、目を逸らしてしまう。
今日は1日ひとりで寝て過ごすつもりだったし、ルウムのことを考えていたかったから、匂い消しの薬も香水も使っていない。部屋から溢れた匂いでルウムもすぐにわかってしまったはずだ。
慌てて言い訳の言葉を紡ぐ。
「わりぃ…アタシとしたことが、薬切らしてしまって。でも大丈夫だから、ルウムは授業もあるだろ?アタシのことは心配しないで」
咄嗟に嘘をつく。もちろん、姫煩いの薬は余るほど用意してある。
「わたしね、今日は休校」
そういってチェーンをあけさせて、ずかずかと部屋に入ろうとしてくる。
慌てて引き留めようとするも、アタシの親友は少しガサツなところがあるから、あたしの手を振り解いて、部屋へと降り立つ。
「ぁ……この、匂い……。今回結構強めだよね?ロボナ……大丈夫?……?薬、ここにたくさんあるけど」
「……寝起きだから、忘れてた」
苦しい言い訳をする。
ひとまず薬を飲んで、もう大丈夫だから、少し怠いから横になりたいだけだと説き伏せてルウムを帰そうとするが、親友は心配性で部屋から出たがらない。
正直なところ、それがすごくありがたかった。
こんなに姫煩いの症状が強く出たのははじめてで、手元にある薬も市販のたいして強くないものだ。
ルウムが側にいなかったら、押し寄せる寂しさでどうにかなってしまっていたかもしれない。
それぐらい、ひどい気分だった。
ルウムは、いつも、こんな気分で眠れない夜を過ごしていたのだろうか。いつも世話をしているアタシがこれでは、まるでミイラ取りがミイラといった有様だった。情けない。
ルウムが何やらスマホをいじっている。どうやら真剣に誰かと連絡を取っているようで、これも姫煩いのせいか、それが誰なのかがひたすらに気になってしまう。
「ロボナ、薬効いてきた?ちょっと私、出かけないといけなくなった」
「ぁ……わかった」
スマホをしまうと、急にここから居なくなってしまう雰囲気を出した親友に、一瞬、喉の奥で情けない声をあげてしまう。
そんなアタシを安心させるように、ルウムが肉球でふかふかと頭を撫でてくれる。
「すぐ戻ってくるからね」
パタパタといなくなる親友。
なんだろうか、雄と会う約束でも入っていたのだろうか。
嫉妬と寂しさの気持ちがまたあたしの匂いを狂わせる。彼女が出た後でよかったと思った。
一時間経つか経たないかで、また、チャイムが鳴った。
「ロボナ?起きてる?あけて〜」
親友の声がドアの向こうから聞こえてくるなり、跳ねるように布団から這い出る。
尻尾を振りながらドアノブに手をかけたところで、我にかえって、尻尾を撫でつけて、鎮める。
どこに行っていたのかと問い詰めたい気持ちと、帰ってきてくれた嬉しさと、なんで帰ってきてしまったのかという絶望感が胸の中でないまぜになって、よくわからなくなる。
無言で力なく鍵をあけるアタシを横目に、すぐに部屋に入ってくる。こう言うところデリカシーないよな、と思いつつも、促されるままに布団の上に座らせられる。
「あのね……ロボナ……姫煩いのこと、さ、私あまり詳しくなかった、から、その、お友達に、教えてもらったの。それで、えっと、これも、役に立つみたいだから代わりに買ってきてもらって……」
噛みながらそう言って取り出したもの。それを見て思わずあたしは吹き出してしまった。
狼の雄そのものの形のディルド。
一体どこで?そもそも誰から?そんな話を?
「ロボナの姫煩い…せいよく、っていうのになってるって、友達が言ってて……それを治すのに必要なもの、色々教えてもらったから……買ってきてもらったんだぁ……」
さすがに恥ずかしいのか、ルウムの目は泳いでいる。
アタシも別に今更、初心を気取るわけではないけれど、ルウムの照れに飲まれて、テーブルの上に鎮座するリアルなピンク色のそれを直視できない。
「ルウム、さ、これ……使い方」
「それも、教えてもらった……ううん、なんとなく、知ってるよ……」
ルウムがディルドの使い方を知ってるなんて、と、頭に衝撃が走る。
この間まで子供がキャベツ畑で収穫されると言っても信じそうだったあのルウムが。
保健体育の時間はいつも居眠りしてたとしか思えないあのルウムが。
幼い娘がいつの間にか大人になっちまったような気持ちだ。べつに娘がいたことなんてないけれど。
でも、とルウムが自信なさげに切り出す。
「ロボナのお手伝い……やっぱり雌のわたしじゃあ無理だよね……」
ここまできて、こんなものを買ってきて、いきなり何を言い出すんだろうか、この仔は。
急に及び腰になってしまったルウムを、思わずお預けされてしまった犬のように見つめてしまう。
「本当は私以外の雄にお願いできればよかったんだけど……わたし、雄の友達もいないし」
本気でとんでもないことを口走っている。ルウムに雄の友達が居なくて本当に良かったけど、もし居たら本当に連れてきていたのだろうか?
アタシにはルウムだけなのにと、ちょっと悲しくなってしまう。
「あとなんか…他の雄にそんなこと頼むなんて、なんか嫌だし。ん、あっ!いまのは忘れて」
その言葉を聞いたとき、あたしの中の何かが弾け飛んだ。気づいた時にはルウムをグッと引き寄せて布団の上に二匹でなだれこんでいた。
「ロボナ?」
「……がいい」
「え?」
「…ウム、ルウムが……いい……!」
ルウムの胸に顔をうずめて、押し殺した声で叫ぶと、あたしの体臭は、薬を飲んだにも関わらずピークに達する。
その匂いが、誰に向けたものだったのか、わかってしまったからだろう。嗅いでしまったルウムが、とたんに頬を赤らめる。
きっと、顔を上げたアタシはその時、今にも泣きそうな、必死の顔をしていたのだと思う。
抵抗してほしい。少しでも嫌なそぶりをしてくれたなら、走って石につまづくように、アタシが立ち止まる理由になったのに。
あろうことか、ルウムは、特に嫌がる素振りも見せず、顔を赤らめたまま、アタシに向かってはにかんだのだ。
もう、自分を抑えることができなかった。
「ルウムっ!好き……好きぃ」
自分の鼻先を、ルウムのやわらかい鼻面に何度も押し付けて、溢れ出した感情そのままにルウムの名前を呼び続ける。
「ふっ……あっ……ロボナっ……」
咄嗟にルウムがアタシの名前を呼んでくれたのが、なんだか気持ちに応えてくれたような気がして、アタシは嬉しくてヒートアップしてしまう。
もう15分以上は経っている気がする。アタシたちは鼻キスからはじまり、すこしずつ、すこしずつ口元へとどちらからでもなく誘導していく。
そして唇が触れ合い、何度かくちづけを交わしてるうちに、これもまたどちらからでもなく、にゅるり、とお互い舌を絡ませる。
「ふぅ、んっ……ぅ」
時折にお互いから溢れる吐息と、部屋に響く卑猥な水音が、さらに興奮に拍車をかけるのだった。
ひとしきりマズルを重ね合った後、顔を離してお互いを見つめる。
ルウムは、ぼうっと高揚した表情をしていて、アタシと同じくらい息が上がっていた。
アタシにつられてしまったのか、ルウムからも、ほのかに自分と同じ甘ったるい匂いを感じる。
アタシはそりゃもう頭真っ白で、自分の中の欲望は乾きを知らないし、ひどい後悔は付きまとうし、寂しさを埋めるにはまだ全然足りないし。
それが全部あふれて泣いてしまいそうなんだ。助けてほしい。
「キスしたの……ロボナがはじめて……」
そんなアタシを知ってか知らずか、うっとりと、官能的な表情を浮かべながら彼女が言う。
一見して、ルウムが嫌がっているようではないことだけが、今のアタシの救いだった。
あたしはずっと、ルウムとの関係が壊れることだけを恐れて、この気持ちを隠してきたから。
それがいま、本人に明確にバレるという問題を超えて、行為にまで及んでしまっている。
膝立ちになって、すこし、ルウムから後ずさる。
少し頭が冷えてくるにつれて、恐ろしいほどの感情がおしよせてくる。
ルウムは後悔しないのか?雰囲気にただ飲まれてるだけではないのか?後から急に態度が変わったら?アタシ達のいままでの関係に、ヒビが入ったら……?
「……ロボナ!?」
いつの間にか、つぅ、と眼から涙が溢れる。
恐怖と後悔、そして絶望が胸の内から溢れ出して止まらなくなる。
「ルウムは……こんなこと本当はしたくないよね。ごめん、独りよがりで、本当に……」
ただ自分が耐えられなくて赦しを乞うだけの謝罪の言葉が、あまりにも空虚に聞こえて、ルウムの目を直視することが、どうしてもできない。
それだけ、取り返しのつかないことをしたと思った。
思っていた。
「ロボナ」
名前を呼ばれて、叱られた仔犬のように、背筋が、びくりと震える。
「大丈夫だから、わたしを見て」
でも、次に聞こえた声音は、思いの外、優しいものだった。
顔を上げてルウムの事を見る。
両腕をだらりと垂らして、呆然と膝をつくアタシを、布団から起き上がった灰色の影が、優しく抱きとめてくれる。
「そんなこと、思ってない……思ってないよ私。本当に、今まで誰ともキスできなかったのに、ロボナとだけ、できたんだよ……気持ち、よかったし……」
「ぁ……」
耳元で囁かれる言葉が信じられなくて、手が震える。極度の緊張で、指先の感覚がなくなってくる。
「だからね、続き……」
彼女に抱きつかれたまま、力が抜けた体を押し倒されてしまった。
アタシはルウムに、気を遣っていてもらえているだけなのだろうか?
この状況は、誰の意思なのだろう。
ここで、それは思い違いだよ、やっぱりやめよう、アタシがおかしかったんだと引き返すことはできる。
しかしそれは、自分の欲望を差し置いても、酷な選択な気がした。
それに、そうしてしまったら、アタシは二度とルウムの本心を聞けなくなる気がして、怖かった。
「ルウム……」
抱きついたまま次にどうしたらよいか戸惑っている愛しい狼の背中を、そっと抱きしめる。
それに、ルウムには、アタシがずっと傍についていたのだ。
アタシが見てきた彼女は、決して、雰囲気に流されてこんなことを始める仔ではなかった。
……仮にそうでないとして、関係が崩れてしまっても、それはそれで潔く失恋だと思うべきなのだろう。
恋愛って多分そう言うものなんだと思う。自分がずっと抱えてきたものだって、どこかで見切りをつけないと心が押しつぶされてしまう。僅かでも可能性があるのなら……大丈夫、心の傷は癒えるものだ。
アタシは、目の前のこの仔を信じて、賭けてみたい。
いや、賭けではない。これは本気だ。自分の欲望なんて今やどうでもいい、自分の想いを心ごとルウムに捧げるつもりだ。粉々になろうとそれは、自分の勝手。
肩を震わせながらあたしは勇気を振り絞る。
「ずっと……ルウムが、好きだったんだよ。親友だって思ってた」
最初は、危なっかしくて放っておけない仔だと、だからアタシがお世話してあげなきゃと、そう思っていた。
声が震える。紡ぐ言葉がどんどん涙声になる。
「なのにあたしときたら……ルウムのこと、いつからかそう言う目で見てた……!」
アタシは、それをずっと言えずに、言わなかったからこそ、親友としてルウムの一番近くにいることができた。それを、利己的な行為だと責められても仕方がないだろう。
でも、アタシは正直に打ち明けなければならない。
ルウムと、この想いに誠実に向き合って。
もう、仮初の日々は終わりにしよう。
「アタシは、ルウムに、恋してた……!」
鈍い彼女に伝わるようにあえて恋という小っ恥ずかしい言葉まで使う。ここまで言っておいて、最後には怖くて彼女の顔が見られない。
どくんどくんと、耳の奥で、自分の鼓動が聞こえる。
おそるおそる顔を上げると、その先には柔らかな表情の彼女が、にへへと照れながら、でも笑いながらこちらを見ていた。
「ロボナ……私ね、嬉しかったんだよ。……ロボナがわたしが良いって言ってくれたとき、色々なことが、なんとなくわかっちゃったの」
雄に見られてもみっともなくないように、色々と世話をしてくれたこと。実際に雄と付き合うことになっても、自分のことを一番に考えてずっとアドバイスをくれていたこと。
ルウムは、淡々と、そんな細かいところまでよく覚えていたなというようなことまで、矛盾を抱えたアタシとの思い出を振り返っていく。
「なんでこんなにわがままを聞いてもらえるのかなって、ちょっと思ってた……だから」
見捨てないで、わたしを好きでいてくれて、ありがとう。
その一言で、あの悩んだ日々は無駄ではなかったのだと、報われた。
伝わるはずがないと思っていた想いが、報われてしまった。
耐えられなくなって、ルウムの胸に縋ると、アタシの愛狼は優しく受け止めてくれる。
「ロボナがずっと隠し事してるって、前から気づいてたんだよ。ちょっと寂しかったけど、そういうことだったんだね」
そしてルウムは、アタシを抱きしめながら、気づいてあげられなくてごめんね、と謝罪する。
「ぁ……」
せめてルウムが喋り終わるまで、胸の奥から湧き出てくる感情を、必死で抑え込んだ。
「……わたしさ、オスの方と付き合っても、どうしても上手くいかなくて……こんなふうに触られたり、キスとかしたり、するのもすごく辛かった。でもロボナなら……全部受け入れられる、気がする。何にも経験ないけど……」
彼女はたどたどしく、でも優しいトーンであたしに語りかけてくれる。
アタシは、とうとう緊張の糸が途切れて、柄にもなく嗚咽をあげて泣き出してしまった。
彼女がティッシュを持ってきてくれて、すぴすぴと鼻をかみながら今までのことを二人で振り返る。海で遊んだことも、一緒に焼肉に行ったことも、花火をしたことも……全部がかけがえのないものだったと。
あたしは溜め続けた想いを全て打ち明けた結果、姫煩いで高まった性欲は一旦涙とともに流れきってしまった。
雌って不思議だ。あんなに高まった性欲も涙が溢れるとそれと一緒に流れてしまうのだから。
少し惜しい気持ちもするけれど、心は晴々としている。ふと布団の横に目をやる。狼の……ディルド。急におかしくなってしまって、笑いが込み上げてくる。
「ふふっふふふ…あははは!」
「ちょっとロボナ、どうしたの!?…あ、これ見て笑ったでしょ!ひどい!!」
真面目にロボナのために買ってきたのに、と、ぷくっと頬を膨らませる彼女も愛おしい。
「悪い悪い……なんかさ、ホッとしちゃって……でもルウムの優しさとか全部、アタシ受け取ったから」
そして、床でぷるぷる震えるそれを指さす。
「コレもさ、大事にするから」
「コレは私がロボナに使うの!もう雄の…なんて要らないんだから!」
彼女がそれを手に取り、ぷにぷにと指で弄びながらいうものだから、さらにおかしくて、アタシはまた吹き出してしまった。
初めてそれを使った夜は、満月の日だったな。
ルウムったらそれの向きすらわかってなかくてまた、アタシのことを笑わせたよね。
……それはどうでもいいか。
そのときの話はいずれ、またどこかで。
あたしとルウムにとって、忘れられない日になったから。
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