第16話 十六歳②

「楽しかったわ~!!今日の晩御飯はお魚にしましょう!!!!」

「刺身…鯛めし…鯛茶漬けもいいですね…」

「…二人とも純粋に楽しんでくれたみたいで何よりです…」


 二人の脳内が別の意味で魚でいっぱいになったところで、お土産エリアへと移る。

 可愛いお菓子、壁一面に並べられた魚や動物のぬいぐるみ。

 ソフィアがある場所で立ち止まり、一点を見つめる。


「何か欲しいのあった?」


 知花がその視線を追う先にあったのは、ジンベイザメのジンちゃんを模したぬいぐるみ。

 しかもでかい。


「大きいわ…!」

「わぁ…私の身長と同じくらいある…」


 知花はそのジンベイザメのぬいぐるみを取ると、ソフィアへと渡す。

 案の定、抱き抱えるとソフィアの頭からひょっこりと、間抜けで可愛いジンベイザメの顔が見える。


「もふもふするわ…これと一緒に寝たい…」


 確かに伸縮性のある生地に少しひんやりとする表面、綿の具合ももっちりしていていい感じである。

 知花はくるりと後ろで待っているであろう人物を見る。

 その人物も、これには手を頭に当て、青い顔をしている。


「イケメンが、可愛いぬいぐるみを抱えている姿が見たいなぁ!!」

「…大人しく買うので、そんなお願いの仕方はやめてください」


 ソフィアからひょいっとジンちゃんを奪うと、脇に抱えたままレジへと向かう。

 その姿を見て、知花はくすくすと笑った。


「今日のヒューズは優しいわ!いつもだったら『いっぱい持ってるから駄目です』っていうのに!きっと知花のお願いの仕方が可愛かったからね!」

「いや…ソフィアちゃんの誕生日だからだと思う…」


 保護者が板につき過ぎているヒューズが、やがて会計を終え戻って来た。


「さぁ、帰りますよ。急いで帰らないと、私の腕が足りなくなります」

「待って、駅まで私が抱っこして持っていくわ!」

「落とさないでくださいよ?」


 ヒューズがソフィアにジンちゃんを手渡すと、顔を埋めるように抱きしめる。


「…二人ともありがとう…!今まで沢山の人にお祝いしてもらったけど、いつもパーティーばかりでつまらなかったの。だって、皆、挨拶はしてくれるけど、その後はずっと一人ぼっちだったから」


 ジンちゃんの顔の横から、ソフィアが顔を覗かせる。


「今日の為に選んでくれた服、見たことのない海の中、そして、貴方達といっぱい話せて笑い合えて、とても楽しかった。素敵な思い出になったわ…!ありがとう!」


 可憐な花が蕾から一気に咲き誇る。

 そんな笑顔を見た時、心さえも温かくなり自然と頬が緩むのだと知った。


 今日はソフィアの誕生日だが、知花も存分に楽しんだ。


(今、毎日がとっても楽しいのは、二人が居てくれてるお陰だ)


 最初はどうなるかと思った三人暮らしだけれど、大分板についてきたと思う。

 可愛くてちょっと小生意気なお姫様と、口数は少ないけれど意外と分かりやすい騎士様。


 今の自分はこんな日々がずっと続けばいいと思っている。


(だからこそー…)


「…また一緒に、来ようね!」


 いつか訪れるこの日々の終わりまで、この尊い日々を大事にしていくのだ。

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