元・某掲示板特定班の優雅な日常
小鳥遊あくた
元・某掲示板特定班の優雅な日常
世界は雑音に満ちている。色鮮やかな情報に満ちている。
カフェに幾重にも響く雑音。色濃い話、ほの暗い話、軽薄な話。隣の席にいる彼女たちの口からも漏れる雑音もその一部。
「そのとき先生ってば酷いんだよ、……」
彼女は同意が欲しいのだろう。何度も何度も似た雑音を繰り返しては、対面に座るもう一人の女子に同意を求める。
その雑音に見方としてそういう意見もあるのかと思うことはあれど、私は元より他人である。彼女が言ってるのことはわからない。
それにあまり興味がない。それらはすべてノイズとなって消化される。彼女が言う“先生”もきっとキミのことを同じように思っているよ、という雑音は興味と共に心の中で溶かした。
隣から聞こえてくる雑音は無視して意識を他へ向ける。
「ただでは辞めないとか言って……」
「パス回し調子よくいったからさ……」
「その子スケジュール合うならうちの番組で……」
「課題も結局私が全部したしさ……」
耳に入った雑音から情報を拾ってスマホで検索してみる。近くのあの女子大の関係者、区内で決勝にいった部活の子たち、無名の芸能人、どこかはしらない文学部系の学生。今日のラインナップは、平平凡凡。これといった面白い収穫はない。
「お待たせしました、ブレンドコーヒーです」
クリアに聞こえた店員の声に意識が集約する。私はスマホから視線を離す。軽く会釈をして、店員が去るのを見送る。
視線をコーヒーへ向けたまま意識を拡散させる。また雑音だらけの世界がやってきた。周囲に騒めく雑音は耳を通り抜ける。その度に情報を拾っては遊んでいる。この空間は情報に満ちている。彼ら彼女らしかしらない個人情報で満ち満ちている。雑音は退屈を紛らわせるエッセンスだ。これだからやめられない。
世界は雑音に包まれている。彩り豊かな雑音に満ちている。今日は誰を捕らえられるだろうか。
「 」
おもしろいノイズが聞こえてきた。今日は彼らを捕まえよう。
元・某掲示板特定班の優雅な日常 小鳥遊あくた @akuta_
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