閑話 好きな男の子2

 ……え、今私の名前言った……?


 私の名前知ってもらえてるんだ……。


 ……いや、そんなことはいまはどうでもいいんです、謝らなければ。


「私こそごめんなさい……」


 彼の顔を覗き込むと、私の頭上を見ているようです。

 ……はっ!? もしかして走ってきたから髪ボサボサですかね……?



「15……」

「はい?」


 ……何か言ったようですがよく聞こえませんでした。


「いや、なんでもない……あっ……」


 ……?


 彼がじっと私を見つめている。

 汗だくだからあまりみられたくないんですけど……


 恥ずかしいと思っていると、私は異変に気づきました。


 つー……

 涙が静かに自分の頬を流れていきました。


 私……彼に会えてホッとしてるんだ……



 ……ってそうじゃない!! は、恥ずかしい!


「えっ……あぁ、すいません! お恥ずかしい姿を……」


「ご、ごめん! これでも使って! だ、大丈夫、まだ使ってないよ!」


 と、タオルを渡された。

 タオルには可愛らしいフォントでYuukiと書かれていて、可愛らしい蝶々マークが端にあった。


 ……昔と変わってないですね……


 私の中でいろんな思いが込み上げてくる。

 さっきあった怖い事、赤穂くんに会えた喜び

 そして5年ぶりのまともな会話……


 おまけにタオルからは懐かしい匂いが……


 より泣くのには十分な要素でした。

 泣いていた時の記憶が曖昧ですが、とりあえず近所迷惑にならないように静かに泣こうと努めたことは覚えています。


「もう、大丈夫か?」

「ご心配おかけしました。そしてありがとうございます……えっと……」


 ……冷静に考えてみれば、名前を言っていいのでしょうか。

 彼方からしてみればおそらく初対面と思っているはず、だからといって、「私は小学6年生の時に会った姫野です」って言っても、覚えてないだろうし……


『もう、高校2年生だよ! やばいよ! 勇気くん誰かに取られちゃうよ! 花音!』


 ……親友の言葉が脳裏をよぎる。

 ここで、踏み込まなければもう一生話せないかもしれない。


「……赤穂勇気くんですね」

「え、どうして……」


 私は笑いました。

 出会った時のことを思い出したから……


 ……同じリアクション、やっぱり赤穂くんは赤穂くんだなって

「ふふっ内緒です!」


 昔のことを思い出してるとまた泣きたくなってきますね……流石にもう恥ずかしいところを見られるのは……


「ごめんなさい、時間取らせて。じゃあ、また明日ですね」

「あ、ああ!」


 つい、明日と言ってしまいました。

 ……いや、逆にこれをチャンスにすれば……!



         ***


 それから、赤穂くんのクラスに毎日顔を出しました。

 会話が弾まずにいましたが、私の秘密を昼休みに話してから、関係は良い方向に変わりました。


(今日は赤穂君とデ、デート……友達の誕生日プレゼントを選ぶとはいえ、わ、我ながら大胆な策に出ましたね……)


「よし……頑張ろう!」

「ふふふ〜行ってらっしゃ〜い!」

「ありがとう美海ちゃん! い、行ってくるね……!」

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