光剣スタンモード
しばらくしたら意識が回復するはずの聖女は、冒険者ギルドにある宿泊所に寝かせてきた。
そちらの様子はユリーシアが見てくれている。
別行動を取っているアユムは現在、冒険者ギルドから数分歩いたところにある商館にやってきていた。
商人ギルドとも呼ばれるここは世界各国の商人とも繋がりがあって、取り扱っている商品も豊富。
言わばデパートのようなところだ。
さすがに超高層ビルとはいかないが、ちょっとした城のような建物には人がせわしなく出入りしている。
「人の多いところ、苦手なんだよなぁ……」
アユムは尻込みしてしまうが、そうもいかないだろう。
それを聞いていた七面天女が通信を入れてくる。
『艦長アユム、SRSシステムで必要な素材を集めるにはここが最適解だと思われます。艦長の役目を果たしてください』
「わ、わかってるよ」
SRSシステムという、素材さえあれば大抵の物を作れるという赤龍の機能のために頑張るしかない――と、覚悟を決めて中に入った。
ついでに道中で助けた商人から渡された割符も使ってみることにした。
内装は品の良い高級ホテルという印象だ。
エントランスに入ってすぐのところにある受付へ向かう。
「あの、すみません。ここに居る方に用事があってですね……」
「はい。商人ギルド、ネストリンゲン支部へようこそ。アポイントメントはお取りでしょうか?」
そこにいた女性は冒険者ギルドの受付嬢と違って、一片の隙もないようなビジネスライクな笑顔を貼り付けている。
アユムはこういう大人っぽさに慣れていないのでタジタジだ。
頭がフリーズしそうになるも、手に持っていた割符を前に差し出した。
「これを持ってきてくれと言われたのですが……」
「こ、この割符は!? 少々お待ちください!!」
笑顔だった受付嬢は急に焦り、アユムに対して何度も頭を下げだした。
その割符を見た周囲の商人ギルド関係者らしき人間たちもざわめいている。
アユムとしては、何か悪いことをしてしまったのではないかと気が気では無い。
そして、予想通りに警備員たちがやってきた。
装備は冒険者たちの物より質が良さそうで統一されている。
一言でいうと暗殺者のような格好に近い。
明らかに敵意を感じた。
「ちょっ!? 待ってくれ!? 話せばわか――」
警備員たちは問答無用で向かってきた。
建物を血で汚さないためか、刃が付いていない武器を持っている。
棍棒や、刺股、ヌンチャクなどだ。
「これはヤバいな……!」
必死に躱しながら、つい本音を独りごちてしまう。
それを聞いていた七面天女が質問してくる。
『なぜですか? いつも通りに真っ二つにすれば解決ですよ』
「いや、誤解されただけなのに真っ二つは不味いだろ……」
『向こう側の過失なのに。人間というのは面倒ですね』
「お前が割り切りすぎなんだよ」
とはいえ、ここで光剣を使わずに突破するのは難しそうだ。
手持ちの武器が光剣しかないため、必然的に素手になってしまう。
その二つの中間くらいの武器が欲しいとアユムは思案する。
『それなら光剣のスタンモードを使っては如何でしょうか』
「それだ!」
警備員の攻撃を躱していただけのアユムは、光剣を操作してスタンモードにチェンジ。
エーテルの刃は属性を変えて、バチバチとしたスタンガンのような輝きを見せる。
「これなら遠慮せずに!」
金属製の刺股を弾く。
電気が伝わって警備員の一人が悲鳴を上げ、ビクンビクンと倒れた。
警備員たちは警戒するも遅かった。
身体能力の高いアユムが防御に回るのではなく、光剣を使った攻撃に回れば並の人間では対応できない。
一振り、二振り、三振り、四振り、五振り――と、目にも止まらぬ連続攻撃を放つ。
面白いように攻撃が決まり、警備員の全員が痙攣しながら倒れていた。
「ふぅ……。撃退完了」
汗一つかいていないアユムだが、精神的にはかなり疲れた。
敵を一刀両断するより、傷付けないで無力化する方が気を遣うのだ。
立っている体勢から倒れただけでも、下手をすると頭を強打してしまう可能性すらある。
「素晴らしい……素晴らしいですよ……」
上の階からパチパチと拍手が聞こえてきた。
それはあの時に助けた商人だった。
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