錬金術師の日常
だっち
第1話
リースレッド王国の中心に位置する王都、そこには錬金ギルドの本部があった。
時刻は昼過ぎ、錬金ギルドの隣に併設されている職員寮に一人の青年が惰眠を貪っていた。
職員寮には彼以外の者は居らず、彼の眠りを妨げる者は居ない。
「アルトさん! いつまで寝てるんですかー!」
……事もなく、当然ながらお呼びがあった。
職務中にサボるならまだしも、そもそも彼は朝からサボっていた。
部屋の鍵が開けられ、中に入ってきたのはうさ耳が特徴的な女性であった。
「アルトさん! もうお昼ですよ!」
「んぅ…あと、8時間…」
「勤務開始時間とっくに過ぎてます! ギルマスもカンカンですよ!」
「リーファが…? う〜ん。」
「良いからおきてくーだーさーいー!」
掛けていた布団を強引にめくりあげると、パンツ一丁のアルトの姿が。
うさ耳の女性は瞬く間に顔を赤くし、視線を逸らした。
「きゃー、ノエルさんのえっちー。」
「ふ、ふ、服をきてくだしゃい!」
「噛みすぎでしょ。 ……はぁ、しょうがないなぁ。」
ゆっくりと体を起こし、服を着て身なりを整える。
その間もノエルと呼ばれた女性は、チラチラと盗み見しており、アルトはその視線に気付いていた。
「ノエルさぁ、見たいならもっと見ても良いんだよ?」
「み、見てません! えぇ、全く、これっぽっちも!」
体を大きく使って全力で否定するノエルが面白く、こっそり笑っているとノエルがジト目でアルトを見ていた。
「アルトさん、からかいましたね。」
「まさか、ノエルなら別に見られても良かったからね。」
「もー! アルトさんは顔だけは良いんですから、本当にそういうのやめてください! …期待しちゃうじゃないですか。」
「ん? 最後なんて?」
「な、なんでもないです! それより早く行きますよ!」
ノエルはアルトの腕を掴み走り出した。
実際、数少ない職員が半日も抜ければ業務は滞り仕事だけが増えていく。
錬金ギルドの作業スペースには大量の注文書が張り出されていた。
「ん? 何この量おかしくない?」
「ノエルさんが夢の世界に居る間に入ってきたんですよ。 最近は森の様子もおかしいみたいですし、何かあるかもしれませんね。」
「ふ〜ん。 でもさぁ、これくらいの量ならギルマス一人でどうにかなるじゃん。」
「おいおい、私に全て押し付けようなんて酷いじゃないか。 アル君がそんな冷たい奴だったなんて、しくしく。」
どこからとなく、アルトの後ろから現れた女性は9本のしっぽをハンカチ代わりに使い、わざとらしく泣き真似をしていた。
「あ、ギルマス!」
「ノエルも連れてきてくれてありがとう、業務に戻っていいわよ。」
「はい! アルトさん、サボらずに頑張ってくださいね!」
ノエルは可愛らしいうさ耳を揺らしながら受付へと戻る。
そして、こっそりと抜け出そうとしていたアルトを尻尾で確保するギルマスに、遂にアルトは観念した。
「アル君は中級ポーションと上級ポーションを各200本お願いね〜。私は下級ポーションを400本作るから。」
「えぇ……作る本数一緒でも、手間が違うじゃんかぁ。」
「貴方が朝から来ていたら逆だったかもね〜♪」
「ははっ、そりゃ無理な相談だな。」
「まっ、貴方にとってはそう大して変わらないでしょ。なんせ貴方は……
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