第28話 あの娘もここに呼びたい!
「あれ?」
何で消えた?
……ってか、いつも出たり消えたりしてるか。
それにしても、こんな時に……
「どういうことだ?」
シロウの奴も首を傾げている。
僕が真の勇者か偽物の勇者か判断がつかないでいるみたいだ。
「ヒロアキ、お前、一体何者なんだ?」
逆にこっちが訊きたいよ!
出たり消えたり。
いい加減にしてくれ!
出るならずっと出る!
出ないならずっと出ない!
中途半端だから、こんな目に合うんだ!
「ヒロアキは真の勇者じゃないんです。きっと……」
シロウに向かってサクラコが言う。
「だから、彼を解放して下さい」
縛られたままのサクラコは訴える。
僕のために……
真の勇者でもない僕のために。
「だめだ。ヒロアキには死んでもらう」
「えっ……!」
シロウの冷たい一言に、サクラコが息を呑む。
「こいつにはもう価値は無い。他をあたるまでだ。この世界にいるあと99人の勇者と出会い、真の勇者として取り立てる。従って……」
サクラコを衛兵に預けたシロウが、ゆっくりと階段を下りて来る。
僕の目の前まで、あと少し。
だめだ、やられる。
こいつは、利用価値のない僕を許さない。
こいつは、歯向かった僕を許さない。
「シィダ! 僕なんかほっといて逃げろー!」
せめて立ち向かって死ぬ!
僕は鋼の剣を手にし、シロウに切り掛かった。
あざよ、もう一度光れ!
◇
結局、僕は再び貧乏領地に戻された。
殺されなかっただけマシかって?
確かに。
こうやって生きてるだけでも儲けものかもしれない。
じゃ、何で僕がシロウに殺されなかったか……
「ヒロアキは我々が匙を投げた貧乏領地を再興させたのです。それだけでも生かしておく価値があるのでは」
僕とシロウの間に割って入ったのは、ラインハルホの財務大臣だった。
禿げ頭で太った彼は、汗をかきながら僕の価値を訴えた。
「シロウ様、分かって下さい。ラインハルホは財政難なのです。このままでは兵を確保出来ず他国に攻められるでしょう」
……という訳で、僕は再びこの貧乏領地を任された。
「良かったね! ヒロアキ」
シィダが僕の背中に飛びついてくる。
甘い匂いと共に、肩甲骨の辺りに柔らかい感触がある。
「こらこら」
「だって! シィダ嬉しいんだもん! こうして一緒にまた暮らせるから!」
キャハキャハと、はしゃぎながら胸をぐいぐい背中に押し付けて来る。
傍から見れば、僕がシィダをおんぶしてるみたいに見える。
「それにしても」
シィダにはすまないが、僕はサクラコのことを思い出していた。
彼女は今も囚われの身だ。
きっと彼女は僕が謀反を起こさないための、人質としてあのままなのだ。
「彼女をここに呼べないだろうか……」
つづく
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