神と悪魔と美少女と

覚えやすい名前

第1話 吸血セクシャル

「血を、頂いても、いいですか」

 折れかけの翼を携えて光を照り返さない瞳は僕を見据える。

目の前の小学生くらいの彼女は八重歯をむき出しにしてじりじりと近づいてくる

明らかに人間ではない、六感がそう告げる、断ったらどうなるか見当もつかない。

だが正直血を吸われるのは勘弁なので手に持っていたエナジードリンクを渡してみた。

 どうやら彼女はエナドリを初めて見たらしいのでしばらく見つめたり匂いを嗅いだりしていた。

「・・・」(ゴクゴク)

 顔面にパンチが飛んできたのはその3秒後だった。

お気に召さなかったか。

「血が、出てる、、」

お前が殴ったからだろ

「飲んでも、いい」(ちう)

彼女はもう許可を待つことなどせずに僕のくちびるにかみついた

「痛いんですけど」

彼女の匂いもわかる至近距離。果物の匂いがした。

もう僕の言葉は届いていない

というか吸われすぎて意識が遠のいていく、まずい、まずいまずいまずい

「吸いすぎだー」

彼女を思いっきり突き飛ばす。ドーンゴロゴロ、派手な音を出しながら転がっていきゴミ捨て場にゴールイン。うーん30点

「おなか、いっぱい」

「そいつはよかった」

こっちは満身創痍だよ

「お礼に、吸血鬼に、しといた」

そいつはどうも、有難迷惑だから戻してくれるかな?

「それは、むり」

なぜ?

「もどしかた、わかんないから」

その時、今までお面のように仏頂面だった彼女は少しだけ笑顔になっていた。こいつ腹いっぱいになって喜んでやがる

「それじゃあ困るんだよ、こっちは明日も朝練で太陽を浴びなきゃならないんだ、まだ灰になりたくない」

「いまどき、太陽じゃ、死なない」

えっ、そうなの

「私たち、だって、進化する」

へー、そうなんだ

「内臓だけは、灰にならない」

ダメじゃねーか

「死には、しない」

そういうことじゃねーよ

「もんく、いわないで」

ふくれっ面をされてしまった。

いや、そういわれても、こっちとしてもまだ人間でいたいし、色々制約があるのは不便なんなよなぁ

「じゃあ、これ、あげる」

彼女は懐から、といってもTシャツ一枚しか着ていないのだけれど、大きいとは言えない胸のあたりから黒い布を取り出した。

日傘だ、これ

「あなたは、とくべつ、死にかけの、わたしを、すくった」

ふーん、まあ、これが彼女なりの恩返しというのならいただいておくか、明日から日傘登校か、きついな。

「じゃあ、わたしは、帰る」

おう、そうかい、また会えたらまた会おうな

「うん」

彼女は折れかけの翼を精一杯広げて満天の星空にむかって、飛べなかった

そりゃそうだ折れかけだもんねその羽、というか片方はもう折れっちゃってるしね

「・・・飛べない」(グスン)

泣くなよ。

「帰れない、おうちに一生、かえれない」(チラッ)

いや、いきなり俳句勝負仕掛けられても下の句なんて思いつかないって

「(・д・)チッ」

なんだこいつ

「でも、とべなかったら、本当に、帰れない、このままじゃ、内臓だけになっちゃう」

それはマジでいやだな、本当にいやだ

、、、はぁ、仕方がない。

彼女の腰に手をまわし抱え上げる、血を吸われてる最中に生えてきた翼を広げて一気

にジャンプ

視界が一気に開けて都会のきらびやかな街並みが絨毯に変わる。

ていうか見られてない?大丈夫?うん、まあ大丈夫そうかな

案外うまくいくもんだね、うん

「家はあっちの、方」

こいつなんのリアクションもしないんだな、肝が据わってやがる

あっちって指を刺されても空の飛び方なんてわかんないんですけど

「そこは、気合で」

ふざけんな

「あそこの、マンションの、最上階」

こいつ、めちゃくちゃ金持ちだ。丁寧に扱っとこ

ベランダに降り立ち、窓から中を確認、誰もいない

「そんなこと、しなくても、ここには、私しか、住んでない」

ほーん、幼いのに一人暮らしか、吸血鬼の文化かな

下を向いていた彼女は少しだけ悲しそうに

「私の、親は、吸血鬼に、殺された、私だけ、吸血鬼にされて、生きてる」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「冗談」

ぶっ殺すぞ

僕たちは窓を開けて中に入った

・・・いや、中に入る必要はないのか、こいつを家に送り届けたんだし。帰るか

Uターンして外に出る

「え、帰るの?」

腕をつかまれた。

こういうときって手じゃない?普通

というのはこの際野暮な考えだったのかもしれない

「なんで成長してんの?お前」

僕の腕に巻き付いていたのは先ほどの幼女ではなくピッチピチのJKだった

「もう帰んの~?うち泊まっていきなよ~夜も遅いし」

夜遅くまで引き留めたのは間違えなくお前なんだけれど、そんなことはこの際どうだっていい。なにかまずい気がする、とてつもなく面倒なことが起こる気がする。逃げなければ、そうだ、今の僕には羽があるんだ。

思うが早いか思いっきり足を踏ん張った


あれ?


「むだ、あなたはもう、とべない」

振り返ると相も変わらず僕の腕に巻きつくJKの後ろからさっきの幼女が顔を出した

なんで?

「そりゃあ初心者くん、初めてなのにこんなに飛んだりなんかしたら筋肉痛で羽動かなくなるっしょ」

結構現実的なんすね

てっきりなんか魔法使われたとかそんな感じのメルヘンなのかと思っちゃったよ

「ウケる、意外と考えかたキッショいね」

JKのディスリはちゃんと心にささるな、見た感じ同い年なのに。

「まあとりあえず入んなよ外寒いし」

言われるがまま、というかそれ以外に選択肢も無さそうなのでお邪魔させてもらっただだっ広い部屋を見渡してみる。すげー天井にシーリングファンがついてるー

「まあ座りなよ」

人をダメにするソファーに身をうずめているJKがリビングの方を指す

お言葉に甘えるか、

かいがいしくも幼女のほうがココアをもって来てくれた。

「ちょっとー私のはー」

JKが幼女を睨んでいる。

「いま、もってくる」

「ったく、早くしなさいよ」

なんでそんな言い方をするんですか

「なんでってそりゃ、自分に自分が命令してんだからどんな言い方しても勝手じゃね」

どうゆこと?

「、、ここから説明すんのかーめんどっ、・・・いい?私たち吸血鬼は人間とは違っていろんな能力を持ってるの、この子もその一ついわゆる分身ね、といってもクローンみたいにおんなじなわけじゃなくて自分の細胞から分裂していって別個体を生み出してる、みたいな」

ふーん、別個体なら自分じゃなくね?

「うるさい」

さっきの腕に巻き付いてきた時とは打って変わって冷ややかな視線がふりそそいだ

ひー怖い

とはいえ、なるほどだからさっき私しか住んでないって言ったわけだ。


「まあそんなことはどうでも良くってさ~」


ソファーにうずめていた体を思いっきり浮かせたかと思うとJKは額がくっつきそうなぐらいまで近づいてきた

「君、いま幾つ?」

「・・17」

「へー、経験は?・・野暮なことは聞くなよ」

「・・・ないです」

「そっかー、一目見た時から思ってたんだけどさぁ、君おいしそうだね」

僕と彼女のあいだにはもうほとんど隙間はなかった。

ぼくが下がれば下がるほど近づいてくる。

とうとう押し倒された。

彼女の細い指が僕の胸をなぞって下に落ちていく。

僕の悪い予感は的中しつつあった

「私さ~、夜な夜な君ぐらいの男の子を捕まえてきて食べてるんだ~、今日のはちょっと予定外だったけどたまにはあの子も役に立つよね、今度からは翼を折って撒き餌さとして使ってあげようかな」

どうしようどうしようどうしようどうしよう

まずいまずいまずいまずい

さっきから試しているがどうも力では対抗できない、言葉が通じるようにも思えないそこに愛はない。

どんどん指は下がっていく。

おへその下までなぞられる、体をひねって対抗してみた

「めずらしいね~君ぐらいの子だとすーぐおとなしくなってやらせてくれるんだけどなぁ、しゃーない、ちょいとごめんよ」

彼女は僕の首筋に顔をうずめると

ぷちっ

肌が破ける音がする

「・・・・・・・・」

やべー体が動かん

う、動けってんだよこのポンコツが動け、動いてくれ、

「アハハッやっとおとなしくなった、一つ教えとくと吸血鬼っていうのは生まれるときに何かしら能力を与えられるの、んで私のは毒ってわけ」

へー、ためになるなー

じゃねーよ、だめじゃん

絶体絶命大ピンチ

「じゃあ、いただきます」


「させない」


刹那、鈍い音が部屋に響き渡る。

目前に迫っていたJKの瞳から光が消えて僕に覆いかぶさる

現れたのは幼女

「立って」

いや毒回ってるから動けないんだけど

「解毒剤、打ってあげる」

そいつはありがたい

なんとか起き上がり完全にのびているJKを見下ろす

何も殺すことはなかっただろうに

「ころして、ない、分身は、分身同士で、ころしあえない、気絶、してるだけ」

まあたしかに息はしてるけど。

「今のうちに、ここを、でてって、ここは、あぶない」

いやまあ確かにここにいると僕の貞操はかなり危険だね

「そういうんじゃ、ない、あいつは、ヤッたあと、相手を、ころすの」

なんて自分勝手な殺人鬼なんだ

「だから、はやく」

とはいっても出口わかんないし

「じゃあ、案内」

幼女はてくてくと歩いていく


マンションのロビー、そこで幼女に別れを告げて僕は帰路に就いた

少しだけ空は明るい

家に着くころには時計は朝の4時を回っていて、そのころには強烈な睡魔に襲われていた。いろいろ考えることは山積みだったのだがもうなんかどうでもよくなったのでベットに入って、明日は学校をさぼる覚悟で眠りについた。

 どうか今日あったことが夢であるようにと神に祈りながら



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