うちの子たちの色々

漢の兄貴

美味しくできました

「、、、おかえり」

あれ?これ怒ってる?

カナデ先輩があからさまに機嫌が悪い。いつもだったらこんな風にわかりやすくではなく、機嫌が悪いのを誤魔化しているのに今日は違うようだ。

「えーと、、カナデ先輩、、、怒ってます?」

とりあえず聞いてみる。でもまぁどうせ

「怒ってねぇよ」

やっぱりね。怒ってるか聞くと決まって怒ってないって言う。そこが彼女の女の子らしいところでもある。

「カナデ先輩、今日私がご飯作りますよ。いつもやらせちゃってるし」

機嫌を取るつもりで提案してみる。

「お前の飯不味いからやめろ。あと作りたくて作ってるから変な気遣いするな。お前らしくない」

だいぶ辛辣な言葉が帰ってきてしまった。どうすれば機嫌がとりもどせるのだろうか、、

「もう眠いから寝る」

いつも12時までは起きているカナデ先輩がまだ9時なのに寝室に行ってしまった。

リビングで砂糖とミルクをダバダバ入れて、若干とろみのついたコーヒーを飲みながら色々考えてみた。

何も浮かばなかった。

朝になった。ベッドから起きてリビングに向かう。リビングにはいつものようにカナデ先輩がコーヒーを淹れている。

「おはようございます。カナデ先輩」

「おう、おはよ。ちょっと待ってなもうすぐ淹れ終わるから」

コポコポと音を立てて注がれるコーヒー。私が好きなトーストにしていない食パンと付け合わせのベーコン、そして、、、いつもより一層黒いコーヒー。私はブラックのコーヒーが飲めないのだ。先輩は私がブラックを飲めないことを知っているはず。そろりと目を動かしてカナデ先輩の方に向けた。

「.....」

いつもすることのないような笑顔だった。

「砂糖もらっていい?」

「飲め」

どうやらこのまま飲めと言うことらしい。

大きめのカップのハンドルに指を絡ませ、縁に口をつける。黒々とした、苦い液体が喉の奥に押し込まれていく。とても不味そうな顔をしていると思う。実際不味いのだから仕方ないであろう。

「、、、しゃーねーなぁ」

カナデ先輩は頭を掻きながらこちらに近づいてきて、口に角砂糖を二つ放り入れ

「んぇっ」

口移しされた。カナデ先輩の舌が私の内頬を舐り、たまに緩く吸ってぼんやりと残った苦さを取り去った。

「粋なことしますね」

「うっせ。・・・私がなんで機嫌悪かったかわかったかよ」

「朝、外出る時に行ってきますを忘れたこと?」

「違う。」

「朝ごはん少し残したこと?」

「違う。」

「じゃあ、これか。」

腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。柔軟剤の香りと先輩の香水の香りが混ざり合って脳を小突く。

「正解。」

柔らかい手つきで私の頭を撫でる。ぬるい手の温度が髪を伝い、皮膚を通り抜け、骨に染みる。

「朝ごはん、今日なんですか?」

「焼いたベーコンと甘ったるい焼いてない食パン」

「そうですか。じゃあ今日は残さないようにしますね」

「あっそ」

腰に回していた腕を緩め、離れた。

二人でパンに噛みつきカリッと音を響かせる。

そして私を写している黒いコーヒーを不味そうに啜った。

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