第3話 幼なじみとの対面
次の日の朝も俺たちはキツい練習をこなし、自由時間まで耐えた。
殆どの生徒が息を切らしながら第五修練所から出ていく中で俺とロンディ、クルーサの三人はこの場に残った。
「では第一回俺たちの会議をはじめる」
「ヒューヒュードンドン!!」
真面目な雰囲気で始めようと思ったのにクルーサのせいで気が抜けてしまう。
俺とロンディが無言の圧をクルーサに掛けるがどうやら微塵も感じ取ってくれないらしい。
「で、何について話し合うんだ?」
「俺たちの課題だ、例えばそうだな……前回の年末試験で何処が悪かったか話し合おう」
「他者評価による自己分析か、確かに身近な俺たちなら互いの改善点は見つけれるな」
「え、これって本当のことビシビシ言う奴? 俺ちん傷つくの嫌だよぉ」
耳を塞ぐクルーサの両手を無理やり離し、話を続ける。
「じゃまず俺の課題点を教えてくれ」
「アッシュはそうだな、上に拘り過ぎってのがあるな、と言うかセシリアに拘り過ぎだ」
「それは思った、セシリアちゃんに拘るのもいいけど、卒業してからの敵は顔も知らない他人だよ?」
「そ、それはそうだけど……今はそういう事じゃなくて」
「結論、幼なじみに惚れすぎ」
「なっ!? どうしてそうなる!」
一体何を言い出すんだコイツらは、俺がセシリアに惚れてるとかは今関係ない話のはずだ。俺がアイツに惚れてるかどうかでら実力に影響を及ぼす道理がない。
「ということで久しぶりに会いに行けよ、休みの期間中村にも帰ってないんだろ?」
「でも会議はまだ終わって――」
「俺ちんが思うにお二人は変な壁があるだけだよん、てか早くものにしないと
「だからそんなんじゃないって」
無理やり起こされて修練所の外へ連れていかれる。
コイツらが何を企んでいるのかわからないけど、黄金組の校舎に向かっていることだけはわかった。
訓練棟から黄金組の校舎へ担がれながら移動した。
黄金組の生徒は体の見える位置に、学園のシンボルである飛竜のマークを刻んだ金のアクセサリーをつけている。白銀組なら銀の、青銅組なら銅の、そして鉄組はアクセサリーを身につけることが許可されていない。
何もみにつけていない俺たちはこの金色の世界の中で異物同然だった。
「セシリアちゃんは戦士科だったよね」
「黄金組は生徒数が少ないからグループも二つか三つしかない、すぐ見つかるだろ」
「だから見つけなくていいんだよ!」
周りの視線が痛い、早く戻りたい。
「お、あれそうじゃないか?」
急に止まった二人は俺を雑に落とし、物陰から廊下の先を覗き込む。
痛む後頭部をさすりながら俺も一緒に覗き込んだ。
「セシリアは金のネックレスか、一際美人が増すな」
「てかあの男誰? もしかしてもういい感じの男子が!?」
別に大した意味はないが、セシリアと親しい男子がいると聞いてしまうとソワソワしてしまう。学園に入って高圧的な感じになったセシリアと仲良く話せるやつなんているのか疑問だ。
「セシリア、僕への返事を伺おうか?」
「どうしても今日ですか?」
「「「!?!?!?」」」
今なんて言ってた、返事を聞かせろって言ってたのか。なんの返事だ、決闘か? 決闘か、そうだよな決闘に決まってる。
「まさかこんなに積極的な人がいるなんて」
「公衆の面前で堂々なアタック……俺ちんは支持しちゃうなぁ」
「クルーサ、お前は誰の味方なんだ?」
「愛の味方……かな」
「そんなのどうでもいい、二人とも行くぞ」
「行くってどこに?」
「一人で上に行って浮かれてる奴を引きずり下ろすために鍛えるんだよ」
俺に止まってる時間はない、セシリアが恋にうつつを抜かすならそれで結構、俺が後で恥をかかせるだけだ。
「全く、頑固と言うかなんというか」
「待ってよアッちん!」
急いでその場を離れようとした時、俺は急に肩を掴まれた。
「アッシュ?」
振り返るとそこにはセシリアがいた、こんな距離で顔を合わせるのは年末試験の結果発表以来か、そもそもその日以降会ってない。
艶のある長い銀髪からは甘い香りが漂い、切れ長の瞳の中心は淡い青が覗いてくる。小ぶりな唇にすっと通った鼻筋、顔のパーツ全てが彼女を美しく仕立て上げ――ってそんなのはどうでもいいだろ!
「こんな所で何してるの?」
「……お前が黄金組で泣き言言ってないか見に来ただけだよ、楽しそうにしてるじゃないか、あれは未来の旦那様か?」
「ちがっそんなんじゃないわよ! シェルドフは――」
「鉄組がこの
セシリアがシェルドフと呼んだ男が割って入ってきた。馴れ馴れしくセシリアの手なんか握りやがって。思わずその手を睨んでしまうと、セシリアが慌てて手を振りほどきシェルドフの紹介を始めた。
「彼はシェルドフ、あの
「へぇ……グレイド学園最高峰の宝石組、はじめましてアッシュです」
実物は見た事ないが、黄金組のさらに上位数人は学園長から宝石をつけた指輪を貰う、それが宝石組と呼ばれる。その本人が目の前にいるなんてな。
一応礼儀として挨拶の握手を求めると、相手は俺なんて意に介さないといった感じで差し出した手を握り返してくる、その指には確かに赤い宝石がついていた。
「はじめまして、君はセシリアとどういった関係かな?」
「ただの同郷ですよ深い関係じゃありません……シェルドフさんは?」
「僕は彼女を同じパーティーに誘っているところなのさ、彼女は強い、いずれ宝石組に入るのは時間の問題だろう」
少し強く握り返された手を解き、改めてセシリアの方を見る。
「そうか、頑張れよ」
「アッシュ!」
「なんだよ」
「私に文句があるなら言いなさいよ」
「は?」
今にも怒りだして拳を突き出してきそうな形相でセシリアはこちらを見てくる。
今日は喧嘩を売りに来たつもりじゃないのに、それにロンディとクルーサはいつの間にか姿を消してるし。
「ねぇよ」
「嘘よ! 休みの間村にも帰らずに、もう私の顔なんて見たくないのはわかるわ、でも――」
「あーもーうるせぇよ、文句なら今度言ってやる、今月末俺はお前に入れ替え戦を申し込む……逃げるなよ」
まだ言うはずじゃなかったが、こうなってしまった以上は後に引き返せない。俺の覚悟を汲み取ってくれたのか、セシリアはそれ以上言ってこなかった。
「わかったわ、待ってる」
「何やら深い因縁があるようだね」
「あんたまだ居たのか?」
「なっ!?」
セシリアがどう思っていようと俺は俺の思う道を進むだけだ。宝石組、例えセシリアがそこにたどり着こうと俺は必ず食らいついてやる。
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