果たして殺戮オランウータンは犯人足りうるのか
めんたい宗介
第1話
「幽霊船がでた」
この海域では年に数回そういうことが起こる。交易が盛んな島国へ向かった、あるいはその帰りで燃料や整備をケチった商船が難破してどうにも立ち行かなくなりみんな仲良く餓死溺死、ないし海賊の餌食になって海を漂うのだ。
通報があったのは5時間前、といっても最後にそこへ海上パトロールに行ったのはもう2週間前になるが。海の平和を守るという立派な使命を持った平和な間は金食い虫の部署は御上から燃料費をケチられていた。ここにその話が届くということは海賊どもが簡単に持ち帰れない大きな貨物船、まあ大抵一度は荒らされてもぬけの殻になっているだろうそれは実際に見に行くと想像と少し違うものだった。
拡声器で一応の呼びかけを行い返事がないことを確認して甲板へ乗り移るとそこは意外にも綺麗だった。ほんの数日前まで船員は無事だったのだろう。そうしてハッチを見つけ血の匂いがする船内へゆくと、そこは争った形跡こそあれど荷物は食糧が一つも残っていないこと以外特別変わった様子もなく手つかずで残されていた。海賊によって略奪されたのではなく乗組員は船内で何かと戦ったということだ。そしてそれが何だったのかは貨物室へ行くとすぐに分かった。
血まみれのオランウータンが檻の中で寝ていた
船員の死体はどれも手足を食いちぎられていた。乗員名簿と死体の着衣を確認しやはりオランウータンによる殺戮が行われていたことを確信する。
さてこの殺戮オランウータンがどこの誰のものか、それはすぐに分かった。檻の前にあった死体だ。乗員名簿に一人の乗客、あるサーカス団の一員でこのオランウータンの調教師が一緒に乗船していたのだ。やはり左手の指がない死体で見つかっているのだが。また調教師の服のポケットに使いかけの麻酔の瓶、両手首には手で掴まれたようなアザがあり左手には注射の痕があった。
私の推理はこうだ。
「難破した船で数日前、ついに食糧が底をつきてしまう。船員の頼みで調教師が持っていた麻酔でオランウータンを眠らせてから肉にするつもりだったが暴れられ失敗、指を食いちぎられ人の肉の味を知ったオランウータンは餌を求め次々と船員を襲った」
船員たちの死体が主に手を欠損しているのは最初に食べたのが調教師の指の肉だったからだろう。その調教師はショック死ではなく麻酔による中毒死だった。アザの位置から考えて調教師は腕を掴まれて注射を持っていない、手の空いた左指を食いちぎられてしまった。それは相当な痛みだっただろう。パニックになって麻酔を何度も打ちそのまま眠るように死んでしまったに違いない。
こうして殺戮オランウータンは不幸な事故の犯人として殺処分されることとなった。
ここで残念なお知らせがある。彼は推理を間違えてしまった。なので今から真実をお話ししよう。
オランウータンはなぜ船員を皆殺しにしたのか。そもそもなぜ殺戮オランウータンが存在するのか。始めから手のつけられない猛獣だったのか。いや違う。
殺戮オランウータンとして船内で調教されたのだ
これは事故ではなく事件だ。そして犯人は調教師である。調教師はオランウータンを使い船員を皆殺しにしたのだ。
船は偶発的な事故で動力を破損し海を漂っていた。難破した船内の空気は重く、ひりついていた。そんな中数少ない娯楽が用意された。オランウータンは船内で1日1回「ささやかなお礼」と題して芸を披露していたのだ。そして芸が終わるとオランウータンは1本の指を与えられていた。勿論調教師の指だ。調教師は指を切り落とすたび麻酔で誤魔化しながらそれを5日間行った。そして日毎に芸は
全ての準備を終えた調教師は檻の前で最後の注射を打ちひとりで息を引き取った。あとは先の通り、腹をすかせた殺戮オランウータンは船員を餌にしていった。
以上がこの事件の真実である。果たして殺戮オランウータンは大量殺人の
果たして殺戮オランウータンは犯人足りうるのか めんたい宗介 @coscorpimon
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