32話 勘違いって怖いよね
その男は政庁都市に来た時から機嫌が悪かった。
ギルドで目をかけていた新人たちが、引退すると言ったからだ。
べつに引退するのは構わない。危険な仕事だし、才能がモノをいう世界でもある。十数年必死に努力しても、ぽっと出の新人に追い越されることだってあるのだから。
だがその新人たちの引退する理由は気に入らなかった。
きっかけは守護都市のギルドメンバーに指導をしてもらった事らしい。
それが理由なら、男は我慢が出来た。
あっちも仕事で技や力を見せる。それを見て大きな差を感じて、諦めてしまったのならそれは良い。
いや良くは無いが、それならば仕方がない。
しかしその新人たちが諦めたのは、割って入ってきた子供の才能の大きさを目の当たりにしたからだという。
話すのも嫌そうな新人たちから詳細は聞けなかったが、どうやらそういう事らしかった。
気に入らない。ひどく気に入らない。
遊び半分で他人の仕事に首を突っ込み、自分たちハンターズギルドの狩人を馬鹿にするように力と才能を見せつける守護都市の戦士が。
強くなって見返してやれと、そう説得しても無駄だった。
諦めきった眼差しの新人たちは、今は心底嫌がっていた家業の手伝いをやって生活しているらしい。
新人たちが出たがっていた皇剣武闘祭――新人たちが出る予定だったのはその新人戦だが――に、男はやって来た。
かろうじてハンターズギルドの上級に入る男に、優勝の見込みは無い。
さらに男は対魔物戦で壁になる事に特化しているので、単独での対人戦闘は不得手にあたる。
だから所属する都市のギルドから推薦も受けられなかった。
それでも意地を見せてやると、やって来た。
皇剣武闘祭に出場するにはいくつか手順がある。
守護都市で上級になっていれば無条件にエントリーできるが、それ以外の者は所属ギルドからの推薦を受けるか、公式の大会で結果を出さなければならない。
そうしてエントリーできるのが先の長い予選であり、本選までは遠い遠い道のりとなる。
ギルドからの推薦を受けられなかった男は、まずエントリー資格を得るため小さなイベント大会に出ることにした。
その結果は、準優勝。
もちろん悪い結果では無い。
もう一度似たような大会でベストスリーに入れば、エントリー資格は手に入る。
だが決勝戦では同じようなハンターズギルドの戦士を相手に敗れ、優勝を逃してしまった。
自分がハンターの中でも強者ではないことを突きつけられてひどく悔しかったし、途中で守護都市の子供であろう観客から受けたヤジが、一層男を苛立たせていた。
ヤジを飛ばしていた子供も、その隣にいた兄らしき子供も、男と比べてもそう遜色ない魔力を持っているように見えたからだ。
唯一、二人が連れている幼い子供だけは年相応に何の魔力を感じさせなかったが、こんな子供たちを見たから、こんな子供たちに馬鹿にされたから、
******
「あいつ見かけ倒しだな。でけえだけでいいようにやられてさ。俺なら最後は振りかぶらずに打ち込むぜ。あんなん大振りじゃあ避けられて当然だっつーの」
きっかけはヤジを飛ばしていた子供、カインのその言葉がきっかけだった。
別にカインも男に喧嘩を売るために言っていた訳ではない。
ラーメン屋を探す傍ら、決勝についての愚痴、ひいては自分ならどう戦うかの検証をしていた。一緒に歩くアベルも、後者の理由を察していたから特に咎めずに聞き流していた。
それを偶然、同じく昼食を求めて屋台を見て回っていた男が聞いていただけだった。
男は無言でカインの肩を掴み、強引に振り向かせてその顔を殴った。
とはいえ相手は子供だ。
本気で殴ったわけではない。
少しビビらせてやる。そんなつもりで軽く殴った。
「いってーなっ。いきなりなにしやがる!」
だが男の思惑に反して、殴られたカインは萎縮することなく声を荒げて男に跳びかかった。
隣にいたアベルは一瞬面食らったものの、男の顔を見て状況を察して、傍観することに決めた。
これは弟が悪いよなー、と思いながら。
十歳の子供と、ギルド所属と明らかにわかる武装した屈強な大人が殴り合いの喧嘩を始める。
平和な政庁都市はにわかに騒然となるが、喧嘩が日常茶飯事の守護都市の人間が多く来ており、また皇剣武闘祭目当てで集まった荒くれ者も多かったため、すぐに催し物の感覚で盛り上がり始めた。
守護都市では恒例の賭けも始まり、アベルは弟の勝利に硬貨一枚賭けた。
セージが見立てたように、カインと男の地力でははっきりと男に軍配が上がる。
さらにそこへ男が持つ実戦経験の差を加えれば、カインに勝ち目が無いと判断するのは当然だった。
だがセージはカインのことを少しばかり過小評価していた。
アベルも認めるカインの才能とは、より幼い時分から英雄ジオレインや仮神の肉体を秘めたセージの影響を受けた事によって得た魔力感知の高さと、それによって得られた魔力操作技術だ。
そんなカインにとって幸運だったのは、常人よりも大きな才能を授かりながらも、それが霞むような人物に囲まれていることだった。
ジオという圧倒的な強者である父や、強い精神力を持つ実兄のアベル、そして才気あふれる義弟のセージ。
道場で手合わせをしてアベルの同年代に勝つことはあったが、それに慢心できないだけの敗北をアベルやセージから受け取っている。
そしてそこから生まれた表には出ない卑屈さや臆病な心こそがカインの本当の才能であり、それが男との喧嘩を拮抗したものに変えていた。
男の拳が空を切る。
最初は手加減をしていた。
ついカッとなって殴ってしまったが、根っこの部分で男は気立ての良い性格で、年端もいかない子供を改めて殴るのには抵抗があった。
なるべく怪我をさせないようにと、気を配った。
それが間違いだと知らされるのに、時間はかからなかった。
男の拳の外を回り込んで、カインの拳が男の脇を打つ。走る痛みをこらえて男はカインを蹴り飛ばそうとするが、やはり空を切る。
カインはすでに後ろに下がっていた。
カインは男の試合を三度見ている。
そのすべての試合で、自分ならどう戦うかという考察をしていた。
こうなる事を予測していた訳ではない。
ただ弱い自分は頭を使って工夫しないとダメなんだと身に染みて知っていたから、
男はフェイントや横の動きを苦手にしている。
決勝での戦いぶりを思い出しながら、カインは的確に男の嫌がる戦法をとっていた。
カインは頭を小刻みに振り、ステップを踏む。初めてセージにやられたときは馬鹿にしたが、実際にやられると対処が難しかった。
的を絞らせず、タイミングをずらした男の拳は当然カインには当たらず、踏み込んでもう一撃を入れる。
そしてすぐにその場から離れる。
腕力も体格も男が上だ。体力だってまだまだ残っている。捕まってしまえばその時点で負けだとわかっているから、自分は簡単に負ける弱者だと知っているから、カインの立ち回りは慎重で丁寧だった。
そうして同じような攻防を続け、じりじりと追い詰められていく男の精神は発狂寸前だった。
決勝で負けたダメージが残っている。
今は本調子からは程遠い。
魔力だって十分に回復していない。
自分を慰めるような言葉を浮かべながらも、このままだと負けてしまうことをはっきり感じ取っていた。
そしてなにより――
「おいおいどうした子供相手に情けないぞ」
「ハンターなんてそんなもんか」
「さっさとケリつけてやれよ小僧、おじちゃんが泣いちゃうぞ」
――飛ばされてくるヤジが、男の精神を苛む。
こんなはずではなかった。
俺たちハンターだって決して弱くは無いんだと証明するために、自分たちだって命がけでこの国を守っているんだという意地を賭けて、この政庁都市までやって来た。
だがその結果は、守護都市の生意気な子供に良いようにやられるという悲惨なものだった。
この子が特別な天才だというならそれも仕方ない。
だがこの子を見守るアベルからは、はっきりとそれ以上に強い力を感じていた。
それでいてこの喧嘩に手出しするそぶりを見せていない。男など手を出す価値すらないと、やはり年端もいかない少年に思われているのだ。
いくつかは、男の勘違いである。
男が冷静になって戦えば、消耗しダメージを受けた現状でもカインと同等以上に戦えた。
ただ最初に浮き足立ってから、気持ちを立て直すことが出来なかった。あるいはそれを許されなかった。
アベルが参加しないのはあくまで一対一の喧嘩に割って入るのが無粋であると感じているからだ。
その結果、口の過ぎた弟が痛めつけられるのも教育という意味では多少は仕方がないと思っているからだった。
だが男はその勘違いに気付くことなく、最後の手段に踏み切った。
しゃらんと。
金属のはしる音が鳴る。
その場にいた誰もが目を見開いた。
男は腰に差していた剣を抜いた。
洒落にならないだろうと、観客の多くは呆れ半分に見ていた。誰か止めないの、とも。
負けるのに耐えられない男が、悪あがきで武器を抜いたのだと、多くは解っていた。
だがそんな多くと違う反応をしたものいる。
「ちっ」
カインだ。慎重に、男と武器を見定める。
男の武器はイベント大会での対人戦で使用することもを想定して刃引きしたものだったが、カインにそれはわからなかった。
そして悔しそうに舌打ちをして、口を開いた。
「……俺が悪かった。言い過ぎたのは謝るから、剣をなおしてくれ」
守護都市において武器を使った喧嘩はご法度だ。
だが決してないわけではない。
喧嘩で武器を抜くという事には重い意味があるために、軽々しく武器を抜くものは軽蔑されるのだ。
カインは男を見て、冗談では無く真剣だと思った。
だから素直に謝ったし、負けを認めた。
観客からはブーイングが起きる。
はたから見れば、負けそうになった大人が武器をちらつかせて子供に無理やり負けを認めさせたようなものだし、実際のところ男の心情はそんなものだった。
「ふざけんなっ。ここまできてそんな言葉でやめっかよ! テメエも得物もってこいや!」
観客のブーイングで、引くに引けなくなった男がそう口にする。
使いなと、観客の一人だった青年――守護都市のギルドメンバーだった――が、カインに剣を手渡す。
守護都市の喧嘩では、死んでも守らなければならない誇りを賭けるときにのみ、武器を抜く。
抜いた人間は殺されても文句は言えないし、殺した相手が罪に問われることは無い。
だがそれに付き合うかどうかは、抜かれた側に決める権利がある。
カインははっきりと、こんな喧嘩に命を懸けるつもりはないと断り、謝罪もした。
それでも剣を持てと強要する男は、守護都市で生まれ育ったアベルやカインにとって、ひどくみっともなく映った。
「僕が
それまで傍観に徹していたアベルも、見過ごせずに出てきた。
俺の喧嘩だと、反発するカインを宥めて、その手の剣を奪い取った。
守護都市のルールには続きがある。
剣を抜いたものに応じて立ち合うなら、そのときは必ず止めを刺さなければならないというものだ。
勝って情けをかけるのは、相手に対する最大の侮辱として忌避されている。
こんなバカな喧嘩で弟の手を汚させるわけにはいかないし、万が一にも殺されたくはない。
本音を言えばこの場から逃げ出したかったが、観客の雰囲気がそれを許さなかった。
突然のアベルとの交代を、観客はむしろ好意的に受け止めた。
年齢が上であることに加え背筋の伸びた立ち姿から、巧みな立ち回りを見せたカインよりも実力者である自信を感じ取った。
観客はすでにカインと男の勝負よりも、みっともない男がどうやって負けるか、どう痛めつけられるかに関心を寄せていた。
男としてはたまったものではない。
魔力感知を持ちある程度の実戦経験を積めば、相手の実力をおおよそ把握できる。それがハンターの常識だ。
男は肌でアベルが自分と同等に近い魔力――ひいては、高い身体能力――を持つと実感していたし、年齢的に戦闘技術もカインを超えていることは容易く想像できた。
いっそ泣き出してしまいたいような状況で、さっさとぶちのめしてくれというのが本音だった。
アベルからすれば、巧みに魔力を抑え込んでいるジオやセージ、あるいは守護都市の実力者を見知っているので、それほど楽観はしていなかった。
むしろ初めての殺し合いを前に暗鬱とした緊張感と、死ぬかもしれないという恐怖に板挟みになっていて、身体が重くなっていた。
カインに剣を渡した青年が、そんなアベルと男の間に割って入る。
「俺が立ち会い人をしよう」
そう言って、二人にギルドカードを見せ、二人がそろって驚いた。
守護都市の上級下位。
強者が集う守護都市の中でも極限られた、本物の実力者だった。
「お願いします」
アベルが言った。
ギルドの上級メンバーが正式に立ち会ってくれるのなら、これは私闘では無く名誉を賭けた決闘としてはっきりと認められる。
いまいちどんな名誉が賭けられているのか、アベルにはわからなかったが、これから行う殺人が罪に問われることが無いと保証されれば多少は気が楽になる。
一方の男は混乱が増す。
この戦いで自分とアベルの生死が決められようとしているとは、まるで想像していないのだ。だがそれでも立ち会いの男とアベルの雰囲気から、剣を抜いたことでただの喧嘩ではすまなくなってしまったと感じつつあった。
だが今更、剣を納めて謝罪をするだけの度量は男には無かった。
なるようになれと構えた剣に力を入れ、アベルもそれに応えて剣を構える。
ヤジを飛ばしていた観客も息をのみ、緊張感は飽和に達する。
そして次の瞬間、その緊張ははじけ飛ぶ。
「ちょっと待ったコールっ!」
おかしな表現で、割って入る子供がいたからだ。
立ち会いの青年が即座に取り押さえようとするが、それを巧みに避けてその子供は二人の間に割って入る。
「くそっ、てめえすばっしっこいな」
「ちょっと待った! 決闘の邪魔をする気はないっていうか、この決闘は無効です!」
「は?」
疑問符を浮かべたのは男だ。決闘という言葉を使われたことに、疑問を抱いた。
「ここ守護都市じゃないです。武器を抜いたらどっちかが死ぬまでの決闘申込みなのは守護都市ルールです。ローカルルールです。そっちの人ハンターだから、知らないはずですよ」
立ち会い人の青年から余裕なく逃げまどいながら、必死にその子供――セージは大声で言葉を並べた。
それでざわついたのは観客だ。
観客の多くはそのルールを知らなかったし、そもそもこの喧嘩を何かのイベントのように思っていた。
人死にが出るところだったということに、その言葉に気付いたのだった。
立ち会い人の青年はセージを追うのを止め、舌打ちしてこんなやつ殺しちまえばいいのにと嘯いた。
「やっぱり知ってて止めなかったんですね」
「まあな。あー、白けちまった。おい、テメエも剣おさめろよ。刃引きしてあろうがそんなもん人に向けた時点で、殺されても文句は言えねえぞ」
セージの非難もどこ吹く風で、立ち会い人の青年はそう言った。
言われた男も、自分よりはるかに格上であろう相手からの言葉に、素直に従おうとした。
「兄さんたちも早く離れよう。ちょっと雰囲気悪いよ、ここ」
「そうだね。早いけど、もう家に帰ろうか、
アベルが剣を返しながら、セージにそう言った。
剣を納めかけた男の動きが止まる。
徹底的に打ちのめされることもなく、場の流れで一時的に小さくなっていた男の火が、再び燃え上がる。
男がいた都市の、農業都市の新人たちが言っていた名前はなんだったか。
上級であるはずの立ち会い人の男から逃げたあの動きはどうだったか。
その際に、僅かに漏れ感じ取った魔力の濃密さはどうだったか。
その子供は、セージは言った。
ハンターだから知らないと。そう馬鹿にした。決闘は無効だと。お前がハンターだから、見逃してあげると。
そう男は、馬鹿にされた。
「うぁぁぁああああっっっ!!!!」
男の身体が無意識に動く。
背を向けていたセージに向かって、その脳天へ向かって、思い切り剣を叩きつけた。
その場に空気を切り裂くような悲鳴がこだました。いまだに残っていた野次馬たちのものだった。
男は自分のやったことが理解できず、目を開けたまま僅かな間、気を失っていた。
……俺は、今、何をした。
自分のしたことが信じられず、それでも目をそらせずに、恐る恐る正面に意識を戻す。
そこに脳天をかち割られた子供は、いなかった。
セージは五体満足で、そこにいた。
何故と、男が思う。
ふと自分の持つ剣が頼りなく、軽く感じられた。
見れば刀身が途中からポッキリ折れ、その剣先は失われていた。
どこに行ったという答えは、考えるよりも早く目の前に落ちてきた。
くるくると回転しながら落ちてくる鈍い色のナニカ。
それをキャッチしたのはセージだ。
それが自分の剣の折れた先だと気が付いて、男は初めて目の前の少年に恐怖を覚えた。
本当は、わかっていた。
剣を振り下ろした一瞬、頭が真っ白になったのは、罪悪感で記憶が飛んだのではない。
背後からの本気の奇襲。振り下ろしの一撃を無手で容易く防がれ、男は武器を失った。
そんな目の前で起きたことが信じられず、男の意識が現実から逃げ出したのだった。
忘我の様子で震える男は、唐突に横合いから殴り倒された。
「うちの弟に何てことしやがる!」
アベルだった。
鬼気迫る表情で男を睨んでいて、男はしりもちをついたまま後ずさった。
アベルと、そしてその後ろで冷たい目をしている子供から少しでも距離をとりたかった。
「何ともなかったんだから別にいいよ。警備の人も来たみたいだし、あとは任せてさっさと行こう」
セージは男から視線を切って、アベルとカインを連れて去って行った。背中を向けて放り投げられた、折れた剣の先が男のそばに落ちた。
男の口から、乾いた笑いが漏れる。
殺そうとしたのに、まるで興味を示されなかった。
最後に男を見た冷たい目が男の心に焼き付く。
お前には何も出来なかったと、お前には何の価値もないと、感情のない冷たい目が語っていた。
やって来た警邏騎士に取り押さえられながら、男は涙を流した。
◆◆◆◆◆◆
いや怖かった。いきなりキレて襲い掛かってくるんだもん。ちょーびっくりしたよ。
「すごかったねセージ。あれどうやったの?」
「あれ? ああ、闘魔術だよ。手刀に衝裂斬の魔力と風と土の混成魔法こめたんだ。地剣裂波って名前だったかな。とっさだったから間に合ってよかったよ」
魔力感知で一応は動向に注意を向けてはいたが、いきなり斬りかかってくるとは思わなかった。
立ち会い人をしてた兄ちゃんは面白がって止めやしないし。今度ギルドで会ったら文句言ってやろう。
あの人とは話したことはありませんが、一応は顔見知りです。
「つーか、なんであいつに何にもしなかったんだよ。いきなり襲い掛かってきたんだから、お前も一発ぐらいぶん殴っとけばいいのに」
「えー、やだよ。ああいう危ない人とは関わりたくないもん」
あの手の悪い意味でクレイジーなのには目を合わせない、近づかないが原則だ。何してくるかわからないし。
「それに警備の人が来てたって、言ったでしょ。あの場に残ってると事情聴取とかで面倒臭かったよ。僕は面倒なのは嫌でござる。働きたくないでござる」
「最近よくそれ言ってるけど、面白くないよ」
ひどっ。兄さんひどい。
「ははっ、でも面白かったな。なあ、どうにかして俺たちも大会に出られないかな。けっこう良い所まで行けると思うぜ」
「調子に乗らない。今回は相手が疲れてたし、子供だと思って手を抜いてたから上手くいっただけだよ」
「そうそう。それに今回みたいにおかしな人に喧嘩吹っかけられたりするのも怖いしね。体を動かすのは道場だけで十分だよ」
兄さんと私が断ると、次兄さんは頬を膨らませて不満さを表す。
「けっ、わかったよ。二人して意気地がねえの。じゃあ帰ったら相手してくれよ。なんか中途半端だったからさ」
「「嫌でござる。働きたくないでござる」」
「仲良いなお前らっ!!」
そのまま仲良く三人で屋台を回って昼食とし、ついでに買い物をして家路についた。
この時は、予想もしてなかったんだ。
楽しく遊んでいたこのハッピーな気持ちを、どん底まで突き落とされるなんて。
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