第28話 あの娘もここに呼びたい!

「あれ?」


 何で消えた?

 ……ってか、いつも出たり消えたりしてるか。

 それにしても、こんな時に……


「どういうことだ?」


 シロウの奴も首を傾げている。

 僕が真の勇者か偽物の勇者か判断がつかないでいるみたいだ。


「ヒロアキ、お前、一体何者なんだ?」


 逆にこっちが訊きたいよ!

 出たり消えたり。

 いい加減にしてくれ!

 出るならずっと出る!

 出ないならずっと出ない!

 中途半端だから、こんな目に合うんだ!


「ヒロアキは真の勇者じゃないんです。きっと……」


 シロウに向かってサクラコが言う。


「だから、彼を解放して下さい」


 縛られたままのサクラコは訴える。

 僕のために……

 真の勇者でもない僕のために。


「だめだ。ヒロアキには死んでもらう」

「えっ……!」


 シロウの冷たい一言に、サクラコが息を呑む。


「こいつにはもう価値は無い。他をあたるまでだ。この世界にいるあと99人の勇者と出会い、真の勇者として取り立てる。従って……」


 サクラコを衛兵に預けたシロウが、ゆっくりと階段を下りて来る。

 僕の目の前まで、あと少し。

 だめだ、やられる。

 こいつは、利用価値のない僕を許さない。

 こいつは、歯向かった僕を許さない。


「シィダ! 僕なんかほっといて逃げろー!」


 せめて立ち向かって死ぬ!

 僕は鋼の剣を手にし、シロウに切り掛かった。

 あざよ、もう一度光れ!



 結局、僕は再び貧乏領地に戻された。

 殺されなかっただけマシかって?

 確かに。

 こうやって生きてるだけでも儲けものかもしれない。

 じゃ、何で僕がシロウに殺されなかったか……


「ヒロアキは我々が匙を投げた貧乏領地を再興させたのです。それだけでも生かしておく価値があるのでは」


 僕とシロウの間に割って入ったのは、ラインハルホの財務大臣だった。

 禿げ頭で太った彼は、汗をかきながら僕の価値を訴えた。


「シロウ様、分かって下さい。ラインハルホは財政難なのです。このままでは兵を確保出来ず他国に攻められるでしょう」


 ……という訳で、僕は再びこの貧乏領地を任された。


「良かったね! ヒロアキ」


 シィダが僕の背中に飛びついてくる。

 甘い匂いと共に、肩甲骨の辺りに柔らかい感触がある。


「こらこら」

「だって! シィダ嬉しいんだもん! こうして一緒にまた暮らせるから!」


 キャハキャハと、はしゃぎながら胸をぐいぐい背中に押し付けて来る。

 傍から見れば、僕がシィダをおんぶしてるみたいに見える。


「それにしても」


 シィダにはすまないが、僕はサクラコのことを思い出していた。

 彼女は今も囚われの身だ。

 きっと彼女は僕が謀反を起こさないための、人質としてあのままなのだ。


「彼女をここに呼べないだろうか……」


つづく

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