第4話 ご指導お願いします

「ロンディ! クルーサ! こんな所にいたのか!」


 あの後二人を探すためにあちこち走り回る羽目にあった、おかげで昼ごはんを食べ損ねたぞ。


「あ、バレた」

「随分早かったじゃないか」

「何を呑気に……お前たちのせいで……まぁそれはいい、早く行くぞ」

「どこに?」

「職員室前だ」


 各クラスが囲う中心にある訓練棟、その一階には職員室がある。

 俺たち三人は職員室の入口から少し離れた場所で隠れていた。


「お前たちのせいで一日のほとんどを無駄にしたけど、まぁ今はそれで都合がいい」

「何する気なんだ?」

「担当授業を終えた先生は自分のお気に入りを指導するか、家に帰るかが殆どだ……俺たちはその中で例外の雑用を押し付けられてる先生を狙う」

「それって何か意味があんの?」


 クルーサは俺の意図が読めてないようだな、全く呑気なヤツめ。


「まぁ見てればわかる……あ、出てきた」


 俺が今回狙いを定めていたのは鉄組の魔導師科を主に教えているバイストン先生。エルフ族で魔法の才が飛び抜けているともっぱらの噂だ、その上エルフ族特有の綺麗な顔立ち、なのに生徒人気が低い。その上この先生はグレイド学園に入ってそんなに長くなく、ベテランの先生から多くの雑用を押し付けられたり、色々とストレスを溜めていると聞いた。


「行くぞ」

「お、おう」

「何が起こるんだろ〜」


 俺たちは角から出てきてバイストン先生の前に立つ。俺より身長は低いのか、俺も高い部類には入らないけど。

 先生は明らかに戸惑っていてこちらを警戒していた。


「先生、少し指導をお願いしたいのですが……お時間頂けませんか?」

「君たちは魔導師科の生徒じゃないよね?」


 やっぱり、俺たちの事をクズ鉄組と知っていない。と言うか知っていてもほかの先生たちと違って明らかに態度を変えないだろう。


「はい、でも自分たちの向上のために先生の力を借りたいんです」

「頼ってくれるのは嬉しいんだけど私にはまだ仕事が残っていてね……残念だけど――」

「なら手伝います! 僕たちにできることなら、その後でもいいので……ダメですか?」


 ロンディとクルーサがまじかコイツみたいな顔で見てくるが知ったことではない。強くなるためなら猫だって虎だって被ってやる。


「わかったよ、今から言うものを訓練棟の備品室から第四修練所に運んでくれないかな? その後なら時間は出来ると思うから」

「わかりました! 行くぞロンディ、クルーサ!」

「雑用って俺ちん大っ嫌いなのに〜」

「今はアッシュを信じてやるしかない、行くぞ」


 俺たちは急いで備品室に向かった。同じ訓練棟の為移動自体はそんなに時間がかからなかったが、問題なのはその量だった。


「本当にこれだけの物を運ぶつもりだったのか? あの先生は」

「そりゃストレスも溜まっちゃうね」

「少しでも恩を売るぞ、さぁ運べ」


 運ぶ物資は修練所の壊れたマネキンの補充や武器類等、中には明らかに一人で運べるものじゃないだろってものもあった。

 幸い俺たちは三人居たから時間はかかりはしたがその日の内に終えた。


「ぜぇ、ぜぇ……こんなの朝のしごき並じゃん」

「なんでも自分の強さに繋がるんだ、文句は言うな」

「で、アッシュはこの後何を頼むつもりなのねん?」


 職員室前でバイストン先生を待っていると、先生もやつれた顔でやってきた。


「あの量をもう終わらせたの?」

「はい……失礼ですけどあれ先生だけじゃ絶対に一日で運べないですよね?」

「まぁね、私は嫌われてるから無理な仕事を押し付けられて怒られるって日々を過ごしてるんだ、でも君たちのおかげで明日は怒られずに済みそうだよ」


 初めてバイストン先生が笑ったような気がした。やっぱり笑うとその綺麗な顔が映える。


「ストレス溜まりますね」

「最近は髪の毛が……ってダメだダメだ生徒になんてことを!」

「バイちん面白いね」

「先生をあだ名で呼ぶなクルーサ」


 何とか打ち解けることはできた。最終段階だ。この要求が通るかどうかでこれからが大きく変わる。


「改めてバイストン先生、お願い聞いて頂けますか?」

「とりあえず話してみて」

「僕たちは魔法に対しての戦いに不慣れです、なので先生には対魔導師の立ち回りを学びたいです」

「うん、私でよければ力になるよ」


 意外な二つ返事、この学園の誰よりもピュアな存在なんだと思えてきた。

 早速俺たちは第五決闘場に向かった。

 決闘場とはただの広い部屋の事を言う、障害物も何も無いただ純粋に戦うための場所。

 しかし第五決闘場は壁や床が脆く割れたら障害になってしまう。そうなったら修理するのは利用したクズ鉄組の生徒だ。


「では、早速やりますか」

「訓練の方法なんですが、僕たちはひたすら避けます、先生は全力で攻撃してください」

「え、それでいいの?」

「おい、さすがにそれは危ねーだろ?」

「何そのドM仕様、嫌だよ?」


 俺以外の三人は驚いた顔をしているがもちろん考えあってのもの。というのは嘘だ、ひたすら魔法に慣れるしかない。


「まずは俺から、この砂時計が落ちきるか、先生の魔法が五回直撃したら終了です」

「わかったよ、手加減はなしで行くよ」

「ストレスの元凶と思って来てください」


 砂時計をロンディに渡し、俺と先生は距離を取った。

 クルーサの合図と同時に砂時計がひっくり返され、先生の魔法が既に目の前に迫っていた。


「え、はやっ!?」

「クソジジイがぁぁああ!! 死ねぇぇぇいい!!」


 どうやら先生のストレスは俺の予想以上に蓄積されていたようで、砂時計が全て落ち切る前に五回連続魔法を当てられた。


 もちろんあとの二人も。

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