紅蓮の炎でも初恋の向日葵は燃やせない~王宮警吏になった没落令嬢、同期のエセ王子に捕まりました~
千賀春里
第1話 捕り物
「そっちに行ったぞ!」
あちこちから警笛が鳴り、異常事態を知らせていた。
暗闇を駆ける複数の足音が狭い路地の壁に反響する。
『あー、こちら中央三班、主犯格と思われる男三名確保』
『こちら王宮二班、残り一名は東大通り方面に逃走中。なお、言語術に長け、風の素質魔術が使える模様。中央に負傷者二名、命に別状なし、軽傷』
耳に取り付けられた小型無線機に微かな雑音と共に聞こえてくるのは今回の任務の終幕の足音だ。
「ウォーマン、あっちは誰がいる?」
見晴らしの良い建造物の屋上で夜の街を見下ろしながら、首に蛇を巻き付けた王宮警羅隊第二部隊隊長、ベネギル・グレンジャーは隣に控える長身の青年に問い掛けた。
蛇はベネギルの首に緩く巻き付き、頭を持ち上げて身体を伸ばし、主と同じ目線で夜の街を見渡している。
街に規則的に並んだ街灯の他に街を照らすのは淡い月明かりのみ。
深い闇の中に紛れ込もうと必死な者達を捕えるにはこれらの光だけでは心もとない。
長身の青年は掛けている眼鏡を外し、夜の街を見渡した。
冷たい風が頬を撫でてクセのあるダークブラウンの髪を揺らす。
「ターゲットの進行方向にシフォンバーク、後方にテルードが追っています」
その言葉にベネギルは街の景色に背を向けた。
「心配なら行っても構わんぞ」
「必要ないでしょう」
ベネギルの言葉に柔らかい笑みを浮かべて青年は答える。
「諸君、撤収の準備だ」
ベネギルがその場にいる中央警吏の隊員達にそう告げると長身の青年は襟に付けられた小型無線機のマイクを口元に引き寄せた。
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